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第三章:夫 x 夫 x 夫(2)
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ユージーンは城門の前で討伐に赴いた者たちに激励の言葉をかけた。それから早く家族のもとに帰るように促す。後日、彼らの家族を呼び、帰還パーティーをしようと声をあげた。彼らに今必要なのは、家族と共にいる時間、休息なのだ。
そこで魔獣討伐団は解散となった。全員がその場から帰ったのを見届けたユージーンは、自身も身体を休めるために城のエントランスへと足を踏み入れた。
二ヶ月ぶりの城は、やはり懐かしいと思う。
「ただいま帰った」
エントランスに入った途端、視界に飛び込んできたのは見知らぬ女性だった。藍色のエプロンドレスをまとい、空色の髪は高い位置で一つに結わえている。紫紺の瞳はしっかりとユージーンを見つめていた。
「……あ。お帰りなさいませ、旦那様」
そう声をかけてきた彼女から、なぜかユージーンは目が離せなかった。いや、目が離せない理由ははっきりとしている。
彼女は両手に蛇を持っていた。蛇の頭をがしっと鷲づかみにしているのだが、片手に一匹ずつ、つまり、計二匹。
(な、なんだこの女性は……)
びりっと全身に動揺が走った。魔獣と対峙したときとも緊張するが、今は、それとは違う種類の緊張がある。
「あっ」
慌てたように彼女は手にしているものを背中に隠す。けれどもにょろっと胴体の長い蛇は、背中に隠してもプランプランと尻尾が見えていた。
しかもあの蛇は毒を持つ蛇である。つまり、毒蛇。裏の森でよく見かけた蛇だから、ユージーンもすぐにわかった。さらに、あの毒蛇は、間違いなく死んでおり、今もプランプランと重力に従って揺れている。
「お初にお目にかかります。クラリス・ベネノ……ではなく、クラリス・ウォルターです」
毒蛇を背に隠したままの彼女はスカートの裾をつまめないため、その場で腰を折った。
「あ、あぁ……ただいま帰った。俺がユージーン・ウォルター。おそらく、君の夫かと……」
「ユージーン様、お帰りなさいませ」
慌てた様子でネイサンが姿を現した。
「お疲れでございますよね。お帰りになられると聞いておりましたので、湯浴みの準備も整っております。お食事もすぐにとれますが?」
まるでネイサンのほうが、妻のようにかいがいしく世話を焼いてくる。
それでもユージーンはクラリスの姿に釘付けであった。
彼女を一目見た瞬間、心臓をぐわっと力強く握りしめられたような、変な衝撃が走った。その心臓は今、激しく音を立てて動いている。
驚き、目を見開いたままのクラリスは、ユージーンを凝視していた。
「奥様も着替えましょう。ですが、先にその手にされているものを片づけてきたほうがよろしいかと思います。メイかアニーを呼びましょうか?」
「え、えぇ……お願い」
「あ、ユージーン様。上着をお預かりします。ですが、奥様の蛇は、残念ながら僕は預かることができません」
「そうね」
「いくらメイやアニーであっても、その蛇は奥様しか扱えませんので、責任をもって片づけて、着替えをしてからいらしてください」
彼女はひどく動揺していた。それがユージーンにもひしひしと伝わってきた。
すぐさまアニーがやってきて、クラリスを連れていく。
それよりも蛇だ。両手に蛇を持って夫を出迎える妻がこの世にいるだろうか。まして二匹も。よりによってあれは毒蛇である。
「ユージーン様。どうされましたか?」
上着を預かったネイサンが、不審そうにユージーンを見つめている。
「今の女性が、俺の妻か?」
そうであってほしいという願いが、心のどこかにあった。この気持ちは、いったいなんなのか。
「はい、そうです。手紙でもお伝えしましたが、ばっちりと結婚誓約書にサインをいただき、陛下からの証人のサインが入った控えもあります。ですから正真正銘、ユージーン様の奥様でございます。まぁ、書類上の話ですが」
やはり今の女性はユージーンの結婚相手で間違いはないようだ。
これほど衝撃的な出会いが、今まであっただろうか。
――否。
「ネイサン……俺は、彼女に惚れた……」
そこで魔獣討伐団は解散となった。全員がその場から帰ったのを見届けたユージーンは、自身も身体を休めるために城のエントランスへと足を踏み入れた。
二ヶ月ぶりの城は、やはり懐かしいと思う。
「ただいま帰った」
エントランスに入った途端、視界に飛び込んできたのは見知らぬ女性だった。藍色のエプロンドレスをまとい、空色の髪は高い位置で一つに結わえている。紫紺の瞳はしっかりとユージーンを見つめていた。
「……あ。お帰りなさいませ、旦那様」
そう声をかけてきた彼女から、なぜかユージーンは目が離せなかった。いや、目が離せない理由ははっきりとしている。
彼女は両手に蛇を持っていた。蛇の頭をがしっと鷲づかみにしているのだが、片手に一匹ずつ、つまり、計二匹。
(な、なんだこの女性は……)
びりっと全身に動揺が走った。魔獣と対峙したときとも緊張するが、今は、それとは違う種類の緊張がある。
「あっ」
慌てたように彼女は手にしているものを背中に隠す。けれどもにょろっと胴体の長い蛇は、背中に隠してもプランプランと尻尾が見えていた。
しかもあの蛇は毒を持つ蛇である。つまり、毒蛇。裏の森でよく見かけた蛇だから、ユージーンもすぐにわかった。さらに、あの毒蛇は、間違いなく死んでおり、今もプランプランと重力に従って揺れている。
「お初にお目にかかります。クラリス・ベネノ……ではなく、クラリス・ウォルターです」
毒蛇を背に隠したままの彼女はスカートの裾をつまめないため、その場で腰を折った。
「あ、あぁ……ただいま帰った。俺がユージーン・ウォルター。おそらく、君の夫かと……」
「ユージーン様、お帰りなさいませ」
慌てた様子でネイサンが姿を現した。
「お疲れでございますよね。お帰りになられると聞いておりましたので、湯浴みの準備も整っております。お食事もすぐにとれますが?」
まるでネイサンのほうが、妻のようにかいがいしく世話を焼いてくる。
それでもユージーンはクラリスの姿に釘付けであった。
彼女を一目見た瞬間、心臓をぐわっと力強く握りしめられたような、変な衝撃が走った。その心臓は今、激しく音を立てて動いている。
驚き、目を見開いたままのクラリスは、ユージーンを凝視していた。
「奥様も着替えましょう。ですが、先にその手にされているものを片づけてきたほうがよろしいかと思います。メイかアニーを呼びましょうか?」
「え、えぇ……お願い」
「あ、ユージーン様。上着をお預かりします。ですが、奥様の蛇は、残念ながら僕は預かることができません」
「そうね」
「いくらメイやアニーであっても、その蛇は奥様しか扱えませんので、責任をもって片づけて、着替えをしてからいらしてください」
彼女はひどく動揺していた。それがユージーンにもひしひしと伝わってきた。
すぐさまアニーがやってきて、クラリスを連れていく。
それよりも蛇だ。両手に蛇を持って夫を出迎える妻がこの世にいるだろうか。まして二匹も。よりによってあれは毒蛇である。
「ユージーン様。どうされましたか?」
上着を預かったネイサンが、不審そうにユージーンを見つめている。
「今の女性が、俺の妻か?」
そうであってほしいという願いが、心のどこかにあった。この気持ちは、いったいなんなのか。
「はい、そうです。手紙でもお伝えしましたが、ばっちりと結婚誓約書にサインをいただき、陛下からの証人のサインが入った控えもあります。ですから正真正銘、ユージーン様の奥様でございます。まぁ、書類上の話ですが」
やはり今の女性はユージーンの結婚相手で間違いはないようだ。
これほど衝撃的な出会いが、今まであっただろうか。
――否。
「ネイサン……俺は、彼女に惚れた……」
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