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第二章:毒女 x 毒女 x 毒女(9)
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「そうです、そうです。毒を持つ蛇は、滋養にいいとも言われておりまして。お酒なんかもありますよね」
毒蛇を酒につける蛇酒なるものは存在する。その場合は、蛇に食べ物を与えずに、蛇の体内をきれいにする必要があるため、すでに蛇を虫の息にしている今は、手順が異なっている。
「先ほども言いましたように、わたくし、表向きは薬師として王城におりましたから」
ネイサンの目つきは怖いが、ここでその視線から逃げたら負けだ。
「わかりました。奥様は薬師としてその毒蛇を利用したいと、そういうことですね?」
「そ、そうです。わかっていただけて嬉しいです」
クラリスは、ほっと胸をなでおろした。嘘はついていない。
「ですが、奥様。危険なことはなさらないようにお願いします。今だって、奥様が素手で毒蛇を捕まえて、僕は肝が冷えましたよ。奥様に何かあったら、ユージーン様に会わせる顔がありませんから」
どうやらネイサンは、純粋にクラリスを心配していただけのようだ。
「で、では。温室に戻りますね」
温室へと戻るクラリスの足取りはぎこちない。
「奥様!」
ネイサンが声を張り上げた。
「くれぐれも、くれぐれも。森の奥には入らないよう、お願いいたします」
「どうして、ですか?」
ネイサンから逃げるようにして温室へ向かおうとしていたクラリスであったが、裏の森の魅力に負けた。あそこはクラリスにとっては宝物が眠るような場所である。
それなのにネイサンは、そこへ行っては駄目だと言う。
「危険だからです。奥様はまだウォルター領をよく知らないでしょう?」
その言葉に否定はしない。ウォルター領といえば、東の国境にある領地。魔獣や他国の侵略からホラン国を守っている重要な場所。その程度の知識しかない。
「ウォルター領の周辺には魔獣がよく出ます。そのせいか、植物や生き物も強くなりました」
「強くなる?」
魔獣に対して耐性をつけたということだろうか。だが、どうやって?
「魔獣から身を守るようにと植物や生き物たちが、毒をため込むようになったのです。それを食べた魔獣が苦しむように、そうなったのではないかと言われております。ですが、その毒を取り込んだら苦しむのは人間も同じです。ですから裏の森には、毒性を持つ生物や植物が多く存在しているのです」
ネイサンが淡々と説明するのは、クラリスに恐怖心を与えないようにという配慮のためだろう。
それに、温室を他の場所に準備すると言っていたのもこれが原因にちがいない。
「ネイサン。教えてくれてありがとうございます」
クラリスが理解を示したことに、ネイサンの強張った表情がやっとゆるんだ。
「ですが、わたくしは先ほども申し上げましたように、薬師です。薬師であれば、毒性の植物や生物は魅力的なものです。だから、裏の森に入らせてください」
「奥様。今の僕の話を聞いていました?」
「はい。もちろんです。裏の森には毒が豊富だという話ですよね?」
「ですから、危険なのです」
「危険なのは、その毒を知らないからです。何度も言いますが、わたくしは表向きは薬師です。薬師ですから、毒の扱い方はよく理解しております。お願いです、裏の森へ行かせてください」
クラリスが蛇を抱えたままネイサンに一歩詰め寄ると、ネイサンは一歩退く。
「お願いです。森の中に入らせてください」
クラリスが一歩近づき、ネイサンは一歩下がる。二人の距離は縮まるようで縮まらない。
だが、先に根をあげたのはネイサンだった。
「わ、わかりました。僕では判断できませんので、ユージーン様に確認します。ただ、裏の森には入らないよう、ウォルター領の者にはきつく言い聞かせてあるのです。あそこが危ないことを、皆、知っておりますから」
「はい。わかりました。わたくしも許可なく入るようなことはいたしません。旦那様から許可がおりたら」
「ですから、ユージーン様の許可がおりるまでは、けして入らないようにお願いします」
クラリスはにっこりと微笑んで「はい」と明るく返事をした。
毒蛇を酒につける蛇酒なるものは存在する。その場合は、蛇に食べ物を与えずに、蛇の体内をきれいにする必要があるため、すでに蛇を虫の息にしている今は、手順が異なっている。
「先ほども言いましたように、わたくし、表向きは薬師として王城におりましたから」
ネイサンの目つきは怖いが、ここでその視線から逃げたら負けだ。
「わかりました。奥様は薬師としてその毒蛇を利用したいと、そういうことですね?」
「そ、そうです。わかっていただけて嬉しいです」
クラリスは、ほっと胸をなでおろした。嘘はついていない。
「ですが、奥様。危険なことはなさらないようにお願いします。今だって、奥様が素手で毒蛇を捕まえて、僕は肝が冷えましたよ。奥様に何かあったら、ユージーン様に会わせる顔がありませんから」
どうやらネイサンは、純粋にクラリスを心配していただけのようだ。
「で、では。温室に戻りますね」
温室へと戻るクラリスの足取りはぎこちない。
「奥様!」
ネイサンが声を張り上げた。
「くれぐれも、くれぐれも。森の奥には入らないよう、お願いいたします」
「どうして、ですか?」
ネイサンから逃げるようにして温室へ向かおうとしていたクラリスであったが、裏の森の魅力に負けた。あそこはクラリスにとっては宝物が眠るような場所である。
それなのにネイサンは、そこへ行っては駄目だと言う。
「危険だからです。奥様はまだウォルター領をよく知らないでしょう?」
その言葉に否定はしない。ウォルター領といえば、東の国境にある領地。魔獣や他国の侵略からホラン国を守っている重要な場所。その程度の知識しかない。
「ウォルター領の周辺には魔獣がよく出ます。そのせいか、植物や生き物も強くなりました」
「強くなる?」
魔獣に対して耐性をつけたということだろうか。だが、どうやって?
「魔獣から身を守るようにと植物や生き物たちが、毒をため込むようになったのです。それを食べた魔獣が苦しむように、そうなったのではないかと言われております。ですが、その毒を取り込んだら苦しむのは人間も同じです。ですから裏の森には、毒性を持つ生物や植物が多く存在しているのです」
ネイサンが淡々と説明するのは、クラリスに恐怖心を与えないようにという配慮のためだろう。
それに、温室を他の場所に準備すると言っていたのもこれが原因にちがいない。
「ネイサン。教えてくれてありがとうございます」
クラリスが理解を示したことに、ネイサンの強張った表情がやっとゆるんだ。
「ですが、わたくしは先ほども申し上げましたように、薬師です。薬師であれば、毒性の植物や生物は魅力的なものです。だから、裏の森に入らせてください」
「奥様。今の僕の話を聞いていました?」
「はい。もちろんです。裏の森には毒が豊富だという話ですよね?」
「ですから、危険なのです」
「危険なのは、その毒を知らないからです。何度も言いますが、わたくしは表向きは薬師です。薬師ですから、毒の扱い方はよく理解しております。お願いです、裏の森へ行かせてください」
クラリスが蛇を抱えたままネイサンに一歩詰め寄ると、ネイサンは一歩退く。
「お願いです。森の中に入らせてください」
クラリスが一歩近づき、ネイサンは一歩下がる。二人の距離は縮まるようで縮まらない。
だが、先に根をあげたのはネイサンだった。
「わ、わかりました。僕では判断できませんので、ユージーン様に確認します。ただ、裏の森には入らないよう、ウォルター領の者にはきつく言い聞かせてあるのです。あそこが危ないことを、皆、知っておりますから」
「はい。わかりました。わたくしも許可なく入るようなことはいたしません。旦那様から許可がおりたら」
「ですから、ユージーン様の許可がおりるまでは、けして入らないようにお願いします」
クラリスはにっこりと微笑んで「はい」と明るく返事をした。
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