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第二章:毒女 x 毒女 x 毒女(8)
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「あ、はい。メイドのリサです」
「そう。リサは蛇に噛まれていませんね?」
「はい。エイベルが助けてくれたから、大丈夫です。あ、私、仕事の途中でしたので……」
落ち着きを取り戻したリサは、なんとか立ち上がる。
「地下にいたのも、お仕事のためかしら?」
「はい。奥様が来られたので、料理長が腕によりをかけて夕食を準備されるとのことで、その材料をとりに……あ、奥様には内緒でと言われていたのに……」
「気にしないでリサ。わたくしは何も聞いておりませんよ」
クラリスが口の前で右手の人差し指を立てて「内緒よ」と合図を送れば、リサの顔もみるみるうちに赤くなる。
「あまり遅くなると、料理長も気をもむと思うので戻ります。エイベル、ありがとう」
「お、おう」
リサがすたすたと城館へと戻っていくと、エイベルもやっと立ち上がった。
「奥様。本当にありがとうございました」
深く頭を下げたエイベルも、リサの後を追うようにして戻っていく。
「メイもありがとう。あなたも戻っていいわよ」
「まさか、ここに来て早々、毒蛇を捕まえるとは。さすがクラリス様ですね」
メイは、拳を小さく胸の前で握りしめる。
そんなやりとりをネイサンが不審な目で見つめてくる。
しかしクラリスは動じない。
「わたくしは温室にいるから、何かあったら呼びに来てちょうだい」
「わかりました。では、私もお部屋のほうに戻ります。荷物の整理がまだ終わっておりませんので」
そう言ってメイまで部屋に戻ったのであれば、青空の下に残されたのはクラリスとネイサンの二人きり。
クラリスは蛇を入れた瓶を手にして、この場からそそくさと立ち去ろうとした。
「……奥様」
「は、はひっ」
「どちらへ行かれるのですか? 毒蛇を持って」
「あ、温室に戻ろうかと思っております。せっかく温室を用意していただきましたし、植えたいものがありまして……は、はははは……」
最後は乾いた笑いで誤魔化してみたが、ネイサンの目が怖い。
「奥様、僕の質問に答えていただきたいのですが」
「え、えぇ……答えられる範囲でお答えします」
二年間の付き合いだからこそ、必要最小限の付き合いにしようと思っていた。それなのに、初日からこんなことになるとは予想外である。
すべてはこの毒蛇が悪い。
「奥様は毒蛇に慣れていらっしゃるようですが?」
「わたくしは、王城で薬師として働いておりましたので、毒蛇などにも慣れております。他にも毒を持つ植物や小動物、虫などもよく手にしておりましたので」
「……ですが、僕の知っている薬師の中には、素手で毒蛇を捕らえるような人はいないんですよね」
「まあ、そうなのですね。慣れると簡単ですよ?」
クラリスは首を傾げて極上の笑みを浮かべてみた。たいてい、これで誤魔化せるのだが、ネイサンはそうでもないようだ。やはり目が怖い。
「なるほど。奥様が毒蛇に慣れていらっしゃるということがよくわかりました。もう一つの質問です」
まだ、あるの! と叫びたくなったクラリスだが、その言葉を呑み込んだ。
「な、なんでしょう?」
代わりに放った言葉はそれだったが、クラリスの心臓はドキドキと高鳴っている。ネイサンに何を言われるのか。
「奥様は、その毒蛇をどうするおつもりですか?」
「ドキ」
心の中で叫ぶはずだった言葉が、口に出た。それだけクラリスは動揺していた。心臓は先ほどよりも倍以上の早さで動いている。
「え、ええと、そう。裏の森に逃がそうと思っていたところです」
「ですが奥様。瓶の蓋をきつくしめましたよね? それでは蛇は死んでしまいます。逃がすのであれば、蓋をゆるめておきますよね」
ネイサンはなかなか鋭い観察眼の持ち主のようだ。
そもそもクラリスは蛇の動きを鈍くさせるために、瓶の蓋をきつくしめた。だからこのまま放っておけば、蛇は死ぬ。
「奥様!」
ネイサンが一歩近づいてきたので、クラリスは蛇を抱えたまま一歩下がる。
「その蛇をどうするおつもりですか!」
ネイサンがまた一歩近づく。
クラリスは必死で言い訳を考えた。本当のことを言っていいのかどうかがわからない。アルバートはユージーンに何を伝えたのか。ユージーンはどこまでネイサンに伝えているのか。
「実は、逃がすというのは嘘です。く、薬を作るのです。わたくし、薬師ですから」
恐らく、この答えが無難だろう。
「薬ですか? 毒蛇で?」
「そう。リサは蛇に噛まれていませんね?」
「はい。エイベルが助けてくれたから、大丈夫です。あ、私、仕事の途中でしたので……」
落ち着きを取り戻したリサは、なんとか立ち上がる。
「地下にいたのも、お仕事のためかしら?」
「はい。奥様が来られたので、料理長が腕によりをかけて夕食を準備されるとのことで、その材料をとりに……あ、奥様には内緒でと言われていたのに……」
「気にしないでリサ。わたくしは何も聞いておりませんよ」
クラリスが口の前で右手の人差し指を立てて「内緒よ」と合図を送れば、リサの顔もみるみるうちに赤くなる。
「あまり遅くなると、料理長も気をもむと思うので戻ります。エイベル、ありがとう」
「お、おう」
リサがすたすたと城館へと戻っていくと、エイベルもやっと立ち上がった。
「奥様。本当にありがとうございました」
深く頭を下げたエイベルも、リサの後を追うようにして戻っていく。
「メイもありがとう。あなたも戻っていいわよ」
「まさか、ここに来て早々、毒蛇を捕まえるとは。さすがクラリス様ですね」
メイは、拳を小さく胸の前で握りしめる。
そんなやりとりをネイサンが不審な目で見つめてくる。
しかしクラリスは動じない。
「わたくしは温室にいるから、何かあったら呼びに来てちょうだい」
「わかりました。では、私もお部屋のほうに戻ります。荷物の整理がまだ終わっておりませんので」
そう言ってメイまで部屋に戻ったのであれば、青空の下に残されたのはクラリスとネイサンの二人きり。
クラリスは蛇を入れた瓶を手にして、この場からそそくさと立ち去ろうとした。
「……奥様」
「は、はひっ」
「どちらへ行かれるのですか? 毒蛇を持って」
「あ、温室に戻ろうかと思っております。せっかく温室を用意していただきましたし、植えたいものがありまして……は、はははは……」
最後は乾いた笑いで誤魔化してみたが、ネイサンの目が怖い。
「奥様、僕の質問に答えていただきたいのですが」
「え、えぇ……答えられる範囲でお答えします」
二年間の付き合いだからこそ、必要最小限の付き合いにしようと思っていた。それなのに、初日からこんなことになるとは予想外である。
すべてはこの毒蛇が悪い。
「奥様は毒蛇に慣れていらっしゃるようですが?」
「わたくしは、王城で薬師として働いておりましたので、毒蛇などにも慣れております。他にも毒を持つ植物や小動物、虫などもよく手にしておりましたので」
「……ですが、僕の知っている薬師の中には、素手で毒蛇を捕らえるような人はいないんですよね」
「まあ、そうなのですね。慣れると簡単ですよ?」
クラリスは首を傾げて極上の笑みを浮かべてみた。たいてい、これで誤魔化せるのだが、ネイサンはそうでもないようだ。やはり目が怖い。
「なるほど。奥様が毒蛇に慣れていらっしゃるということがよくわかりました。もう一つの質問です」
まだ、あるの! と叫びたくなったクラリスだが、その言葉を呑み込んだ。
「な、なんでしょう?」
代わりに放った言葉はそれだったが、クラリスの心臓はドキドキと高鳴っている。ネイサンに何を言われるのか。
「奥様は、その毒蛇をどうするおつもりですか?」
「ドキ」
心の中で叫ぶはずだった言葉が、口に出た。それだけクラリスは動揺していた。心臓は先ほどよりも倍以上の早さで動いている。
「え、ええと、そう。裏の森に逃がそうと思っていたところです」
「ですが奥様。瓶の蓋をきつくしめましたよね? それでは蛇は死んでしまいます。逃がすのであれば、蓋をゆるめておきますよね」
ネイサンはなかなか鋭い観察眼の持ち主のようだ。
そもそもクラリスは蛇の動きを鈍くさせるために、瓶の蓋をきつくしめた。だからこのまま放っておけば、蛇は死ぬ。
「奥様!」
ネイサンが一歩近づいてきたので、クラリスは蛇を抱えたまま一歩下がる。
「その蛇をどうするおつもりですか!」
ネイサンがまた一歩近づく。
クラリスは必死で言い訳を考えた。本当のことを言っていいのかどうかがわからない。アルバートはユージーンに何を伝えたのか。ユージーンはどこまでネイサンに伝えているのか。
「実は、逃がすというのは嘘です。く、薬を作るのです。わたくし、薬師ですから」
恐らく、この答えが無難だろう。
「薬ですか? 毒蛇で?」
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