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第二章:毒女 x 毒女 x 毒女(3)
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「そうよ。国境の辺境だから、騎士団とは別に魔獣討伐団があるのよ。私兵を募って作られたと聞いているわ。たしか、先々代の辺境伯だったかしら? 今では国としても魔獣討伐団を認めておりますけれど」
「つまり、それだけ魔獣が身近にいるってことなんですよね」
メイの言葉にはっとする。
クラリスは今まで魔獣とは無縁の生活を送ってきた。王都に魔獣が現れないのは、ユージーンたちがしっかりと魔獣を食い止めているからだ。
魔獣が人の住む場所近くに現れたと聞けば、すぐに討伐に向かっているらしい。だから王都に入り込む前に、魔獣は倒される。
「そうなんでしょうね。王都はいろいろなところから守られていた場所よね」
だからこそ、王都で怖いのは魔獣より人間であった。アルバートの腰巾着とも周囲から言われるくらい、彼にくっついていたクラリスだからこそ、その怖さを身をもって知った。
「王都での生活のようにいかないことも多々あるかもしれないけれど、たった二年間ですもの。それに、ウォルター伯はわたくしのために温室を準備してくださるそうよ」
「まあ、よかったですね」
たかが温室と思われそうだが、この温室があるとないのとでは、クラリスの生活がガラリと異なる。
「向こうに着いたら、まずは温室に案内してもらわなきゃ。すぐに栽培に取りかかるわね。悪いけれど、メイには荷物の整理をお願いするわ」
「はい」
クラリスにとっても望まぬ結婚であったのに、こうやって前向きに考えられるようになったのも、ユージーンの提案のおかげだろう。そして、文句を言わずについてきてくれたメイがいるからだ。
途中、何度も休憩を挟みながら、ウォルター領に着いたのは、王都を発ってから五日目の昼過ぎであった。また日の高いうちにフラミル城に着いた。
長旅のせいか、馬車から降りた途端、地面がぐらぐらと揺れる感覚があったが、すぐに踏ん張った。
「素敵なところね」
領地に入ったときから真っ直ぐに空へと伸びる白い尖塔が見えた。きっとあそこからこの町を一望できるはず。
周囲を護衛兵によって囲まれたクラリスは、メイと並んでエントランスへと足を踏み入れる。
「お待ちしておりました、クラリス様」
そう言ってクラリスを迎え入れてくれたのは、金髪で身体つきの細い男である。彼がユージーンではないということだけは、クラリスも理解している。
ユージーンは黒髪の男。それはアルバートからもきちんと彼の話を聞いていたからだ。アルバートはよく「あの黒髪を全部引きちぎってやろうかと思っていたよ」と、過去の思い出話をしていた。
「お初にお目にかかります。クラリス・ベネノです」
スカートの裾をつまみ、挨拶をする。
「こちらが侍女のメイ・ロビン。ところで、ウォルター伯はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
「クラリス様もウォルター伯夫人となりますので、どうかユージーン様のことは家名でなく名前でお呼びください。ユージーン様もそれを望まれておりました……あ、自己紹介がまだでした。僕は、ネイサン・ヒルドです。ユージーン様の側近を務めております。そしてこちらが執事のサジェスと侍女頭のアニーです」
ネイサンの言葉に合わせて、初老の男性とふっくらとした女性が頭を下げる。
「クラリス様、お疲れのところ申し訳ありませんが、先にこちらに署名をいただきたく。おそらく彼らはこれを陛下に出さなければならないのではないでしょうか?」
それを聞いた護衛兵たちはうんうんと頷いた。
「ユージーン様は、北西の村に魔獣が現れたという報告を受け、二日前に発ってしまいました」
「まあ。大変ですのね」
「クラリス様にお会いできないことを残念がっておりましたが、これだけは準備しておりましたので」
ネイサンが手渡したのは結婚誓約書である。あとはそこにクラリスの名前を書くだけになっている。承認欄は恐ろしいことに国王の名が入るのだ。そんなことをアルバートが言っていた。
「ですが、ユージーン様は不在なのでしょう? わたくしがこれをビリビリッと破ってしまえば、この結婚は成り立たないのではなくて?」
クラリスの言葉に、控えていた護衛兵がぶるりと身体を震わせる。
「安心してください。もしかしたらクラリス様が緊張のあまり書き損じるかもしれないし、汚すかもしれない。そう思っていたユージーン様は、これをあと九十九枚ほど準備しております」
「でしたら、せっかくなので一枚くらいは破ったほうがよろしいかしら?」
「つまり、それだけ魔獣が身近にいるってことなんですよね」
メイの言葉にはっとする。
クラリスは今まで魔獣とは無縁の生活を送ってきた。王都に魔獣が現れないのは、ユージーンたちがしっかりと魔獣を食い止めているからだ。
魔獣が人の住む場所近くに現れたと聞けば、すぐに討伐に向かっているらしい。だから王都に入り込む前に、魔獣は倒される。
「そうなんでしょうね。王都はいろいろなところから守られていた場所よね」
だからこそ、王都で怖いのは魔獣より人間であった。アルバートの腰巾着とも周囲から言われるくらい、彼にくっついていたクラリスだからこそ、その怖さを身をもって知った。
「王都での生活のようにいかないことも多々あるかもしれないけれど、たった二年間ですもの。それに、ウォルター伯はわたくしのために温室を準備してくださるそうよ」
「まあ、よかったですね」
たかが温室と思われそうだが、この温室があるとないのとでは、クラリスの生活がガラリと異なる。
「向こうに着いたら、まずは温室に案内してもらわなきゃ。すぐに栽培に取りかかるわね。悪いけれど、メイには荷物の整理をお願いするわ」
「はい」
クラリスにとっても望まぬ結婚であったのに、こうやって前向きに考えられるようになったのも、ユージーンの提案のおかげだろう。そして、文句を言わずについてきてくれたメイがいるからだ。
途中、何度も休憩を挟みながら、ウォルター領に着いたのは、王都を発ってから五日目の昼過ぎであった。また日の高いうちにフラミル城に着いた。
長旅のせいか、馬車から降りた途端、地面がぐらぐらと揺れる感覚があったが、すぐに踏ん張った。
「素敵なところね」
領地に入ったときから真っ直ぐに空へと伸びる白い尖塔が見えた。きっとあそこからこの町を一望できるはず。
周囲を護衛兵によって囲まれたクラリスは、メイと並んでエントランスへと足を踏み入れる。
「お待ちしておりました、クラリス様」
そう言ってクラリスを迎え入れてくれたのは、金髪で身体つきの細い男である。彼がユージーンではないということだけは、クラリスも理解している。
ユージーンは黒髪の男。それはアルバートからもきちんと彼の話を聞いていたからだ。アルバートはよく「あの黒髪を全部引きちぎってやろうかと思っていたよ」と、過去の思い出話をしていた。
「お初にお目にかかります。クラリス・ベネノです」
スカートの裾をつまみ、挨拶をする。
「こちらが侍女のメイ・ロビン。ところで、ウォルター伯はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
「クラリス様もウォルター伯夫人となりますので、どうかユージーン様のことは家名でなく名前でお呼びください。ユージーン様もそれを望まれておりました……あ、自己紹介がまだでした。僕は、ネイサン・ヒルドです。ユージーン様の側近を務めております。そしてこちらが執事のサジェスと侍女頭のアニーです」
ネイサンの言葉に合わせて、初老の男性とふっくらとした女性が頭を下げる。
「クラリス様、お疲れのところ申し訳ありませんが、先にこちらに署名をいただきたく。おそらく彼らはこれを陛下に出さなければならないのではないでしょうか?」
それを聞いた護衛兵たちはうんうんと頷いた。
「ユージーン様は、北西の村に魔獣が現れたという報告を受け、二日前に発ってしまいました」
「まあ。大変ですのね」
「クラリス様にお会いできないことを残念がっておりましたが、これだけは準備しておりましたので」
ネイサンが手渡したのは結婚誓約書である。あとはそこにクラリスの名前を書くだけになっている。承認欄は恐ろしいことに国王の名が入るのだ。そんなことをアルバートが言っていた。
「ですが、ユージーン様は不在なのでしょう? わたくしがこれをビリビリッと破ってしまえば、この結婚は成り立たないのではなくて?」
クラリスの言葉に、控えていた護衛兵がぶるりと身体を震わせる。
「安心してください。もしかしたらクラリス様が緊張のあまり書き損じるかもしれないし、汚すかもしれない。そう思っていたユージーン様は、これをあと九十九枚ほど準備しております」
「でしたら、せっかくなので一枚くらいは破ったほうがよろしいかしら?」
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