9 / 63
閑話:側近 → 団長(2)
しおりを挟む
アルバートが動けば、彼女も一緒に動く。アルバートが食べ物を口にしようとすると、幾言か彼に告げて、クラリスがそれを奪う。料理など、他にもたくさんあるというのに、そうやってアルバートが食べる物を横から奪っていく。
アルバートにぴったりとくっついていたクラリスだが、突然、スタスタと何かに向かって足をすすめた。
『……きゃっ』
いきなりアルバートの婚約者として紹介されたハリエッタに体当たりし、彼女が手にしていたグラスが落ちた。もちろん、一口も飲んでいないグラスであったため、中のお酒はこぼれ、それがハリエッタのドレスを大きく汚す。
その出来事に大して悪びれもせず、退席するハリエッタの様子を見送ってから、近くにいた給仕からグラスを奪い、それを一気に飲み干した。
『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』
よりによって王太子の婚約披露パーティーである。安っぽい酒など用意しているわけがないのに、彼女はそう言い捨ててからその場を去った。
一部始終を見ていたネイサンはあっけにとられた。
(噂以上の女性だった……)
主役の二人が去り、クラリスもいなくなった会場は騒然としたものだ。
たいていが、ハリエッタがかわいそうだという話で、あとはクラリスがアルバートを奪われ嫉妬に狂った末の愚行だとかなんとか。
今の出来事を酒の肴にして、大半の人間がパーティーの余韻に浸っている。
ユージーンの代わりにアルバートへ祝いの言葉を伝えたネイサンは、そそくさと会場を後にした。ただただすごかったとしか言いようがない。だけど、もう二度とかかわることはないだろうと、そのときはそう思っていた。
それなのに、国王はユージーンにクラリスとの結婚をすすめてきた。いや、命令である。
社交界の毒女。男性からも、結婚相手として望まれていない女性。そんな女性がユージーンの伴侶となるのだ。
断れるものならば断りたいと思っていたのは、ネイサンのほうかもしれない。
だけど、ユージーンがクラリスと手紙のやりとりをしたためか、彼女の印象は少しだけ変わった。手紙から伝わってくるのは、相手を思いやる気持ち。
それでも、婚約披露パーティーの強烈な印象が、頭のどこかに巣くっている。
もしかしたら、手紙を書いているのは別の人間かもしれない。そうやって疑って、真実を見極める。
そしてとうとう、クラリスがウォルター領へとやってくることになった。結婚式の日取りさえ決まっていないというのに、さっさと書類にサインをしてしまえ、というのが国王の思いのようで、もちろんユージーンはそれを断れない。
クラリスが来たら、結婚誓約書にサインをもらい、まずは書類だけの結婚生活を始めようと、それなりに準備をしていた。それにもかかわらず、肝心のユージーンは魔獣討伐のために城を空けている。
だからユージーンにかわって、ネイサンがクラリスを迎え入れなければならない。
本当の彼女は、どのような女性なのか。ユージーンにふさわしくない女性であれば、二年間だけ我慢すればいい。この結婚は離婚前提の離婚約なのだ。
だが、噂の毒女とは違って淑女であったなら――
クラリスが到着するのを、ネイサンは今か今かと待っていた。
アルバートにぴったりとくっついていたクラリスだが、突然、スタスタと何かに向かって足をすすめた。
『……きゃっ』
いきなりアルバートの婚約者として紹介されたハリエッタに体当たりし、彼女が手にしていたグラスが落ちた。もちろん、一口も飲んでいないグラスであったため、中のお酒はこぼれ、それがハリエッタのドレスを大きく汚す。
その出来事に大して悪びれもせず、退席するハリエッタの様子を見送ってから、近くにいた給仕からグラスを奪い、それを一気に飲み干した。
『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』
よりによって王太子の婚約披露パーティーである。安っぽい酒など用意しているわけがないのに、彼女はそう言い捨ててからその場を去った。
一部始終を見ていたネイサンはあっけにとられた。
(噂以上の女性だった……)
主役の二人が去り、クラリスもいなくなった会場は騒然としたものだ。
たいていが、ハリエッタがかわいそうだという話で、あとはクラリスがアルバートを奪われ嫉妬に狂った末の愚行だとかなんとか。
今の出来事を酒の肴にして、大半の人間がパーティーの余韻に浸っている。
ユージーンの代わりにアルバートへ祝いの言葉を伝えたネイサンは、そそくさと会場を後にした。ただただすごかったとしか言いようがない。だけど、もう二度とかかわることはないだろうと、そのときはそう思っていた。
それなのに、国王はユージーンにクラリスとの結婚をすすめてきた。いや、命令である。
社交界の毒女。男性からも、結婚相手として望まれていない女性。そんな女性がユージーンの伴侶となるのだ。
断れるものならば断りたいと思っていたのは、ネイサンのほうかもしれない。
だけど、ユージーンがクラリスと手紙のやりとりをしたためか、彼女の印象は少しだけ変わった。手紙から伝わってくるのは、相手を思いやる気持ち。
それでも、婚約披露パーティーの強烈な印象が、頭のどこかに巣くっている。
もしかしたら、手紙を書いているのは別の人間かもしれない。そうやって疑って、真実を見極める。
そしてとうとう、クラリスがウォルター領へとやってくることになった。結婚式の日取りさえ決まっていないというのに、さっさと書類にサインをしてしまえ、というのが国王の思いのようで、もちろんユージーンはそれを断れない。
クラリスが来たら、結婚誓約書にサインをもらい、まずは書類だけの結婚生活を始めようと、それなりに準備をしていた。それにもかかわらず、肝心のユージーンは魔獣討伐のために城を空けている。
だからユージーンにかわって、ネイサンがクラリスを迎え入れなければならない。
本当の彼女は、どのような女性なのか。ユージーンにふさわしくない女性であれば、二年間だけ我慢すればいい。この結婚は離婚前提の離婚約なのだ。
だが、噂の毒女とは違って淑女であったなら――
クラリスが到着するのを、ネイサンは今か今かと待っていた。
448
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる