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第一章:結婚 x 結婚(2)
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騎士団が人から人を守るのであれば、魔獣討伐団は魔獣から人を守る。そのため、魔獣に襲われた人や街があれば、すぐさま向かわなければならない。
だからユージーンは、アルバートの婚約披露パーティーの出席を急遽断り、魔獣討伐へと向かった。
代わりにネイサンへパーティーへの出席を頼み、適当な贈り物を用意するようにと伝えていた。
「その婚約披露パーティーで、あの毒女……ではなく、クラリス嬢がやらかしたのですよ」
ネイサンは憤っているのか楽しんでいるのかよくわからないような微妙な笑みを浮かべている。
「殿下が婚約者の方とダンスを終えたとき、毒女が婚約者に飲み物をぶちまけたのです」
とうとうネイサンは、毒女をクラリス嬢と言い直すのをやめた。
「よっぽど悔しかったんでしょうね。毒女は、自分がアルバート殿下の婚約者に選ばれると、そう思っていたにちがいありません。なにしろずっとくっつきまわっていましたからね。周囲の者も、そうなるだろうと思っていた節はあったみたいですし」
それでもアルバートの婚約者となったのはジェスト公爵令嬢のハリエッタである。身分的にも釣り合いがとれているし、婚約発表の前から二人の仲睦まじい様子は噂になっていた。そういった話はユージーンの耳にも届いていたのに、毒女ことクラリスの話はまったく知らなかった。
「婚約者のドレスは汚れ、殿下は婚約者を連れて退席なさいました。そのあとの毒女が見物だったんですよ」
ネイサンはくつくつと笑いを堪えている。よっぽど面白かったにちがいない。今でも思いだし笑いをするくらいなのだから。
「殿下たちが飲むはずだった飲み物を手にして、口に合わない酒を誰が用意したんだって、周囲を威圧してましてね。ああ、なるほど。毒女と言われるのも納得、という感じでした」
「そうか……」
ネイサンの話を黙って聞いていたユージーンであるが、その女性と結婚しろと国王は命じてきたのだ。
アルバートの腰巾着であった毒女。となれば、アルバートが一枚かんでいるにちがいない。いや、絶対にかんでいる。
「ネイサン、この縁談……」
できれば断りたい。むしろ、向こうから断ってくれないだろうか。
「断れるわけないですよね。国王陛下からの命令ですからね。ですが、毒女がものすごく嫌がって、死んでやるとかそんなことまで言って騒いだら別かもしれません。っていうか、あの女ならそこまでやりそうですけど」
残念ながらユージーンは毒女であるクラリスと顔を合わせたことがない。アルバートの腰巾着と言われるようになったのも、最近なのだろう。
だからネイサンが先ほどから力説している内容に同意できないのだ。どこか一歩引いて、冷静にそれを聞いていられる。
「俺からクラリス嬢に手紙を書いてもいいだろうか」
「いいんじゃないですかね? 二人の仲を深めるためにもって、毒女を辺境伯夫人として迎え入れるつもりですか?」
「いや、だが。こちらからは断れないだろ? それならば向こうの意思を確認しておくのも必要ではないのか?」
もしかしたら、本当に泣いて叫ぶほどユージーンとの結婚を嫌がっているかも知れない。そうであれば提案したい内容がある。それを伝えたいのだ。
「結婚したとしても、その事実さえあれば国王は納得するはずだ。もちろんアルバートもな。この手紙には結婚しろと書いてあるだけで、離婚してはならないとは書いていない」
結婚した事実をつくり、それ以外はお互い好きに生活すればよいのではないだろうか。いわゆる、白い結婚と呼ばれるものだ。ようは紙切れ一枚の関係。
ネイサンも、ユージーンが言わんとしていることにピンときたらしい。
「つまり、ユージーン様はクラリス嬢を辺境伯夫人として一度は迎えるが、何年かしたらヤリ捨てると?」
なぜかネイサンは一部、湾曲して理解している。
「ヤらない、捨てない。円満離婚だ」
「なるほど……とにかく結婚という関係さえ作ってしまえばいいと、そういうことですね?」
「そうだ。だからクラリス嬢には他に恋人を作ってもらってもかまわないし、俺との離婚後はその男と一緒になってもらってもかまわない。ただ、離婚が認められるための二年間だけ、少しだけ我慢してもらう必要はあるが」
結婚後、二年経っても子に恵まれなかった場合、この国では離婚が認められている。それは、世継ぎといった意識が根強く残っているからだろう。
だからユージーンは、アルバートの婚約披露パーティーの出席を急遽断り、魔獣討伐へと向かった。
代わりにネイサンへパーティーへの出席を頼み、適当な贈り物を用意するようにと伝えていた。
「その婚約披露パーティーで、あの毒女……ではなく、クラリス嬢がやらかしたのですよ」
ネイサンは憤っているのか楽しんでいるのかよくわからないような微妙な笑みを浮かべている。
「殿下が婚約者の方とダンスを終えたとき、毒女が婚約者に飲み物をぶちまけたのです」
とうとうネイサンは、毒女をクラリス嬢と言い直すのをやめた。
「よっぽど悔しかったんでしょうね。毒女は、自分がアルバート殿下の婚約者に選ばれると、そう思っていたにちがいありません。なにしろずっとくっつきまわっていましたからね。周囲の者も、そうなるだろうと思っていた節はあったみたいですし」
それでもアルバートの婚約者となったのはジェスト公爵令嬢のハリエッタである。身分的にも釣り合いがとれているし、婚約発表の前から二人の仲睦まじい様子は噂になっていた。そういった話はユージーンの耳にも届いていたのに、毒女ことクラリスの話はまったく知らなかった。
「婚約者のドレスは汚れ、殿下は婚約者を連れて退席なさいました。そのあとの毒女が見物だったんですよ」
ネイサンはくつくつと笑いを堪えている。よっぽど面白かったにちがいない。今でも思いだし笑いをするくらいなのだから。
「殿下たちが飲むはずだった飲み物を手にして、口に合わない酒を誰が用意したんだって、周囲を威圧してましてね。ああ、なるほど。毒女と言われるのも納得、という感じでした」
「そうか……」
ネイサンの話を黙って聞いていたユージーンであるが、その女性と結婚しろと国王は命じてきたのだ。
アルバートの腰巾着であった毒女。となれば、アルバートが一枚かんでいるにちがいない。いや、絶対にかんでいる。
「ネイサン、この縁談……」
できれば断りたい。むしろ、向こうから断ってくれないだろうか。
「断れるわけないですよね。国王陛下からの命令ですからね。ですが、毒女がものすごく嫌がって、死んでやるとかそんなことまで言って騒いだら別かもしれません。っていうか、あの女ならそこまでやりそうですけど」
残念ながらユージーンは毒女であるクラリスと顔を合わせたことがない。アルバートの腰巾着と言われるようになったのも、最近なのだろう。
だからネイサンが先ほどから力説している内容に同意できないのだ。どこか一歩引いて、冷静にそれを聞いていられる。
「俺からクラリス嬢に手紙を書いてもいいだろうか」
「いいんじゃないですかね? 二人の仲を深めるためにもって、毒女を辺境伯夫人として迎え入れるつもりですか?」
「いや、だが。こちらからは断れないだろ? それならば向こうの意思を確認しておくのも必要ではないのか?」
もしかしたら、本当に泣いて叫ぶほどユージーンとの結婚を嫌がっているかも知れない。そうであれば提案したい内容がある。それを伝えたいのだ。
「結婚したとしても、その事実さえあれば国王は納得するはずだ。もちろんアルバートもな。この手紙には結婚しろと書いてあるだけで、離婚してはならないとは書いていない」
結婚した事実をつくり、それ以外はお互い好きに生活すればよいのではないだろうか。いわゆる、白い結婚と呼ばれるものだ。ようは紙切れ一枚の関係。
ネイサンも、ユージーンが言わんとしていることにピンときたらしい。
「つまり、ユージーン様はクラリス嬢を辺境伯夫人として一度は迎えるが、何年かしたらヤリ捨てると?」
なぜかネイサンは一部、湾曲して理解している。
「ヤらない、捨てない。円満離婚だ」
「なるほど……とにかく結婚という関係さえ作ってしまえばいいと、そういうことですね?」
「そうだ。だからクラリス嬢には他に恋人を作ってもらってもかまわないし、俺との離婚後はその男と一緒になってもらってもかまわない。ただ、離婚が認められるための二年間だけ、少しだけ我慢してもらう必要はあるが」
結婚後、二年経っても子に恵まれなかった場合、この国では離婚が認められている。それは、世継ぎといった意識が根強く残っているからだろう。
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