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第二章:勇者の故郷(4)

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「仕事を手伝わせてほしくて。じっとしているのが性に合わない」
 嫌いなのは夜勤であって、身体を動かすこと、騎士としての仕事が嫌いだったわけではない。
「それは助かるよ。へんぴな村だからこそ、みな、ここに集まってくるんだ。村の外からの客なんかは滅多にこないけどね」

 バニッシュとしては、ここに勇者がいない以上、どうしたらいいかがわからないというのもあった。
 だったら、少しでも勇者に関係しそうな人たちから話を聞く必要があるだろう。

 そういった意味でも、食堂という場所は都合がよい。少しでも長くここにいるためにはどうしたらいいか。そう考えた結果が、彼女たちの仕事を手伝うということだった。

 店の責任者が女性というのを考えれば、男性の手が足りないのではないだろうかと、そう考えた。

「早速悪いが、井戸から水を汲んできてくれないかい? 今、イルゼが行っているから、井戸の使い方は彼女に聞いておくれ。あとは、イルゼの手伝いをしてやって」

 しっしっと犬でも払うかのように、手を振られた。
 井戸の場所を聞いてそこへ向かうと、ちょうどイルゼが桶に水を汲んでいるところだった。

 ポンプ式の井戸である。

「イルゼ、アニタさんに言われて手伝いにきた」
「あ、バニッシュ」

 桶に水がなみなみと注がれている。

「この水を運べばいい?」

 勇者ルイスを生み出した村なのに、なんとなく寂れている感じがする。
 王都のような華やかさがない。へんぴな場所にある村だから、人が訪れない。だから寂れているといえばそれまでかもしれないが。

 だけど、勇者の故郷というだけで、もう少しましだと思っていたのだ。

「ありがとうございます。水って、見た目よりも重いですよね」
「この水は何に使うの?」
「これで氷を作るんです。井戸水の氷は、なめらかで美味しいってお客さんが言うんですよ」

 イルゼが言うには、井戸水を製氷皿に並べ、そこに魔法をかけて氷を作るらしい。
 魔法と言われたときに、バニッシュの頭には一人の女性が思い出される。

「魔法使いのゾーイさん……」
「そうそう、ゾーイが氷を作ってくれるんです。こちらに戻ってきてから、みんなまったりと暮らしていますよ」
「ユフィさんとソニアさんは?」
「ユフィは治癒師ですからね。治癒院で働いています。ソニアは身体が器用なので、荷物運びの仕事をしています」

 思っていたよりも地味な生活を送っていた。

 勇者ルイスと共に、ブラックドラゴンを倒した彼女たちとは思えない。
 ルイスがいなくなったことで、彼女たちに十分な報酬すら与えていない。あの国王の考えそうなことである。

「あ。彼女たちにも会いますか? ゾーイはいつも夕食を食べていくんですけども、ユフィもソニアもたまに顔を出してくれるので」
「それは、助かるよ。彼女たちに、勇者ルイス様の話を聞いても大丈夫かな」
「バニッシュはルイスを探しているんですよね?」
「そう……探して……できれば、王都に来てほしいんだけど……」

 来てくれるだろうか。
 来てくれなかったら、彼の首だけを持って帰らなければならない。できることなら、それは避けたい。

「まぁ、ルイスもわからずやではないので、きちんとお話をすれば、王都に行くとは思いますが。だけど、残念ながら彼がどこにいるかさっぱりわからないのです。ゾーイは先にランカに戻っているんじゃないかって言ってましたが。結局、帰ってきてなかったし……」

 しゅんと肩を落とす姿を目にすると、彼女がどれだけルイスを案じているかが伝わってきた。

「そうだね。ルイス様がいなくなって寂しいのは、イルゼたちだよな」

 何も言わず、彼女は寂しそうに、ほんの少しだけ口の端を持ち上げた。

「あ。ゾーイが待っているから、早く戻りましょう」

 そう言って彼女は何かを誤魔化した。だけど、それを追求する権利を、バニッシュは持ち合わせていない。
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