6 / 8
6.証拠がすべて
しおりを挟む
「薬物入りの飲み物をイアンに飲ませようとしたな? だから、そのままその飲み物を、お前たちのものとすり替えておいたのさ。あの夜会、お前たちをおびき寄せるための罠であったが……。のこのこ出席してくれて助かったよ」
夜会そのものが罠だったとは、知るはずもない。
「なんだ? 納得いかないような顔をして。夜会が罠であれば、あの場にいた給仕の者もこちらの協力者だよ」
だから容易に飲み物のすり替えもできたというのか。
「さて。順を追って、君たちの罪を暴いていこうか?」
両手を腰に手を当てながら、マレリは不適な笑みを浮かべている。
「まずは、イアン・ダリルに夜会で薬を盛った件だな。イアンに薬を飲ませ、別室で男女の営みがあったように見せかけた。それを脅しの材料として、カーラ商会はダリル家に婚姻を迫った。ここでの罪は、イアンに薬を飲ませたことだ。ただの薬ではないからね」
ケイトはマレリから視線を逸らさない。睨みつけるかのように、鋭く見つめている。
「まったく。カーラ商会はどこからこんな違法薬物を手に入れてくるのか。ケイト、君がイアンに飲ませた薬は、一般的には媚薬と呼ばれる性的興奮剤だ。だが、それは国が認可しているものとは異なる薬。理性を奪うような違法な代物だったというわけだな」
「だけど、いくら薬のせいだとしても。イアンが私を襲ったのは事実ではなくて? ラッシュも、ダリル侯爵も、その場にきたわけでしょう?」
ケイトも負けまいと反論した。
「行為があったように見せかけるのは簡単だろう? イアンは意識が朦朧としていたし。君の証言だけでなんとでもなる。それに、協力者のラッシュ・ベネターが目撃者だ。口裏を合わせることなど簡単だ」
ラッシュは肌を隠すかのように掛布をたぐり寄せ、ぶるぶると身体を震わせたまま。
「それから、結婚の流れになり。そういった準備を理由に顔を合わせるたびに、イアンに薬を飲ませていた。飲み物に混ぜれば簡単だな。そうやって、イアンの自我を奪い、無理矢理、婚姻届に印を押させた。いや、イアンはそれだけは拒んだはずだ」
そう。イアンは婚姻届への印章を拒んだ。少しずつ薬を飲ませ、洗脳したはずだったのに、彼は印章がないと言い出したのだ。
「しびれを切らしたカーラ商会長は、イアンの印章を偽造した。印章の偽造も偽造罪が適用されるからな」
「……ちっ」
ケイトは、はしたなく舌打ちをする。
とにかく、婚姻届の提出だけは苦戦したのだ。イアンをカーラ家に呼び出し、婚姻届へのサインと印章を迫った。サインまでは震える手でなんとか書いてくれたものの、印章はないとか言い出した。
だからケイトの父が、国に保管されている印章の写しを閲覧し、それを覚えて同じ印章を造ったのだ。
「イアンの印章は私が預かっているからね。彼は、こうなることを恐れていたのだよ。まぁ、ようは偽造の印章による婚姻は無効になるということだ。さらに言うならば、婚姻届のイアンのサインも、心神喪失の状態でされたもの。正しい判断ができたとは思えないね」
「当時、彼が心神喪失であったと証拠があるのかしら?」
そう、すべては証拠だ。口ではなんとでも言えるが、証拠がなければ話にならない。
夜会そのものが罠だったとは、知るはずもない。
「なんだ? 納得いかないような顔をして。夜会が罠であれば、あの場にいた給仕の者もこちらの協力者だよ」
だから容易に飲み物のすり替えもできたというのか。
「さて。順を追って、君たちの罪を暴いていこうか?」
両手を腰に手を当てながら、マレリは不適な笑みを浮かべている。
「まずは、イアン・ダリルに夜会で薬を盛った件だな。イアンに薬を飲ませ、別室で男女の営みがあったように見せかけた。それを脅しの材料として、カーラ商会はダリル家に婚姻を迫った。ここでの罪は、イアンに薬を飲ませたことだ。ただの薬ではないからね」
ケイトはマレリから視線を逸らさない。睨みつけるかのように、鋭く見つめている。
「まったく。カーラ商会はどこからこんな違法薬物を手に入れてくるのか。ケイト、君がイアンに飲ませた薬は、一般的には媚薬と呼ばれる性的興奮剤だ。だが、それは国が認可しているものとは異なる薬。理性を奪うような違法な代物だったというわけだな」
「だけど、いくら薬のせいだとしても。イアンが私を襲ったのは事実ではなくて? ラッシュも、ダリル侯爵も、その場にきたわけでしょう?」
ケイトも負けまいと反論した。
「行為があったように見せかけるのは簡単だろう? イアンは意識が朦朧としていたし。君の証言だけでなんとでもなる。それに、協力者のラッシュ・ベネターが目撃者だ。口裏を合わせることなど簡単だ」
ラッシュは肌を隠すかのように掛布をたぐり寄せ、ぶるぶると身体を震わせたまま。
「それから、結婚の流れになり。そういった準備を理由に顔を合わせるたびに、イアンに薬を飲ませていた。飲み物に混ぜれば簡単だな。そうやって、イアンの自我を奪い、無理矢理、婚姻届に印を押させた。いや、イアンはそれだけは拒んだはずだ」
そう。イアンは婚姻届への印章を拒んだ。少しずつ薬を飲ませ、洗脳したはずだったのに、彼は印章がないと言い出したのだ。
「しびれを切らしたカーラ商会長は、イアンの印章を偽造した。印章の偽造も偽造罪が適用されるからな」
「……ちっ」
ケイトは、はしたなく舌打ちをする。
とにかく、婚姻届の提出だけは苦戦したのだ。イアンをカーラ家に呼び出し、婚姻届へのサインと印章を迫った。サインまでは震える手でなんとか書いてくれたものの、印章はないとか言い出した。
だからケイトの父が、国に保管されている印章の写しを閲覧し、それを覚えて同じ印章を造ったのだ。
「イアンの印章は私が預かっているからね。彼は、こうなることを恐れていたのだよ。まぁ、ようは偽造の印章による婚姻は無効になるということだ。さらに言うならば、婚姻届のイアンのサインも、心神喪失の状態でされたもの。正しい判断ができたとは思えないね」
「当時、彼が心神喪失であったと証拠があるのかしら?」
そう、すべては証拠だ。口ではなんとでも言えるが、証拠がなければ話にならない。
195
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。


悪役令嬢は蚊帳の外です。
豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」
「いえ、違います」

押し付けられた仕事は致しません。
章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。
書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。
『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる