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第七章(7)
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「聖騎士イアンさんは、所属は違えど同じ騎士です。それに以前、仕事で顔を合わせたこともありましたので、話を聞くには都合がよかったのです。アルテール殿下については、先ほどもお話がありましたように、聖女様との接点が見つかったからです」
シリウル公爵は、ふむぅと頷き思案する。
「さらに私は、カリノさんから話を聞くうちに、彼女は聖女様を殺害していないと、そう確信しました。だからカリノさんに、この場では真実を言葉にするようにと、助言しただけです」
カリノが聖女を殺したと言っていたのに、この場で主張を変えた理由を、フィアナは説明したつもりだ。
だが、今の発言で騎士団長のこめかみはふるえているし、アルテールもその瞳に怒りを滲ませている。少なくとも、この二人は敵に回した。
「カリノさんが聖女様を殺害したと仮定した場合、その凶器がまだわかっておりません。また、動機も不明です。彼女自身が犯人だと言ったとしても、そこの裏付けはきちんととるべきかと」
団長なんかは、今にも向こうから飛びだしてきそうな勢いだ。
「そもそも、カリノさんが一人で聖女様殺害を行うには無理があると考えました。少なくとも共犯者がいるはずです。ですが、カリノさんは何も言いませんでした。そうなれば、脅されているのではと考えるのが妥当と判断しました」
室内にいる誰もがしんと静まり返る。
「カリノさんは、聖女様を殺した凶器についてもけして口にはしませんでした。頭部を切断したのは、薪割り用の斧。だけど、それは死後に切断したのであって、直接の死因とは関係ありません」
第一騎士団では追求しなかった凶器。死因は失血死とされているが、致命傷となったのは腹部の傷か、もしくは持ち去られた左手首を、先に大きく傷つけたか。
「つまり、致命傷や凶器について、誰も知らないというわけですね?」
シリウル公爵の言葉に、フィアナは神妙な面持ちで首肯する。
「はい。残念ながらそういった証拠を見つけることができませんでした。今回の捜査は極秘で行われたものです。ですから、協力者を得ることが難しかったのも原因かもしれません」
できるだけ第一騎士団に日がないようにと、フィアナは言葉を選びながら続けた。
「なるほど。制限された中での捜査は、骨が折れましたね」
そうやって捜査にあたった者を気遣う姿を見せるのは、シリウル公爵の人柄もあるのだろう。
「……ですが、捜査は終わってしまいましたが。私がたまたま散歩をしたときに、見つけたものがあるのです」
わざとらしかったかなと思いつつも、これ以外の表現がフィアナには考えつかなかった。
法廷内が騒がしくなる。
「それを今、提出してもよろしいですか?」
「今回の事件に関するものであれば」
「では、こちらを差証拠品として裁判官に提出します」
フィアナは例の短剣の入った布袋を取り出した。それはベルトに挟んでいた。
フィアナから布袋を受け取ったシリウル公爵は、中から短剣を取り出し、目を細くして睨みつけるような視線を向けた。
「これは、短剣ですね? 土で汚れているようですが……ん? 血痕ですか? これをどこで?」
「聖女様の殺害現場の近くに埋められていました。不自然に土が掘り返された跡があったため、掘り起こしてみたところ、これが出てきたのです。この短剣、誰のものか、ご存知ではありませんか?」
シリウル公爵の白い手袋は、泥と血ですでに汚れていた。だが、それすら気にもせず、彼はじっくりと短剣を観察する。
「この赤い紋章は……」
シリウル公爵の呟きにより、誰もがアルテールへと顔を向けた。
「この血痕が誰のものか調べていただきたいところですが、聖女様のご遺体はすでに埋葬されたと聞いております」
損傷が酷いため、大聖堂側はその遺体が戻ってきてすぐに、裏手の墓地に埋葬したとのこと。
シリウル公爵は、ふむぅと頷き思案する。
「さらに私は、カリノさんから話を聞くうちに、彼女は聖女様を殺害していないと、そう確信しました。だからカリノさんに、この場では真実を言葉にするようにと、助言しただけです」
カリノが聖女を殺したと言っていたのに、この場で主張を変えた理由を、フィアナは説明したつもりだ。
だが、今の発言で騎士団長のこめかみはふるえているし、アルテールもその瞳に怒りを滲ませている。少なくとも、この二人は敵に回した。
「カリノさんが聖女様を殺害したと仮定した場合、その凶器がまだわかっておりません。また、動機も不明です。彼女自身が犯人だと言ったとしても、そこの裏付けはきちんととるべきかと」
団長なんかは、今にも向こうから飛びだしてきそうな勢いだ。
「そもそも、カリノさんが一人で聖女様殺害を行うには無理があると考えました。少なくとも共犯者がいるはずです。ですが、カリノさんは何も言いませんでした。そうなれば、脅されているのではと考えるのが妥当と判断しました」
室内にいる誰もがしんと静まり返る。
「カリノさんは、聖女様を殺した凶器についてもけして口にはしませんでした。頭部を切断したのは、薪割り用の斧。だけど、それは死後に切断したのであって、直接の死因とは関係ありません」
第一騎士団では追求しなかった凶器。死因は失血死とされているが、致命傷となったのは腹部の傷か、もしくは持ち去られた左手首を、先に大きく傷つけたか。
「つまり、致命傷や凶器について、誰も知らないというわけですね?」
シリウル公爵の言葉に、フィアナは神妙な面持ちで首肯する。
「はい。残念ながらそういった証拠を見つけることができませんでした。今回の捜査は極秘で行われたものです。ですから、協力者を得ることが難しかったのも原因かもしれません」
できるだけ第一騎士団に日がないようにと、フィアナは言葉を選びながら続けた。
「なるほど。制限された中での捜査は、骨が折れましたね」
そうやって捜査にあたった者を気遣う姿を見せるのは、シリウル公爵の人柄もあるのだろう。
「……ですが、捜査は終わってしまいましたが。私がたまたま散歩をしたときに、見つけたものがあるのです」
わざとらしかったかなと思いつつも、これ以外の表現がフィアナには考えつかなかった。
法廷内が騒がしくなる。
「それを今、提出してもよろしいですか?」
「今回の事件に関するものであれば」
「では、こちらを差証拠品として裁判官に提出します」
フィアナは例の短剣の入った布袋を取り出した。それはベルトに挟んでいた。
フィアナから布袋を受け取ったシリウル公爵は、中から短剣を取り出し、目を細くして睨みつけるような視線を向けた。
「これは、短剣ですね? 土で汚れているようですが……ん? 血痕ですか? これをどこで?」
「聖女様の殺害現場の近くに埋められていました。不自然に土が掘り返された跡があったため、掘り起こしてみたところ、これが出てきたのです。この短剣、誰のものか、ご存知ではありませんか?」
シリウル公爵の白い手袋は、泥と血ですでに汚れていた。だが、それすら気にもせず、彼はじっくりと短剣を観察する。
「この赤い紋章は……」
シリウル公爵の呟きにより、誰もがアルテールへと顔を向けた。
「この血痕が誰のものか調べていただきたいところですが、聖女様のご遺体はすでに埋葬されたと聞いております」
損傷が酷いため、大聖堂側はその遺体が戻ってきてすぐに、裏手の墓地に埋葬したとのこと。
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