51 / 66
第七章(5)
しおりを挟む
「ですから我々は、アルテール殿下がラクリーア様を殺害するには十分な動機があったと思っています。しかし、その犯人に巫女であるカリノの名があがり困惑しておりました。ただ、今までの話を聞いて納得できた点もあります。カリノは脅されていたのですね。そして大聖堂を守るために、一人でそれに耐えていた。本来であれば、我々のような大人が手を差し伸べてやるべきだったのに……」
まるで同情を誘うかのようなその言い方に、その場にいた者も固唾を飲んで見守っている。
「……あなたの話はわかりました。ありがとうございます」
シリウル公爵も、これ以上イアンに話をさせてはならないと思ったのだろう。このままではカリノに同情が集まりアルテールには批難が集まる。公正な判断ができる状況と言い難いかもしれない。
「アルテール殿下。弁解しますか?」
その言葉でアルテールに視線が集まった。ここにいる誰もが、アルテールの言葉を待っているのだ。
「ええ。是非ともお願いします」
青ざめたり身を固くしたりしていたアルテールだが、なぜか今は自信に溢れていた。
隣に座る国王と目配せしている様子からも、アルテールは身の潔白によほど自信があるにちがいあるまい。
洗練された身のこなしで証言台へと下り立ったアルテールは、ゆっくりと周囲を見回したものの、その視線を一点で止めた。その先にはカリノがいる。
フィアナは彼女を安心させるように台の下で手を伸ばし、見えない場所で手をつないだ。
「何か誤解されているようですね。私のほうから、説明させていただきます」
堂々たる振る舞いは、慣れたものだ。
「まず、私が聖女ラクリーアに求婚したというのは事実です。ですが、残念ながら振られてしまいましたが」
両手を広げて肩をすくめ、おどけた様子を見せつける。
「ですが、私は常々考えておりました。王族と聖女――いや、大聖堂とはもう少し近づくべきではないかと。同じくファデル神を信仰する人間です。もっと互いに手を取り合い一つになっていくべきではないかと考えたわけです」
それらしい言葉で、内部の空気が一気にかわった。
「私の求婚を受け入れてもらえないのであれば、せめて仲良くしてほしいと、そうお願いしました。仲良くと言っても、言葉だけで示すのはなかなか難しいところです。ですから、私の二十二歳の誕生日パーティーに私のパートナーとして出席してほしいと、そう頼んだのです。今まで彼女は、そういった社交界に姿を見せたことはありません」
傍聴席でアルテールの語りに耳を傾けている貴族たちは、うんうんと大きく頷いている。
「彼女が王城を訪れていたのは、ダンスの練習をするためですよ。社交の場に出たことのない彼女ですから、少しでも事前に慣れていたほうがいいだろうと、そう思ったからです。彼女が王城を訪れるたびに、身体に痣ができたというのは、それもダンスレッスンのせいですね。ダンスも初めてだという彼女は、よくバランスを崩して倒れていましたから」
フィアナは今の話の信憑性を確認するために、イアンに顔を向けた。だが、彼は首を横に振る。
つまり、どちらの言い分も証明できないということだ。ラクリーアの身体の痣が、アルテールが殴ってつけたものか、ダンスレッスンのときに身体をぶつけたからできたものか、今となっては証明する手段がない。
なによりもラクリーア本人がここにはいない。
「わかりました」
シリウル公爵がゆっくりと頷いている様子から、彼がアルテールの言葉を信じているようにも見えた。
「では、アルテール殿下は、聖女ラクリーアが亡くなった日に、現場には足を運んだのでしょうか?」
それはカリノの証言の真偽を確認するためだろう。その場にアルテールがいたと、彼女は口にした。
「まさか。彼女が亡くなったのは夜中だと聞いています。そのような時間帯に、私が部屋を抜け出して彼女の側へ行くとでも? まして川の近くとか、そんな変な場所に?」
まるで同情を誘うかのようなその言い方に、その場にいた者も固唾を飲んで見守っている。
「……あなたの話はわかりました。ありがとうございます」
シリウル公爵も、これ以上イアンに話をさせてはならないと思ったのだろう。このままではカリノに同情が集まりアルテールには批難が集まる。公正な判断ができる状況と言い難いかもしれない。
「アルテール殿下。弁解しますか?」
その言葉でアルテールに視線が集まった。ここにいる誰もが、アルテールの言葉を待っているのだ。
「ええ。是非ともお願いします」
青ざめたり身を固くしたりしていたアルテールだが、なぜか今は自信に溢れていた。
隣に座る国王と目配せしている様子からも、アルテールは身の潔白によほど自信があるにちがいあるまい。
洗練された身のこなしで証言台へと下り立ったアルテールは、ゆっくりと周囲を見回したものの、その視線を一点で止めた。その先にはカリノがいる。
フィアナは彼女を安心させるように台の下で手を伸ばし、見えない場所で手をつないだ。
「何か誤解されているようですね。私のほうから、説明させていただきます」
堂々たる振る舞いは、慣れたものだ。
「まず、私が聖女ラクリーアに求婚したというのは事実です。ですが、残念ながら振られてしまいましたが」
両手を広げて肩をすくめ、おどけた様子を見せつける。
「ですが、私は常々考えておりました。王族と聖女――いや、大聖堂とはもう少し近づくべきではないかと。同じくファデル神を信仰する人間です。もっと互いに手を取り合い一つになっていくべきではないかと考えたわけです」
それらしい言葉で、内部の空気が一気にかわった。
「私の求婚を受け入れてもらえないのであれば、せめて仲良くしてほしいと、そうお願いしました。仲良くと言っても、言葉だけで示すのはなかなか難しいところです。ですから、私の二十二歳の誕生日パーティーに私のパートナーとして出席してほしいと、そう頼んだのです。今まで彼女は、そういった社交界に姿を見せたことはありません」
傍聴席でアルテールの語りに耳を傾けている貴族たちは、うんうんと大きく頷いている。
「彼女が王城を訪れていたのは、ダンスの練習をするためですよ。社交の場に出たことのない彼女ですから、少しでも事前に慣れていたほうがいいだろうと、そう思ったからです。彼女が王城を訪れるたびに、身体に痣ができたというのは、それもダンスレッスンのせいですね。ダンスも初めてだという彼女は、よくバランスを崩して倒れていましたから」
フィアナは今の話の信憑性を確認するために、イアンに顔を向けた。だが、彼は首を横に振る。
つまり、どちらの言い分も証明できないということだ。ラクリーアの身体の痣が、アルテールが殴ってつけたものか、ダンスレッスンのときに身体をぶつけたからできたものか、今となっては証明する手段がない。
なによりもラクリーア本人がここにはいない。
「わかりました」
シリウル公爵がゆっくりと頷いている様子から、彼がアルテールの言葉を信じているようにも見えた。
「では、アルテール殿下は、聖女ラクリーアが亡くなった日に、現場には足を運んだのでしょうか?」
それはカリノの証言の真偽を確認するためだろう。その場にアルテールがいたと、彼女は口にした。
「まさか。彼女が亡くなったのは夜中だと聞いています。そのような時間帯に、私が部屋を抜け出して彼女の側へ行くとでも? まして川の近くとか、そんな変な場所に?」
37
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる