わたしが聖女様を殺しました

澤谷弥(さわたに わたる)

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第七章(1)

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 カリノが王城に移送されて十日後。彼女の刑を確定するための裁判が開かれるという。

 その間、フィアナは王都の宝石店で起こった盗難事件の担当となり、そちらをナシオンと共に調査していた。というのも、ここの宝石店が『怪しい』というたれ込みがあったからだ。事件そのものは第一騎士団が追っている。フィアナたちはむしろ、そのたれ込みが事実かどうかを調べていたのだ。

 その間、新しい聖女が誕生したという話が、国内を駆け巡った。聖女ラクリーアは地方聖堂への巡礼の途中で事故にあい亡くなったということにされている。

 どこもかしこも隠し事が得意らしい。

 フィアナはカリノから話を聞くことのできた担当騎士とのことで、彼女の裁判で証言できるようになった。もちろんこれはイアンの差し金だ。大聖堂側からの依頼という形になっている。

 裁判官は王族貴族の中でも、中立派と呼ばれるシリウル公爵が務める。

 立法権が国王にしかないファーデン国において、その権利を貴族にも持たせるべきだと主張する一派がいる。そしてもちろん、権力が貴族に集中しないように、現状のままでよいと考える一派もいる。前者は改革派と呼ばれ、それに対して後者は穏健派と呼ばれる。

 明らかにそれらに属しているとわかる者が裁判官になるのはふさわしくないことから、たいていはどちらにも属さない中立派の人間が選ばれるのだが、今回は容疑者も被害者も大聖堂の人間ということもあるため、地位あるシリウル公爵が選ばれたのだ。

 フィアナもシリウル公爵のことはよく知っており、信頼のおける人物だ。彼なら公正な判断をしてくれるだろう。

 たいてい裁判は、貴族間の争いで開かれることが多く、今回のように容疑者、被害者が揃うような裁判が開かれるのは何年ぶりかわからない。

 それだけ事件が起こらない平和な国なのではなく、事件はそれなりに起こるものの、裁判に発展しないようにもみ消されているだけだということを、フィアナは知っている。

 この国の裁判の流れはいたってシンプルだ。裁判官が容疑者に質問し、容疑者が騎士団によって移送された人物に間違いないかどうかを確かめる。そのあと、どうして移送されたかを確認し、審判の対象を明確にしておく。

 そのあと、騎士団の人間が容疑者の罪をつらつらと説明し、罪に対する刑を請求する。
 それに対して関係者は反論、もしくは情状酌量を訴え、請求された刑をできるだけ軽くしようと努める。もちろん、その逆の考えの者もいる。

 そういった内容から、裁判官が最終的に刑を決め、法廷でのやりとりは終わる。

 今回の場合、騎士団の人間は間違いなく極刑を望んでくるから、それをいかにして軽くするかが焦点となる。
 たいていは容疑者と被害者は敵対するような関係であることが多く、裁判はわかりやすくすすむのだが、今回はどちらも大聖堂側の人間で、カリノはラクリーアを憎んでいたわけでもない。

 動機が不明というなかですすめる裁判も、裁判官としては気が気ではないだろう。
 それでも相手はシリウル公爵。同情する者には温情を示すものの、嘘は鋭く見抜き、そういった者には容赦はない。

 証言台に立つカリノを、年配のシリウル公爵が法壇から穏やかな視線で見つめていた。

 この法廷内には、大聖堂側の関係者と裁判の行方を見守る高位貴族、そして国王と王太子の姿もあった。
 もちろん、この事件を捜査した騎士団関係者の姿も見える。フィアナもよく知っている騎士団総帥と、捜査本部を取り仕切った本部長。それから第一騎士団から団長、副団長、他数名。

 なによりも聖女ラクリーアは、巡礼の途中の不慮の事故で亡くなったのだ。だから事実を知る者は必要最小限にしたい。その必要最小限とされる面々だった。

「ファデル大聖堂の巫女カリノ。あなたは聖女ラクリーアを殺害しその死体を損壊した。その理由であなたはここに
います」
 朗々としたシリウル公爵の声が、法廷内へと響く。
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