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第五章(2)
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「まぁ、雨が降ったりして川が増水すれば別だが。さすがに、あの子に天気を操るような力はないだろう? まして、そんな魔石も聞いたことがない」
「ですが、聖女様の神聖力ならどうでしょう?」
「ん?」
フィアナの声に、ナシオンが右目だけひくっと動かした。
「聖女様の神聖力であれば、天気を自由に操れるかとか、そういったことはできないのでしょうか?」
「それを俺に聞くか? 俺も知らん。だけど、聖女は殺されているだろう?」
「あっ」
聖女の力を当てにしすぎていた。
「それよりも、だ。カリノちゃんが言っていた短剣を探そう。ほんと、タミオスのおっさんも素直じゃないというか、ひねくれているというか」
ナシオンの言うこともわかるが、タミオスの立場を考えれば仕方ないことなのだろう。
フィアナの暴走によって、情報部に所属する彼らに迷惑をかけてはならない。
「立場かわればってことですよ。ところで、ここから王城の方角は、あちらであっていますよね?」
フィアナが指で示した方角には、真っ白い尖塔が見える。
「あっちが大聖堂で、こっちが王城だな」
「では、ここからあちらに向かって歩けば、隠されている何かがあるということですね」
カリノの話を信じれば、ここから王城へと向かう間に何かを隠したようだ。
「草、生えてるな」
ナシオンの言葉のとおり、フィアナの腹部にまで届くような草がもさもさと生えていた。
「ものを隠すにはもってこいですね。この様子では、第一ではここまで調べてはいないようですね」
草はしっかりと生えている。むしられた様子も、狩られた様子もない。
「ま、草が生えているからな」
よっぽど草の中を歩きたくないのだろう。ナシオンからは、そういった不満な様子が伝わってきた。
ぶつぶつと「草、生えてる。草、生えてる」と文句ばかり言っている。
草を歩きやすいようにと根元から倒すようにして歩く。その後ろをナシオンがついてくるのだから、彼が歩くときにはさほど草も邪魔にはならないと思うのだが。
それでもフィアナが先頭を歩いていてよかった。以前、誰かがここを通ったような、そんな草の倒れ方をしている場所が何カ所かあったのだ。相手もかなり気をつけて歩いたのだろう。意識しないとわからなかった。
「あ、ナシオンさん。あそこ……」
明らかに土を掘り返したような、不自然な場所があった。
「おっ」
ナシオンも察したようだ。
「現場からここまでけっこう距離があるな。あいつらじゃ、ここまで見ないよな」
あいつらとは、もちろん第一騎士団の面々だ。犯人がわかっているから、形だけ捜査したようなものだろう。関係者からの話を聞くのだって、形式だけのもの。その形式的な話すら、聞けていないところはあるが。
「掘ってみます?」
いつの間にかフィアナは、園芸用の移植ごてを手にしていた。今日は休暇ということもあり、帯剣は許されていない。そのかわり腰にぶら下げてきたのが小さなこてであった。
「か弱いレディに掘らせるのは、心が痛むな」
その場にしゃがみ込んだナシオンが、フィアナから小さな移植ごてを受け取り、不自然に盛られている土を掘り起こす。
「子どもの土遊びみたいになってきた」
童心に返るとでも言いたいのだろうか。ナシオンは、せっせと土を掘り起こしていた。
――カツン。
こての先端が固いものに当たった。
「そういや、俺。宝探しが得意な子だった」
「そうですか、ここでもその能力を発揮してくださったようで。ありがたいですね」
そこからは革手袋をした手で、ナシオンがゆっくりと土を掘る。
「ですが、聖女様の神聖力ならどうでしょう?」
「ん?」
フィアナの声に、ナシオンが右目だけひくっと動かした。
「聖女様の神聖力であれば、天気を自由に操れるかとか、そういったことはできないのでしょうか?」
「それを俺に聞くか? 俺も知らん。だけど、聖女は殺されているだろう?」
「あっ」
聖女の力を当てにしすぎていた。
「それよりも、だ。カリノちゃんが言っていた短剣を探そう。ほんと、タミオスのおっさんも素直じゃないというか、ひねくれているというか」
ナシオンの言うこともわかるが、タミオスの立場を考えれば仕方ないことなのだろう。
フィアナの暴走によって、情報部に所属する彼らに迷惑をかけてはならない。
「立場かわればってことですよ。ところで、ここから王城の方角は、あちらであっていますよね?」
フィアナが指で示した方角には、真っ白い尖塔が見える。
「あっちが大聖堂で、こっちが王城だな」
「では、ここからあちらに向かって歩けば、隠されている何かがあるということですね」
カリノの話を信じれば、ここから王城へと向かう間に何かを隠したようだ。
「草、生えてるな」
ナシオンの言葉のとおり、フィアナの腹部にまで届くような草がもさもさと生えていた。
「ものを隠すにはもってこいですね。この様子では、第一ではここまで調べてはいないようですね」
草はしっかりと生えている。むしられた様子も、狩られた様子もない。
「ま、草が生えているからな」
よっぽど草の中を歩きたくないのだろう。ナシオンからは、そういった不満な様子が伝わってきた。
ぶつぶつと「草、生えてる。草、生えてる」と文句ばかり言っている。
草を歩きやすいようにと根元から倒すようにして歩く。その後ろをナシオンがついてくるのだから、彼が歩くときにはさほど草も邪魔にはならないと思うのだが。
それでもフィアナが先頭を歩いていてよかった。以前、誰かがここを通ったような、そんな草の倒れ方をしている場所が何カ所かあったのだ。相手もかなり気をつけて歩いたのだろう。意識しないとわからなかった。
「あ、ナシオンさん。あそこ……」
明らかに土を掘り返したような、不自然な場所があった。
「おっ」
ナシオンも察したようだ。
「現場からここまでけっこう距離があるな。あいつらじゃ、ここまで見ないよな」
あいつらとは、もちろん第一騎士団の面々だ。犯人がわかっているから、形だけ捜査したようなものだろう。関係者からの話を聞くのだって、形式だけのもの。その形式的な話すら、聞けていないところはあるが。
「掘ってみます?」
いつの間にかフィアナは、園芸用の移植ごてを手にしていた。今日は休暇ということもあり、帯剣は許されていない。そのかわり腰にぶら下げてきたのが小さなこてであった。
「か弱いレディに掘らせるのは、心が痛むな」
その場にしゃがみ込んだナシオンが、フィアナから小さな移植ごてを受け取り、不自然に盛られている土を掘り起こす。
「子どもの土遊びみたいになってきた」
童心に返るとでも言いたいのだろうか。ナシオンは、せっせと土を掘り起こしていた。
――カツン。
こての先端が固いものに当たった。
「そういや、俺。宝探しが得意な子だった」
「そうですか、ここでもその能力を発揮してくださったようで。ありがたいですね」
そこからは革手袋をした手で、ナシオンがゆっくりと土を掘る。
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