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第二章(7)

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「では、今日はカリノさんからは何も話を聞き出せていないと?」
「そうだ。凶器が見つかっていない。だから何がなんでもそれを聞き出せというのが第一の奴らからの指示なんだがな」

 何も証言を得られていないから、今日の会議で報告することは何もない。そうとでも言いたげなタミオスの顔だ。

「自分たちは巫女から話を聞き出せないくせに、こういうときばかり俺らをやり玉にあげるのがあいつらでは?」

 ナシオンの言葉に、タミオスは肯定も否定もしなかった。彼の立場を考えれば、ある種、これが正しい反応なのかもしれない。

「こちら。今日、巫女たちから聞いた証言をまとめたものになります」

 微妙な空気を打ち消すかのように、フィアナは報告書を手渡した。

「なかなか興味深い話が聞けたかと思います」
「わかった。今日の報告も頼む」

 報告書はタミオスに渡すものの、全体会議で報告をするのはフィアナかナシオンの役目だ。どちらがするか決まりはないので、その場の気分次第で決める。
 だが、巫女から直接話を聞いているのはフィアナなので、この案件に関してはフィアナが報告する。

 報告書に目を通したタミオスは、特別、何も言わなかった。この流れにそって報告すればいいだろうと、それくらいだった。

 夕方の会議にナシオンと共に出席したフィアナだが、第一騎士団からは信じられないような報告があがる。

「容疑者カリノの兄、キアロですが、派遣されている東のドランの聖堂にはおりませんでした」

 王都から東にあるドランの街。馬車で半日かかる場所にあるが、騎士団が所有する早馬であれば、その半分の時間で行き来が可能だ。

「いない? いないというのはどういうことだ?」

 そんな声が捜査本部長からあがった。そう聞きたくなる気持ちもよくわかる。
 隣に座っているナシオンに視線だけ向けると、彼の口の端もひくひくと動いていた。何かしら文句を言いたいようだ。それを堪えている。

「はい。大聖堂の聖騎士から、キアロは東のドランの聖堂に派遣されていると聞き、そこへ向かったわけですが。ドランの聖堂にいる聖騎士からはキアロは来ていないと……」

 消え入るような語尾は、この次に聞こえてくる言葉がわかっているからなのだろう。もしくは、はっきりと言いたくないのか。

 身体の大きな男性騎士が、背中を丸めている様子を目にすると、ほんの少しは同情していまう。

「来ていない? もう少し、わかりやすく説明しろ」
「は、はい。聖騎士キアロですが、大聖堂から東のドランの聖堂に派遣される予定でした。大聖堂を出た姿は仲間の聖騎士に目撃されており、挨拶も交わしていることから間違いはないかと思います。ドランの聖堂にいる他の聖騎士に確認したところ、キアロが派遣される話は聞いていないと……」

 また語尾が小さくなっていく。

「引き続き、キアロの行方を追うこと。それから大聖堂とドランの聖堂の関係者から話を聞くように」
「は、はい……」

 つまり、キアロは行方不明。
 その事実をカリノに伝えていいものかどうかと一瞬悩んだものの、むしろ彼女はキアロの行方を知っているのではないかと、そう思えてきた。

 フィアナの番がやってきて、メッサたちから聞いた話を端的に伝えた。やはり突っ込まれたのは、夜中にカリノが大聖堂からどうやって出ていったのかという点である。

「その件に関しましては、本人から直接話を聞きます」

 どちらにしろ、明日はカリノから話を聞かねばならない。
 それ以上の追求はなく、フィアナの報告は終わった。
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