6 / 66
第一章(5)
しおりを挟む
「ああ、俺もしらん」
予想した通りの答えが返ってきた。これでナシオンが神聖力について知っていたらもうけもんだと、そんなふうに考えていただけだった。
ナシオンはフィアナの隣の席に座る。
「ナシオンさん。あの子と話をして、本当にあの子がやったのかって、そればかり考えているんです」
心の中にあったもやもやを吐露した。
「それは、何かの根拠があってそう思っているのか?」
「いえ、勘です」
だから、どこにも報告はできない。根拠のない勘は、捜査を混乱させるだけ。それなのに勘は大事にしろとも言われている。
「俺たち情報部の人間としては、情報を収集し、その情報から真実を見極めるだけだからな」
余計な感情は捨てろとでもナシオンは言いたげだった。
「おい、フィアナ」
部屋の入り口から大声で名前を呼ばれた。フィアナ以外の者も顔をあげ、声の出所を確認するように首を振る。
「は、はい」
立ち上がって、ここにいますとアピールしなければ、その者はフィアナの名前を大声で呼び続けるのではないかと思えてきた。
さらに声をしたほうに顔を向けると、情報部をとりまとめている情報部長、タミオスの姿が目に入る。
「なんだ、そこにいたのか。小さくて見えなかった」
フィアナの父親と同じくらいの年代のタミオスは、こうやってフィアナをいじるような発言をちょくちょくとしてくる。
「部長、それ禁句です」
すかさず反論したのはナシオンだ。
「なんだ。ナシオンまでいるのか」
「俺たち、コンビですからね。二人一組での行動が基本」
ナシオンとタミオスの話を聞きながらも、いったいこのようなときになんの用だろうと、フィアナは思案する。たいてい、タミオス本人がこうやってフィアナを探しているときは、面倒な仕事しか持ってこない。
今日のカリノの取り調べだって、彼がフィアナを指名したからだ。
ダミオスがずかずかと目の前にまで近づいてきたので、ぐいっと見上げた。
どうせなので、ついでに今日の調書も手渡しておく。
「部長。本日の調書です。たいした話は聞けておりませんが、今後の扱いについてはひととおり説明はしました」
「一度ですべて聞き出せなんては言わない。お前に望むのは、あの子の心に寄り添って真実を聞き出すことだ」
この男はフィアナをけなしたかと思えば、こうやって励ます言葉をかけてくる。フィアナも苦手とする人物の一人であるものの、嫌いになれないのはこのような面があるからだろう。
「明日は、大聖堂に行って巫女たちの話を聞いてくれ」
「それは、第一が担当ではないのですか?」
現場を確認したり関係者から話を聞いたりしているのは、第一騎士団に所属する騎士たちだ。
「そうなんだが……。巫女たちが、あいつらを見て怯えてるみたいでな。こう、会話が弾まないというか」
会話を弾ませるようなところではないのだが、巫女たちから必要な話が引き出せていないというのだけはわかった。
フィアナ自身も、今日は同じような感じだ。カリノから必要な情報を聞き出せていない。
巫女たちも、いきなり男性の騎士がずかずかとやってきて、話を聞かせてくれと言われたら、警戒してしまうだろう。まして俗世と距離を置いている彼女たちであれば、なおのこと。
「まあ。今日のこれからの会議であいつらの成果報告もあるだろうが。どこも似たり寄ったりだろうな。被害者が聖女様ってだけで、なんかこう、隠されている感じがするんだよな」
フィアナが手渡した調書を、手のひらにパシンパシンと打ち付けて、タミオスは自席へと戻っていく。同じ部署なだけに、その席もわりと近くにある。
「淹れ直す?」
ナシオンが聞いたのは紅茶のことだろう。カップから、ゆらいでいた白い湯気は消えている。
「いえ、大丈夫です」
予想した通りの答えが返ってきた。これでナシオンが神聖力について知っていたらもうけもんだと、そんなふうに考えていただけだった。
ナシオンはフィアナの隣の席に座る。
「ナシオンさん。あの子と話をして、本当にあの子がやったのかって、そればかり考えているんです」
心の中にあったもやもやを吐露した。
「それは、何かの根拠があってそう思っているのか?」
「いえ、勘です」
だから、どこにも報告はできない。根拠のない勘は、捜査を混乱させるだけ。それなのに勘は大事にしろとも言われている。
「俺たち情報部の人間としては、情報を収集し、その情報から真実を見極めるだけだからな」
余計な感情は捨てろとでもナシオンは言いたげだった。
「おい、フィアナ」
部屋の入り口から大声で名前を呼ばれた。フィアナ以外の者も顔をあげ、声の出所を確認するように首を振る。
「は、はい」
立ち上がって、ここにいますとアピールしなければ、その者はフィアナの名前を大声で呼び続けるのではないかと思えてきた。
さらに声をしたほうに顔を向けると、情報部をとりまとめている情報部長、タミオスの姿が目に入る。
「なんだ、そこにいたのか。小さくて見えなかった」
フィアナの父親と同じくらいの年代のタミオスは、こうやってフィアナをいじるような発言をちょくちょくとしてくる。
「部長、それ禁句です」
すかさず反論したのはナシオンだ。
「なんだ。ナシオンまでいるのか」
「俺たち、コンビですからね。二人一組での行動が基本」
ナシオンとタミオスの話を聞きながらも、いったいこのようなときになんの用だろうと、フィアナは思案する。たいてい、タミオス本人がこうやってフィアナを探しているときは、面倒な仕事しか持ってこない。
今日のカリノの取り調べだって、彼がフィアナを指名したからだ。
ダミオスがずかずかと目の前にまで近づいてきたので、ぐいっと見上げた。
どうせなので、ついでに今日の調書も手渡しておく。
「部長。本日の調書です。たいした話は聞けておりませんが、今後の扱いについてはひととおり説明はしました」
「一度ですべて聞き出せなんては言わない。お前に望むのは、あの子の心に寄り添って真実を聞き出すことだ」
この男はフィアナをけなしたかと思えば、こうやって励ます言葉をかけてくる。フィアナも苦手とする人物の一人であるものの、嫌いになれないのはこのような面があるからだろう。
「明日は、大聖堂に行って巫女たちの話を聞いてくれ」
「それは、第一が担当ではないのですか?」
現場を確認したり関係者から話を聞いたりしているのは、第一騎士団に所属する騎士たちだ。
「そうなんだが……。巫女たちが、あいつらを見て怯えてるみたいでな。こう、会話が弾まないというか」
会話を弾ませるようなところではないのだが、巫女たちから必要な話が引き出せていないというのだけはわかった。
フィアナ自身も、今日は同じような感じだ。カリノから必要な情報を聞き出せていない。
巫女たちも、いきなり男性の騎士がずかずかとやってきて、話を聞かせてくれと言われたら、警戒してしまうだろう。まして俗世と距離を置いている彼女たちであれば、なおのこと。
「まあ。今日のこれからの会議であいつらの成果報告もあるだろうが。どこも似たり寄ったりだろうな。被害者が聖女様ってだけで、なんかこう、隠されている感じがするんだよな」
フィアナが手渡した調書を、手のひらにパシンパシンと打ち付けて、タミオスは自席へと戻っていく。同じ部署なだけに、その席もわりと近くにある。
「淹れ直す?」
ナシオンが聞いたのは紅茶のことだろう。カップから、ゆらいでいた白い湯気は消えている。
「いえ、大丈夫です」
76
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる