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4:大好きなお姉さまに新しい出会いがありました(1)
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シオンたちは五日間、ケアード公爵邸に滞在した。これから王都セッテへ向かい、そちらも視察してくるのだとか。
もちろん、父親が彼らを案内する。そのついでに、砂糖の新しい販路も検討してくるようだ。
「お父さま」
顔を貸してと言わんばかりに、セシリアは手を振って父親を呼ぶ。
「どうした、セシリア。寂しいのか? お父様は寂しいぞ。かわいいセシリアと離れたくない」
父親がセシリアを力強く抱きしめた。
「あ、はい。寂しいのは寂しいのですが。イライザさまがどうされているか、確認してきてもらってもいいですか? 本来であれば、そろそろイライザさまが聖女さまだと公表されるはずなのです」
それは謎の記憶によるものだ。そろそろ王都では聖女誕生だと喜びに満ちているはず。
だけど、そういった話が聞こえてこないのだ。王都セッテとフェルトンではどうしても距離があるから、仕方ないのかもしれない。
「わかった。私のかわいいエレノアを傷つけたやつらだからな。どうしているか、確認しておくよ」
イライザが聖女かもしれないという話は、フェルトンの街に来る前にそれとなく家族には伝えた。父親は、そんなセシリアの妄想のような話を、頭の片隅にいれておいてくれたのだ。
ニタリと笑った父親は、セシリアの身体を解放した。
それから十日後。父親たちが戻ってきた。シオンもコンスタッドも、ふたたびフェルトンの街を訪れ、しばらくの間、滞在するとのこと。エレノアが小さく喜んだのをセシリアは見逃さなかった。
「王城は大混乱だったよ」
夕食の席で父親がそう言った。
「ジェラルド殿下とイライザ殿の婚約もまとまっていなかったようですしね。それに、ジェラルド殿下もイライザ殿も、シオン殿下を本当に私の従者だと思っていたのには、笑いが込み上げてきましたよ。近隣諸国の王族の顔すら覚えていないような者が、国のトップにふさわしいとは思えませんがね。この国の行く末は、少し心配ですね」
ははっと笑ったコンスタッドは、そのままエレノアに視線を向けた。するとそれに答えるかのように、エレノアもにっこりと微笑む。
「あと十年、持つか持たないかだろう」
シオンがそう言うと、グラスの中の水を見つめている。なんとなく、気まずい空気が流れた。
その流れを断ち切ったのコンスタッドだ。
「そうそう、ケアード公爵。国に戻ったら、正式に申し込みをしてもよろしいでしょうか?」
彼はワイングラスを手にし、緊張をほぐすかのようにコクリと一口飲んだ。
「何をだろうか?」
父親の声が普段よりも低く聞こえた。
「エレノア嬢に結婚の申し込みを」
シンとその場が静まり返る。エレノアは恥ずかしそうに顔を伏せ、カトラリーを持つ手を動かす。
「なるほど。申し込むのは自由だ。その答えがどうなるかはわからないがな」
「では、そのお言葉に甘えさせていただきます」
やはり緊張していたのだろう。コンスタッドは残りのワインを一気に飲み干した。
「ダメです」
セシリアの甲高い声が響いた。
「ダメです。お姉さまは結婚してはダメです。お姉さま、シング公爵と結婚したらロックウェルに行ってしまうのでしょう? いやです。セシリア、寂しいです」
「そういうことのようだ、シング公爵」
なぜか父親が勝ち誇った笑みを浮かべている。
「セシリア嬢。何も、今すぐエレノア嬢と結婚してロックウェルに連れて帰るというわけではないよ? そうだね、まずは結婚の約束だ。一緒にデートしませんか? というお願いをする。これならどうだい?」
エレノアとコンスタッドがデートする。
それなら何も問題ないだろう。
もちろん、父親が彼らを案内する。そのついでに、砂糖の新しい販路も検討してくるようだ。
「お父さま」
顔を貸してと言わんばかりに、セシリアは手を振って父親を呼ぶ。
「どうした、セシリア。寂しいのか? お父様は寂しいぞ。かわいいセシリアと離れたくない」
父親がセシリアを力強く抱きしめた。
「あ、はい。寂しいのは寂しいのですが。イライザさまがどうされているか、確認してきてもらってもいいですか? 本来であれば、そろそろイライザさまが聖女さまだと公表されるはずなのです」
それは謎の記憶によるものだ。そろそろ王都では聖女誕生だと喜びに満ちているはず。
だけど、そういった話が聞こえてこないのだ。王都セッテとフェルトンではどうしても距離があるから、仕方ないのかもしれない。
「わかった。私のかわいいエレノアを傷つけたやつらだからな。どうしているか、確認しておくよ」
イライザが聖女かもしれないという話は、フェルトンの街に来る前にそれとなく家族には伝えた。父親は、そんなセシリアの妄想のような話を、頭の片隅にいれておいてくれたのだ。
ニタリと笑った父親は、セシリアの身体を解放した。
それから十日後。父親たちが戻ってきた。シオンもコンスタッドも、ふたたびフェルトンの街を訪れ、しばらくの間、滞在するとのこと。エレノアが小さく喜んだのをセシリアは見逃さなかった。
「王城は大混乱だったよ」
夕食の席で父親がそう言った。
「ジェラルド殿下とイライザ殿の婚約もまとまっていなかったようですしね。それに、ジェラルド殿下もイライザ殿も、シオン殿下を本当に私の従者だと思っていたのには、笑いが込み上げてきましたよ。近隣諸国の王族の顔すら覚えていないような者が、国のトップにふさわしいとは思えませんがね。この国の行く末は、少し心配ですね」
ははっと笑ったコンスタッドは、そのままエレノアに視線を向けた。するとそれに答えるかのように、エレノアもにっこりと微笑む。
「あと十年、持つか持たないかだろう」
シオンがそう言うと、グラスの中の水を見つめている。なんとなく、気まずい空気が流れた。
その流れを断ち切ったのコンスタッドだ。
「そうそう、ケアード公爵。国に戻ったら、正式に申し込みをしてもよろしいでしょうか?」
彼はワイングラスを手にし、緊張をほぐすかのようにコクリと一口飲んだ。
「何をだろうか?」
父親の声が普段よりも低く聞こえた。
「エレノア嬢に結婚の申し込みを」
シンとその場が静まり返る。エレノアは恥ずかしそうに顔を伏せ、カトラリーを持つ手を動かす。
「なるほど。申し込むのは自由だ。その答えがどうなるかはわからないがな」
「では、そのお言葉に甘えさせていただきます」
やはり緊張していたのだろう。コンスタッドは残りのワインを一気に飲み干した。
「ダメです」
セシリアの甲高い声が響いた。
「ダメです。お姉さまは結婚してはダメです。お姉さま、シング公爵と結婚したらロックウェルに行ってしまうのでしょう? いやです。セシリア、寂しいです」
「そういうことのようだ、シング公爵」
なぜか父親が勝ち誇った笑みを浮かべている。
「セシリア嬢。何も、今すぐエレノア嬢と結婚してロックウェルに連れて帰るというわけではないよ? そうだね、まずは結婚の約束だ。一緒にデートしませんか? というお願いをする。これならどうだい?」
エレノアとコンスタッドがデートする。
それなら何も問題ないだろう。
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