12 / 18
3:大好きなお姉さまとひきこもります(3)
しおりを挟む
彼女を見つけたのはセシリアで、人を呼び、モリスを屋敷にと連れて帰ってきた。幼いセシリアであっても、道ばたに年頃の女性を転がしておくのは危険だと思ったのだ。
目を覚ましたモリスは、セシリアに非常に感謝した。さらにフェルトンの街を気に入り、ここに住むとまで言い出す始末。
モリスがこの街を気に入ったのは、もちろん砂糖があるから。食べ物が美味しい、ほかのものは食べられないとまで言っている。
そして、年頃だと思われたモリスだが、実はセシリアの母親よりもちょっとだけ年上だった。
そんなモリスは、今はさとうきび畑の管理人として働いている。彼女は、四属性、すべての魔法が使えた。四属性の魔法を使える者を「賢者」と呼んでいるのだが――。
(賢者モリス……)
セシリアには、なんとなくその名に聞き覚えがあった。おそらく謎の記憶が絡んでいるのだろう。だが、それ以上の情報もないし、記憶も流れ込んでこない。知っているのはモリスが賢者だということだけ。だから、彼女をこの屋敷に住まわせているが、もちろんモリスが賢者であることをエレノアも知っているし、両親にも手紙で知らせた。
また、モリスと一緒に暮らしてわかったのは、彼女は騒がしいところが嫌いだということ。だからエレノア目当てに屋敷にやってくるような人物は、風魔法を使って追い払っていた。エレノアだって風魔法の使い手だが、人を移動させるほどの強烈な魔法は使えない。
こうやってエレノアはみんなから守られているのだ。
そしてセシリアは、母親と同じ水魔法の使い手だろうと、モリスが言った。本来であれば十歳から通い始め津学園で、魔力の種別をみるのだが、セシリアはまだ七歳。学園にも通っていないからわからなかった。
最初はエレノアに魔法を教えてもらおうとしたのだが、それがうまくいかなかったのは、身につけている属性が異なっていたからだ、というのがモリスのおかげでわかった。
どちらにしろ、エレノアは領主代理として忙しくなり、セシリアに魔法を教えるどころではなくなったのだ。だからモリスが、セシリアに魔法を教えている。
屋敷の二階から外を眺めていたセシリアは、正門の前に一台の馬車が止まったのを確認した。ケアード公爵の家紋がついている馬車だ。さらにもう一台、馬車が止まり、護衛の騎士らの姿も見え始めた。
「お姉さま、お父さまが来ました」
使用人たちに最後の仕上げとばかりに指示を出していたエレノアを見つけ伝えると、セシリアも慌てて玄関ホールへと向かった。
「お父さま~」
ホールに入ってきた人影を見て、セシリアはおもいっきり抱きついた。父親に会うのは一ヶ月ぶりだ。
「残念ながら、俺は君のお父様ではないが?」
「セシリア!」
父親の声は、少し遠いところから聞こえた。
おそるおそる顔をあげると、深緑の髪に紫色の瞳の男の顔が見える。父親の髪色は金色だ。
「だれ?」
「セシリア、お客様だよ。離れなさい」
その言葉で、ひしっと彼に抱きついていたことに気づき、ぱっと両手をはなした。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。セシリア・ケアードです」
今までのことはなかったかのように、スカートの裾を持ち上げて礼をした。
「はじめまして、セシリア嬢。私がコンスタッド・シング。当分の間、お世話になるね」
目を覚ましたモリスは、セシリアに非常に感謝した。さらにフェルトンの街を気に入り、ここに住むとまで言い出す始末。
モリスがこの街を気に入ったのは、もちろん砂糖があるから。食べ物が美味しい、ほかのものは食べられないとまで言っている。
そして、年頃だと思われたモリスだが、実はセシリアの母親よりもちょっとだけ年上だった。
そんなモリスは、今はさとうきび畑の管理人として働いている。彼女は、四属性、すべての魔法が使えた。四属性の魔法を使える者を「賢者」と呼んでいるのだが――。
(賢者モリス……)
セシリアには、なんとなくその名に聞き覚えがあった。おそらく謎の記憶が絡んでいるのだろう。だが、それ以上の情報もないし、記憶も流れ込んでこない。知っているのはモリスが賢者だということだけ。だから、彼女をこの屋敷に住まわせているが、もちろんモリスが賢者であることをエレノアも知っているし、両親にも手紙で知らせた。
また、モリスと一緒に暮らしてわかったのは、彼女は騒がしいところが嫌いだということ。だからエレノア目当てに屋敷にやってくるような人物は、風魔法を使って追い払っていた。エレノアだって風魔法の使い手だが、人を移動させるほどの強烈な魔法は使えない。
こうやってエレノアはみんなから守られているのだ。
そしてセシリアは、母親と同じ水魔法の使い手だろうと、モリスが言った。本来であれば十歳から通い始め津学園で、魔力の種別をみるのだが、セシリアはまだ七歳。学園にも通っていないからわからなかった。
最初はエレノアに魔法を教えてもらおうとしたのだが、それがうまくいかなかったのは、身につけている属性が異なっていたからだ、というのがモリスのおかげでわかった。
どちらにしろ、エレノアは領主代理として忙しくなり、セシリアに魔法を教えるどころではなくなったのだ。だからモリスが、セシリアに魔法を教えている。
屋敷の二階から外を眺めていたセシリアは、正門の前に一台の馬車が止まったのを確認した。ケアード公爵の家紋がついている馬車だ。さらにもう一台、馬車が止まり、護衛の騎士らの姿も見え始めた。
「お姉さま、お父さまが来ました」
使用人たちに最後の仕上げとばかりに指示を出していたエレノアを見つけ伝えると、セシリアも慌てて玄関ホールへと向かった。
「お父さま~」
ホールに入ってきた人影を見て、セシリアはおもいっきり抱きついた。父親に会うのは一ヶ月ぶりだ。
「残念ながら、俺は君のお父様ではないが?」
「セシリア!」
父親の声は、少し遠いところから聞こえた。
おそるおそる顔をあげると、深緑の髪に紫色の瞳の男の顔が見える。父親の髪色は金色だ。
「だれ?」
「セシリア、お客様だよ。離れなさい」
その言葉で、ひしっと彼に抱きついていたことに気づき、ぱっと両手をはなした。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。セシリア・ケアードです」
今までのことはなかったかのように、スカートの裾を持ち上げて礼をした。
「はじめまして、セシリア嬢。私がコンスタッド・シング。当分の間、お世話になるね」
574
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。
章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。
真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。
破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。
そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。
けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。
タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。
小説家になろう様にも投稿。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる