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3:大好きなお姉さまとひきこもります(3)

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 彼女を見つけたのはセシリアで、人を呼び、モリスを屋敷にと連れて帰ってきた。幼いセシリアであっても、道ばたに年頃の女性を転がしておくのは危険だと思ったのだ。
 目を覚ましたモリスは、セシリアに非常に感謝した。さらにフェルトンの街を気に入り、ここに住むとまで言い出す始末。
 モリスがこの街を気に入ったのは、もちろん砂糖があるから。食べ物が美味しい、ほかのものは食べられないとまで言っている。
 そして、年頃だと思われたモリスだが、実はセシリアの母親よりもちょっとだけ年上だった。
 そんなモリスは、今はさとうきび畑の管理人として働いている。彼女は、四属性、すべての魔法が使えた。四属性の魔法を使える者を「賢者」と呼んでいるのだが――。
(賢者モリス……)
 セシリアには、なんとなくその名に聞き覚えがあった。おそらく謎の記憶が絡んでいるのだろう。だが、それ以上の情報もないし、記憶も流れ込んでこない。知っているのはモリスが賢者だということだけ。だから、彼女をこの屋敷に住まわせているが、もちろんモリスが賢者であることをエレノアも知っているし、両親にも手紙で知らせた。
 また、モリスと一緒に暮らしてわかったのは、彼女は騒がしいところが嫌いだということ。だからエレノア目当てに屋敷にやってくるような人物は、風魔法を使って追い払っていた。エレノアだって風魔法の使い手だが、人を移動させるほどの強烈な魔法は使えない。
 こうやってエレノアはみんなから守られているのだ。
 そしてセシリアは、母親と同じ水魔法の使い手だろうと、モリスが言った。本来であれば十歳から通い始め津学園で、魔力の種別をみるのだが、セシリアはまだ七歳。学園にも通っていないからわからなかった。
 最初はエレノアに魔法を教えてもらおうとしたのだが、それがうまくいかなかったのは、身につけている属性が異なっていたからだ、というのがモリスのおかげでわかった。
 どちらにしろ、エレノアは領主代理として忙しくなり、セシリアに魔法を教えるどころではなくなったのだ。だからモリスが、セシリアに魔法を教えている。

 屋敷の二階から外を眺めていたセシリアは、正門の前に一台の馬車が止まったのを確認した。ケアード公爵の家紋がついている馬車だ。さらにもう一台、馬車が止まり、護衛の騎士らの姿も見え始めた。
「お姉さま、お父さまが来ました」
 使用人たちに最後の仕上げとばかりに指示を出していたエレノアを見つけ伝えると、セシリアも慌てて玄関ホールへと向かった。
「お父さま~」
 ホールに入ってきた人影を見て、セシリアはおもいっきり抱きついた。父親に会うのは一ヶ月ぶりだ。
「残念ながら、俺は君のお父様ではないが?」
「セシリア!」
 父親の声は、少し遠いところから聞こえた。
 おそるおそる顔をあげると、深緑の髪に紫色の瞳の男の顔が見える。父親の髪色は金色だ。
「だれ?」
「セシリア、お客様だよ。離れなさい」
 その言葉で、ひしっと彼に抱きついていたことに気づき、ぱっと両手をはなした。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。セシリア・ケアードです」
 今までのことはなかったかのように、スカートの裾を持ち上げて礼をした。
「はじめまして、セシリア嬢。私がコンスタッド・シング。当分の間、お世話になるね」
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