上 下
11 / 18

3:大好きなお姉さまとひきこもります(2)

しおりを挟む
 もちろん、これらはセシリアの頭の中に流れ込んできた記憶を利用している。それをエレノアに伝え、彼女が事業計画案としてまとめた。
 廃れた街であったフェルトンだが、次第に人が集まり始める。砂糖と砂糖を使った料理の噂を聞きつけたのだろう。
 もちろん、そういった噂を流したのはケアード公爵だ。外交大臣だったころの伝手を使い、それとなく砂糖の話を広めた。
 そしてエレノアとセシリアがフェルトンの街に住み半年ほど経ったころ、本邸にいるケアード公爵から一通の書簡が届いた。
「お父様もわざわざ書簡だなんて、どうされたのかしら?」
 急いで封を切り、中身を確認する。
「お姉さま、お父さまからの手紙には、なんて書いてありましたか?」
 まだ両親が恋しいセシリアにとって、父親からの手紙であれば、どんな内容かとわくわくしてしまう。
 それでも大好きな両親と離れてフェルトンの街に滞在しているのは、エレノアがいるからだ。そして大好きなエレノアと立ち上げたさとうきび事業。今では、真っ白いきらきらと輝く砂糖がフェルトンの街へと出回り、近隣の町や村、そして王都にも少しずつ広がっている。
 フェルトンの砂糖に興味を持つ者も出てきて、さとうきび畑を見学したいとか、砂糖を作る工程を見たいとか、そういった希望も受け入れている。ただ、そのような対応は町長や商会長に任せてあった。
 この事業の中心にエレノアがいると知られてしまえば、彼女に求婚者が集まってくるだろうと、父親が心配したからだ。
 エレノアだって年頃の、魅力的な女性である。そんなエレノアに変な男たちが寄ってこないようにと、使用人やら護衛の者たちが目を光らせている。さらに町長、商会長、その組合員たちもエレノアを女神のように崇拝しているため、それとなく見張っていた。
 その甲斐もあってか、今のところ、エレノアに求婚しようという心臓に毛の生えたような図々しい男性はいない。
「ロックウェル王国のシング公爵家のコンスタッド様が、フェルトンの砂糖に興味を持たれているから、見学に来るそうよ。その間、こちらの屋敷に滞在することになるから、準備をするようにって。あらあら、どうしましょう。忙しくなるわね。お父様も一緒に来られるそうよ」
「やったぁ~」
 今回は、隣国ロックウェルの貴族ということもあり、フェルトンの領主であるケアード公爵に打診したのだろう。今までの見学者とは異なる。だからケアード公爵も同伴すると、手紙で知らせてきたのだ。
「では、早速準備にとりかからなくてはね。明後日には来られるそうだから」
「コンスタッド様は、今は本邸のほうにいらっしゃるのですか?」
「そのようね。だけど、今回の訪問はお忍びのようよ」
 しっと唇の前に人差し指を立てるエレノアの姿は、普段より幼く見えた。
 エレノアが急いで使用人たちを集め、明後日に公爵が客人を連れてやってくる旨を伝える。
「あ、モリスに伝えないと」
 セシリアが声をあげる。
「そうね。モリスがへそを曲げてしまっては、たいへんだわ」
 モリスとは、二ヶ月ほど前に、フェルトンの街の入り口に倒れていた女性だ。どうやら王都へと向かおうとしていたらしいのだが、道に迷ってフェルトンにたどり着いたらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...