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2:大好きなお姉さまに気づかれました(2)
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「おはようございます。今日のセシリアはお寝坊さんだったのよ。わたくしが起こして、やっと起きたの」
執事が椅子を引きエレノアは自然と座るものの、口だけはしっかりと動いている。
「昨日は慣れない場で疲れたのだろう。今日はゆっくりと休んでいなさい」
父親のその声が合図になったかのように、食事が運ばれてきた。
セシリアがぐっすりと眠りこけてしまったのは、わけのわからない記憶のせいだ。
夢だと思っていた。いや、あれは間違いなく夢だった。ただ夢から覚めても、内容はばっちりと覚えている。
横目でチラリとエレノアを確認すると、目が合った。
「セシリア、こちらのジャムも美味しいわよ」
エレノアがオレンジ色のジャムを手渡した。
婚約破棄をつきつけられて落ち込んでいると思われたエレノアだが、そうでもなかった。しかし、夢の中の彼女は間違いなくジェラルドが好きだった。いや、執着かもしれない。そのいきすぎた歪んだ愛の先に待っているのが処刑である。
(早ければ今日。婚約解消の書類が届くはず。だけど陛下もお姉様のことを気に入っているから、意思確認のような書類だったはず)
エレノアがすすめてくれたジャムをパンにたっぷりと塗りつける。
(婚約解消による慰謝料が提示されるけれど、それが最低金額で……ほかに領地をという話だったけれど、その領地も王家がもてあましている場所で……。だからお父様は婚約解消するメリットが見いだせず、陛下の思惑とおり、お姉様とジェラルド様の婚約は解消されず、このあとも続くのよね)
ジェラルドがあの場で婚約破棄宣言をしても、簡単にそれが実現されるわけではない。国王も巻き込んで、後腐れないように手続きする必要があるのだが、やはり国王は二人の婚約解消については反対なのだ。
王太子妃として、エレノア以上にふさわしい女性はいないだろう。魔法公爵家の娘で、父親は外交大臣を務め国内外に顔が広い。母親も、独身時代には学園で教鞭をふるっている。また、水魔法を繊細に操るため、水害が起こったときにはたまに呼び出される。この国の水瓶を守っているのはケアード公爵夫人とも、裏ではささやかれているほど。
「セシリア。今日はたくさん食べたのね」
そんな母親の声で我に返る。
「はい」
元気よく返事をして、牛乳をごくりと飲んだ。
朝食後、少し休んでセシリアは、エレノアを庭園の散歩に誘った。
「お姉さまは、もう、学校に行かなくていいんですよね?」
気づいたら、セシリアはそう尋ねていた。
昨日は卒業パーティーだった。卒業パーティーには卒業生の家族も参加できる。だからセシリアも両親と共にあの場にいて、エレノアの門出を祝う予定だった。
「そうね。卒業したからね」
その口調は、どこか寂しそうにも聞こえた。
ふわりと風が吹き、花の香りをのせてくる。
「今日から、セシリアはお姉さまと一緒にいられるのですよね? お姉さまはずっとお屋敷におりますよね? セシリアにも魔法を教えてください」
セシリアはエレノアが大好きだ。謎の記憶が流れ込んできても、セシリアの本質がかわるわけではない。たった七歳の、姉と両親が大好きな女の子。
執事が椅子を引きエレノアは自然と座るものの、口だけはしっかりと動いている。
「昨日は慣れない場で疲れたのだろう。今日はゆっくりと休んでいなさい」
父親のその声が合図になったかのように、食事が運ばれてきた。
セシリアがぐっすりと眠りこけてしまったのは、わけのわからない記憶のせいだ。
夢だと思っていた。いや、あれは間違いなく夢だった。ただ夢から覚めても、内容はばっちりと覚えている。
横目でチラリとエレノアを確認すると、目が合った。
「セシリア、こちらのジャムも美味しいわよ」
エレノアがオレンジ色のジャムを手渡した。
婚約破棄をつきつけられて落ち込んでいると思われたエレノアだが、そうでもなかった。しかし、夢の中の彼女は間違いなくジェラルドが好きだった。いや、執着かもしれない。そのいきすぎた歪んだ愛の先に待っているのが処刑である。
(早ければ今日。婚約解消の書類が届くはず。だけど陛下もお姉様のことを気に入っているから、意思確認のような書類だったはず)
エレノアがすすめてくれたジャムをパンにたっぷりと塗りつける。
(婚約解消による慰謝料が提示されるけれど、それが最低金額で……ほかに領地をという話だったけれど、その領地も王家がもてあましている場所で……。だからお父様は婚約解消するメリットが見いだせず、陛下の思惑とおり、お姉様とジェラルド様の婚約は解消されず、このあとも続くのよね)
ジェラルドがあの場で婚約破棄宣言をしても、簡単にそれが実現されるわけではない。国王も巻き込んで、後腐れないように手続きする必要があるのだが、やはり国王は二人の婚約解消については反対なのだ。
王太子妃として、エレノア以上にふさわしい女性はいないだろう。魔法公爵家の娘で、父親は外交大臣を務め国内外に顔が広い。母親も、独身時代には学園で教鞭をふるっている。また、水魔法を繊細に操るため、水害が起こったときにはたまに呼び出される。この国の水瓶を守っているのはケアード公爵夫人とも、裏ではささやかれているほど。
「セシリア。今日はたくさん食べたのね」
そんな母親の声で我に返る。
「はい」
元気よく返事をして、牛乳をごくりと飲んだ。
朝食後、少し休んでセシリアは、エレノアを庭園の散歩に誘った。
「お姉さまは、もう、学校に行かなくていいんですよね?」
気づいたら、セシリアはそう尋ねていた。
昨日は卒業パーティーだった。卒業パーティーには卒業生の家族も参加できる。だからセシリアも両親と共にあの場にいて、エレノアの門出を祝う予定だった。
「そうね。卒業したからね」
その口調は、どこか寂しそうにも聞こえた。
ふわりと風が吹き、花の香りをのせてくる。
「今日から、セシリアはお姉さまと一緒にいられるのですよね? お姉さまはずっとお屋敷におりますよね? セシリアにも魔法を教えてください」
セシリアはエレノアが大好きだ。謎の記憶が流れ込んできても、セシリアの本質がかわるわけではない。たった七歳の、姉と両親が大好きな女の子。
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