82 / 82
エピローグ
しおりを挟む
吊るされた真っ白いウェディングドレスを、アルベティーナは見上げていた。
明日、このドレスを着てシーグルードと結婚式を挙げる。
今日はさまざまな人のはからいで、マルグレットの国王とミランと話をすることもできた。
初めて会った父親は、ミランにも似ていたしアルベティーナにも似ていた。特に、アルベティーナの白銀の髪は、父親の髪と同じ色だった。
「ティナ……」
ドレスを見上げたままピクリとも動かないアルベティーナを、シーグルードは心配したのか、声をかけてきた。
アルベティーナは振り返る。
「ルディ……」
視線が合えば、彼はふっと微笑んだ。
「泣いているのかと思った」
「そのように見えましたか?」
「少しだけ」
シーグルードは黙ってアルベティーナの隣に並び、共にドレスを見上げた。
「やっと、私もティナの家族になれるのだな」
その言葉にアルベティーナは驚いた。
「今日、君たちを見ていて、そう思った。あのミランさえ、羨ましいと思った。何しろミランは君の兄だし、家族だ。エルッキやセヴェリだって、君と血の繋がりはなくても、君の家族に違いはない。だが、私だけは違っていた」
アルベティーナは、シーグルードの手にそっと触れ、指を絡めとる。
「君を一目見た時、私に妹ができたのかと思った。だが、違った。でも今は、違っていてよかったと思う」
繋がれた手に力が込められる。
「君とは、兄妹ではなく、夫婦になることができるのだから」
「はい……」
「あのとき。君は既に狙われていたんだ。安全だと思われていたここも安全ではなかった。君の居場所を知ったマルグレットの前王の関係者が、君をマルグレットへ連れて行こうとしたらしい」
アルベティーナはドキリとした。
そもそも、なぜマティアスはアルベティーナのことを義妹であると思ったのか。なぜ幼い頃に狙われたのか。
もしかしてアルベティーナの母親は、無理矢理望まぬ関係を持ってしまったのではないだろうか。
「ティナ。マルグレットの国王も言っていただろう? 君は間違いなくマルグレット国王の娘だ」
アルベティーナの不安に気づいたのかもしれない。シーグルードはそう声をかけてきた。
「マルグレットの国王もミランも、君の家族だ。そして、ヘドマン家の皆も」
「はい……。そうですね。私には家族がたくさんいる。それだけで、幸せです」
皆がそう思っているのであれば、変に疑うことはしない方がいい。真実はどうであれ、今、起こっていることが事実なのだ。
「それに……。これから、共に新しい家族を作ることのできる相手は、シーグルード様だけです」
アルベティーナは、きゅっと手に力を込めた。
驚いたシーグルードはアルベティーナを見下ろしてくる。アルベティーナも彼を見上げた。
「ティナ……。そんなに私との間に新しい家族が欲しいのか?」
言うや否や、彼はアルベティーナを抱き上げた。
「ちょ、ちょっと。ルディ。明日は結婚式。今日は、その……、しないって言ってたじゃないですか」
「状況はかわった。君が望むならいくらでも、私を注ぐ。君と、新しい家族を作るために」
「だ、だ、駄目です」
シーグルードの腕の中でアルベティーナが、結局彼に負けてしまったことは言うまでもない。
【完】
明日、このドレスを着てシーグルードと結婚式を挙げる。
今日はさまざまな人のはからいで、マルグレットの国王とミランと話をすることもできた。
初めて会った父親は、ミランにも似ていたしアルベティーナにも似ていた。特に、アルベティーナの白銀の髪は、父親の髪と同じ色だった。
「ティナ……」
ドレスを見上げたままピクリとも動かないアルベティーナを、シーグルードは心配したのか、声をかけてきた。
アルベティーナは振り返る。
「ルディ……」
視線が合えば、彼はふっと微笑んだ。
「泣いているのかと思った」
「そのように見えましたか?」
「少しだけ」
シーグルードは黙ってアルベティーナの隣に並び、共にドレスを見上げた。
「やっと、私もティナの家族になれるのだな」
その言葉にアルベティーナは驚いた。
「今日、君たちを見ていて、そう思った。あのミランさえ、羨ましいと思った。何しろミランは君の兄だし、家族だ。エルッキやセヴェリだって、君と血の繋がりはなくても、君の家族に違いはない。だが、私だけは違っていた」
アルベティーナは、シーグルードの手にそっと触れ、指を絡めとる。
「君を一目見た時、私に妹ができたのかと思った。だが、違った。でも今は、違っていてよかったと思う」
繋がれた手に力が込められる。
「君とは、兄妹ではなく、夫婦になることができるのだから」
「はい……」
「あのとき。君は既に狙われていたんだ。安全だと思われていたここも安全ではなかった。君の居場所を知ったマルグレットの前王の関係者が、君をマルグレットへ連れて行こうとしたらしい」
アルベティーナはドキリとした。
そもそも、なぜマティアスはアルベティーナのことを義妹であると思ったのか。なぜ幼い頃に狙われたのか。
もしかしてアルベティーナの母親は、無理矢理望まぬ関係を持ってしまったのではないだろうか。
「ティナ。マルグレットの国王も言っていただろう? 君は間違いなくマルグレット国王の娘だ」
アルベティーナの不安に気づいたのかもしれない。シーグルードはそう声をかけてきた。
「マルグレットの国王もミランも、君の家族だ。そして、ヘドマン家の皆も」
「はい……。そうですね。私には家族がたくさんいる。それだけで、幸せです」
皆がそう思っているのであれば、変に疑うことはしない方がいい。真実はどうであれ、今、起こっていることが事実なのだ。
「それに……。これから、共に新しい家族を作ることのできる相手は、シーグルード様だけです」
アルベティーナは、きゅっと手に力を込めた。
驚いたシーグルードはアルベティーナを見下ろしてくる。アルベティーナも彼を見上げた。
「ティナ……。そんなに私との間に新しい家族が欲しいのか?」
言うや否や、彼はアルベティーナを抱き上げた。
「ちょ、ちょっと。ルディ。明日は結婚式。今日は、その……、しないって言ってたじゃないですか」
「状況はかわった。君が望むならいくらでも、私を注ぐ。君と、新しい家族を作るために」
「だ、だ、駄目です」
シーグルードの腕の中でアルベティーナが、結局彼に負けてしまったことは言うまでもない。
【完】
10
お気に入りに追加
494
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
貧乏令嬢の私、冷酷侯爵の虫除けに任命されました!
コプラ
恋愛
他サイトにて日間ランキング18位→15位⇧
★2500字〜でサクサク読めるのに、しっかり楽しめます♪
傲慢な男が契約恋愛の相手である、小気味良いヒロインに振り回されて、愛に悶えてからの溺愛がお好きな方に捧げるヒストリカル ロマンスです(〃ω〃)世界観も楽しめます♡
孤児院閉鎖を目論んだと思われる男の元に乗り込んだクレアは、冷たい眼差しのヴォクシー閣下に、己の現実を突きつけられてしまう。涙を堪えて逃げ出した貧乏伯爵家の令嬢であるクレアの元に、もう二度と会わないと思っていたヴォクシー閣下から招待状が届いて…。
「君が条件を飲むのなら、私の虫除けになりなさい。君も優良な夫候補が見つかるかもしれないだろう?」
そう言って、私を夜会のパートナーとしてあちこちに連れ回すけれど、何だかこの人色々面倒くさいわ。遠慮のない関係で一緒に行動するうちに、クレアはヴォクシー閣下の秘密を知る事になる。
それは二人の関係の変化の始まりだった。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
冷酷な王の過剰な純愛
魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、
離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。
マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。
そこへ王都から使者がやってくる。
使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。
王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。
マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。
・エブリスタでも掲載中です
・18禁シーンについては「※」をつけます
・作家になろう、エブリスタで連載しております
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない
迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。
「陛下は、同性しか愛せないのでは?」
そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。
ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とことん悪い奴です。
7章からはバタバタと伏線を回収していきます。
斜め上、いただけた!!
やった!!
ここから、ぐぐっと関係が進みます!!