79 / 82
9-(10)
しおりを挟む
「辛い思いをさせて、悪かった」
「いえ。どちらかというと、驚いています。血の繋がった家族はいないと思っていたから……」
アルベティーナは目を伏せる。
「そう思わせてしまったのも、私たちのせいだ」
「ですが、私のことを思ってしてくださったことですよね……」
「寂しい思いをさせた」
耳元でシーグルードが囁く。彼の吐息が、耳に触れる。
「いえ。ヘドマンのお父さまも、お母さまも。エルッキお兄さまもセヴェリお兄さまもいらしたから、寂しいと思ったことはありません」
そこでアルベティーナは顔をあげ、シーグルードに視線を向けた。じっと彼のダークグリーンの瞳を力強く見つめる。アルベティーナはシーグルードのこの瞳が好きだった。ルドルフとして一緒にいたときも、シーグルードとして一緒にいるときも、この瞳だけはかわっていない。
「それが、私にとっては少し悔しいな」
アルベティーナを抱き寄せる手に力が込められたことから、その言葉はシーグルードの本心に違いない。
「もしかして……。私が、こちらに来てからシーグルード様の護衛にミランさんをつけたのは……」
「そう。少しでもミランに君の姿を見せてあげたかった。ミランも君のことはずっと気にかけていた。だが、近づく方法はなかった。私は君の婚約者という立場を利用しているし、エルッキもセヴェリも君の兄だ。だがミランは違う。実の兄であるにも関わらず、君と触れ合う方法がなかった。だから少しでも、と思った」
「ありがとうございます……」
シーグルードの腕に包まれたアルベティーナは心からそう思った。シーグルードはアルベティーナのことだけでなく、彼女の兄であるミランのことも気遣っていたのだ。
「ティナ……」
シーグルードが優しく囁く。
「私は、君のことを心から愛している。もう、手放したくない。あのとき、君を守ることができなかったことを、今でも後悔している。どうか、私の側からいなくならないで欲しい……」
それに応えるかのように、アルベティーナもシーグルードの背に手を回す。
「私も、シーグルード様をお慕いしております。出会い方は……、ちょっと……、騙されましたけど」
アルベティーナが見上げて頬を膨らませると、シーグルードは口元を綻ばせている。
「私は、初めて君と出会った時から、君の虜になったよ」
チュッと、シーグルードが額に唇を寄せた。笑みを浮かべ、アルベティーナは尋ねる。
「シーグルード様は、いつから私のことを?」
「だから。初めて君と出会った時から……」
「それって……、いつですか?」
アルベティーナはヘドマン家に引き取られる前は、ここで暮らしていたとアンヌッカは言っていた。そのときにシーグルードと会っているはずなのだが、何しろ幼過ぎてアルベティーナには記憶がない。
「君が、この世に生を受けたときから」
耳元で囁くと、パクリと耳朶を噛んできた。それには思わずアルベティーナも肩をすくめてしまう。
「シーグルード様……」
「だから、言っただろう? 私は君の虜だと。君に溺れているんだ。君を一目見た時から。ずっと、私の側にいて欲しいと思った。だから、あのとき、君が奪われようとしたときは……」
それ以上の言葉は続かず、シーグルードが唇を噛みしめている。アルベティーナは、シーグルードの傷跡がある場所に触れた。
「シーグルード様が、私を守ろうとしてくださったこと。お母さまから聞きました」
「ティナ……。そんなところを触られたら、私は……」
シーグルードはアルベティーナを抱き上げる。
「正式に婚約をしたんだ。何も問題は無いよな」
「シーグルード様……」
「だから、ルディと。これからは、二人きりのときは、そう呼んで?」
「いえ。どちらかというと、驚いています。血の繋がった家族はいないと思っていたから……」
アルベティーナは目を伏せる。
「そう思わせてしまったのも、私たちのせいだ」
「ですが、私のことを思ってしてくださったことですよね……」
「寂しい思いをさせた」
耳元でシーグルードが囁く。彼の吐息が、耳に触れる。
「いえ。ヘドマンのお父さまも、お母さまも。エルッキお兄さまもセヴェリお兄さまもいらしたから、寂しいと思ったことはありません」
そこでアルベティーナは顔をあげ、シーグルードに視線を向けた。じっと彼のダークグリーンの瞳を力強く見つめる。アルベティーナはシーグルードのこの瞳が好きだった。ルドルフとして一緒にいたときも、シーグルードとして一緒にいるときも、この瞳だけはかわっていない。
「それが、私にとっては少し悔しいな」
アルベティーナを抱き寄せる手に力が込められたことから、その言葉はシーグルードの本心に違いない。
「もしかして……。私が、こちらに来てからシーグルード様の護衛にミランさんをつけたのは……」
「そう。少しでもミランに君の姿を見せてあげたかった。ミランも君のことはずっと気にかけていた。だが、近づく方法はなかった。私は君の婚約者という立場を利用しているし、エルッキもセヴェリも君の兄だ。だがミランは違う。実の兄であるにも関わらず、君と触れ合う方法がなかった。だから少しでも、と思った」
「ありがとうございます……」
シーグルードの腕に包まれたアルベティーナは心からそう思った。シーグルードはアルベティーナのことだけでなく、彼女の兄であるミランのことも気遣っていたのだ。
「ティナ……」
シーグルードが優しく囁く。
「私は、君のことを心から愛している。もう、手放したくない。あのとき、君を守ることができなかったことを、今でも後悔している。どうか、私の側からいなくならないで欲しい……」
それに応えるかのように、アルベティーナもシーグルードの背に手を回す。
「私も、シーグルード様をお慕いしております。出会い方は……、ちょっと……、騙されましたけど」
アルベティーナが見上げて頬を膨らませると、シーグルードは口元を綻ばせている。
「私は、初めて君と出会った時から、君の虜になったよ」
チュッと、シーグルードが額に唇を寄せた。笑みを浮かべ、アルベティーナは尋ねる。
「シーグルード様は、いつから私のことを?」
「だから。初めて君と出会った時から……」
「それって……、いつですか?」
アルベティーナはヘドマン家に引き取られる前は、ここで暮らしていたとアンヌッカは言っていた。そのときにシーグルードと会っているはずなのだが、何しろ幼過ぎてアルベティーナには記憶がない。
「君が、この世に生を受けたときから」
耳元で囁くと、パクリと耳朶を噛んできた。それには思わずアルベティーナも肩をすくめてしまう。
「シーグルード様……」
「だから、言っただろう? 私は君の虜だと。君に溺れているんだ。君を一目見た時から。ずっと、私の側にいて欲しいと思った。だから、あのとき、君が奪われようとしたときは……」
それ以上の言葉は続かず、シーグルードが唇を噛みしめている。アルベティーナは、シーグルードの傷跡がある場所に触れた。
「シーグルード様が、私を守ろうとしてくださったこと。お母さまから聞きました」
「ティナ……。そんなところを触られたら、私は……」
シーグルードはアルベティーナを抱き上げる。
「正式に婚約をしたんだ。何も問題は無いよな」
「シーグルード様……」
「だから、ルディと。これからは、二人きりのときは、そう呼んで?」
11
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!
Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される
狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった
公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む
すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて…
全編甘々を目指しています。
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる