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「本当はすぐにでも、君の兄であることを名乗りたかった。だけど、それは君を巻き込むことになるし。いや、どちらにしろ、巻き込んでしまった」
「ミランさん……。お兄さま……?」
ミランに抱き締められたアルベティーナは、ヘドマンの家族と共にいるときのような安心感に包まれた。
「私を、兄と呼んでくれるのか?」
アルベティーナはミランの腕の中で、小さく頷く。シーグルードにも似ているミラン。そして、アルベティーナと同じ瞳の色を持つミラン。何よりも、このように彼に抱き締められると、どこか懐かしい感じがする。
「ミラン……。悪いが、そろそろ離れてもらってもいいか?」
シーグルードの声が邪魔をする。
「本当に殿下は……。アルベティーナのことを好きすぎるのは昔からお変わりない」
「ふん」
アルベティーナはミランから解放されるとすぐに、シーグルードに抱き寄せられた。腰にしっかりとシーグルードの手が回っている。
「アルベティーナ。君があのマティウスから何を吹き込まれたのかは知らないが、私たちの父親はマルグレットの前王ではない。今の国王だよ」
「えっ」
シーグルードがそうやって手を回していなかったら、アルベティーナは倒れていたかもしれない。それだけ、彼女にとっては意外な話だった。
「君を身籠った母を、父はグルブランソンに逃がしたんだ。母が伯父……前王に狙われていることを知っていたからね。あの人は、女性に見境がなかったから。それに、王族の血を引いているという意味では、私も君も、当時はいろいろと危なかったんだ。それを受け入れてくれたのが、このグルブランソン……。父が留学したときに、いろいろと世話になったとも言っていたしね」
アルベティーナは小さく震えていた。先ほどから、その震えが止まらない。
父親が生きていた――。
その気持ちが、アルベティーナを昂らせている。
「ティナ、大丈夫か?」
シーグルードがしっかりと彼女の身体を支えながら、気遣ってくれる。
「は、はい……。まだ、信じられなくて」
この数日、アルベティーナにとっては立て続けに信じられない出来事が多々起こっているようにも感じる。
「私はミラン・グランとして、殿下の乳兄弟という立場になった。ただ君は……、ちょっと危なかったから、ヘドマン伯にお願いしたんだ。少し、この場から離れた方がいいだろうという話になってね」
そこからアンヌッカの話に繋がるのだ。だが、アンヌッカもコンラードも、アルベティーナの実の父は知らなそうであった。いろいろと噂されているとしか言わず、生きているのか死んでいるのかさえも口にしなかった。
「アルベティーナ。私はマルグレットに戻るよ。そろそろ父を一人にしておくのもかわいそうだし、何よりもあの国はもう大丈夫だ」
それは前王の子であるマティアスと前王妃であるエステリが捕らえられたからであろう。
「君とシーグルード殿下が婚姻を結ぶことで、二つの国の関係は、より強固なものとなる」
「だけど、私は……」
アルベティーナは、マルグレットの現国王の娘、つまりマルグレットの王女であることを皆に知らせるつもりはなかった。自分は、アルベティーナ・ヘドマンとして、シーグルードと婚約をしたのだ。ミランもアルベティーナの気持ちに気づいたのだろう。
「何も、それを今すぐ公表するとは言っていない。ただ、アルベティーナがシーグルード殿下と一緒になってくれるおかげで、私も安心してマルグレットに戻ることができるというだけで。父も、喜んでいる」
「はい……」
「結婚式には、父と共に出席させて欲しい」
「もちろんだ」
既に口をパクパクとさせることしかできないアルベティーナにかわって、返事をしたのはシーグルードだった。
「アルベティーナ。私はそろそろ仕事に戻る。今度はゆっくり、家族として話をしよう」
「はい」
アルベティーナは消え入るような声で答えた。
「ミランさん……。お兄さま……?」
ミランに抱き締められたアルベティーナは、ヘドマンの家族と共にいるときのような安心感に包まれた。
「私を、兄と呼んでくれるのか?」
アルベティーナはミランの腕の中で、小さく頷く。シーグルードにも似ているミラン。そして、アルベティーナと同じ瞳の色を持つミラン。何よりも、このように彼に抱き締められると、どこか懐かしい感じがする。
「ミラン……。悪いが、そろそろ離れてもらってもいいか?」
シーグルードの声が邪魔をする。
「本当に殿下は……。アルベティーナのことを好きすぎるのは昔からお変わりない」
「ふん」
アルベティーナはミランから解放されるとすぐに、シーグルードに抱き寄せられた。腰にしっかりとシーグルードの手が回っている。
「アルベティーナ。君があのマティウスから何を吹き込まれたのかは知らないが、私たちの父親はマルグレットの前王ではない。今の国王だよ」
「えっ」
シーグルードがそうやって手を回していなかったら、アルベティーナは倒れていたかもしれない。それだけ、彼女にとっては意外な話だった。
「君を身籠った母を、父はグルブランソンに逃がしたんだ。母が伯父……前王に狙われていることを知っていたからね。あの人は、女性に見境がなかったから。それに、王族の血を引いているという意味では、私も君も、当時はいろいろと危なかったんだ。それを受け入れてくれたのが、このグルブランソン……。父が留学したときに、いろいろと世話になったとも言っていたしね」
アルベティーナは小さく震えていた。先ほどから、その震えが止まらない。
父親が生きていた――。
その気持ちが、アルベティーナを昂らせている。
「ティナ、大丈夫か?」
シーグルードがしっかりと彼女の身体を支えながら、気遣ってくれる。
「は、はい……。まだ、信じられなくて」
この数日、アルベティーナにとっては立て続けに信じられない出来事が多々起こっているようにも感じる。
「私はミラン・グランとして、殿下の乳兄弟という立場になった。ただ君は……、ちょっと危なかったから、ヘドマン伯にお願いしたんだ。少し、この場から離れた方がいいだろうという話になってね」
そこからアンヌッカの話に繋がるのだ。だが、アンヌッカもコンラードも、アルベティーナの実の父は知らなそうであった。いろいろと噂されているとしか言わず、生きているのか死んでいるのかさえも口にしなかった。
「アルベティーナ。私はマルグレットに戻るよ。そろそろ父を一人にしておくのもかわいそうだし、何よりもあの国はもう大丈夫だ」
それは前王の子であるマティアスと前王妃であるエステリが捕らえられたからであろう。
「君とシーグルード殿下が婚姻を結ぶことで、二つの国の関係は、より強固なものとなる」
「だけど、私は……」
アルベティーナは、マルグレットの現国王の娘、つまりマルグレットの王女であることを皆に知らせるつもりはなかった。自分は、アルベティーナ・ヘドマンとして、シーグルードと婚約をしたのだ。ミランもアルベティーナの気持ちに気づいたのだろう。
「何も、それを今すぐ公表するとは言っていない。ただ、アルベティーナがシーグルード殿下と一緒になってくれるおかげで、私も安心してマルグレットに戻ることができるというだけで。父も、喜んでいる」
「はい……」
「結婚式には、父と共に出席させて欲しい」
「もちろんだ」
既に口をパクパクとさせることしかできないアルベティーナにかわって、返事をしたのはシーグルードだった。
「アルベティーナ。私はそろそろ仕事に戻る。今度はゆっくり、家族として話をしよう」
「はい」
アルベティーナは消え入るような声で答えた。
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