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アルベティーナの誘拐事件などなかったかのように、婚約の儀は滞りなく行われた。大聖堂にて、多くの関係者に見守られながら、二人は神官の前で誓約書にサインをする。それが終われば、婚約のお披露目パーティとなる。
一通りの関係者に挨拶をしたシーグルードは、アルベティーナを外へと連れ出した。
それはデビュタントのときにも、シーグルードと二人きりになったバルコニーだ。
「ティナ。今日のティナのドレスもよく似合っている」
会場から届く仄かな光。藍色の空に光るのは、満点の星。月は細く、下の方に輝いている。
「ありがとうございます」
「私が選んだからね」
アルベティーナが今日という日に身に着けているドレスは、ミッドナイトブルーのドレス。普段の彼女よりも、大人っぽく見える。
「ティナに、会わせたい人がいるんだ」
シーグルードが優しく笑むと、さわりと夜風が肌に触れる。
「君の、もう一つの家族……」
もう一つの家族と言われても、母親は亡くなったと聞いているし、父親はマルグレットの前王となれば、父親も死んでいる。その言葉にアルベティーナは首を傾げることしかできない。
あとの家族と呼べるような人物は、半分だけ血の繋がった兄であるマティアスだが、彼らは地下牢にいて、マルグレットへの引き渡し時期を決めている最中であると聞いている。
となれば、これから家族になるシーグルードの関係者だろうか。だが、彼の両親である国王と王妃には既に会っている。
シーグルードが合図をするかのように振り返ると、もう一人の男が現れる。その男にアルベティーナは見覚えがあった。
「えっ? ミランさん?」
ミランはシーグルードの護衛騎士だ。エルッキと共にいることも多い。
だがアルベティーナは、ふと気づいた。シーグルードとミランも、どこか共通点があるのだ。今までは気づかなかった何気ないこと。シーグルードもミランも金色の髪。絹糸のように細く、サラサラと流れている。ミランは長い金髪を一つにまとめており、それが彼の特徴の一つでもある。
「アルベティーナ。やっと、君に名乗ることができる。私が、君の兄であると」
「えっ……」
アルベティーナは思わず息を呑んだ。だが、今は薄暗くてよく見えないが、ミランの瞳の色がアルベティーナと同じスカイブルーであったことを思い出す。
「ミランさんが、私のお兄さま?」
そう言われても、信じられるものではない。
「え。ミランさんはマルグレットの前国王の……? 王子派……?」
アルベティーナのつぶやきに、くくっと笑ったのはシーグルードである。
「ティナはあのバカから何を吹き込まれたのかな?」
「えっ」
シーグルードが口にした「あのバカ」とは、間違いなくマティアスのことを指している。
「さぁ、何を吹き込まれたのか、私たちに教えなさい」
「殿下」
シーグルードがアルベティーナに迫ろうとしていたところを、ミランが止めに入る。
「アルベティーナ。そんなに怯えなくていいよ。あいつに何を言われたのか、君が何を誤解しているのかを、私たちは知りたいだけなんだ」
ゆっくりと近づいてきたミランに見下ろされたアルベティーナは、思わず彼を見上げた。このように間近で彼の顔を見たことは無い。ミランはいつも、少し離れた場所に立っているのだ。その存在が無いかのようにひっそりと。
「あの人……。マティアスは、私がマルグレットの前王の娘だと……」
「なるほどね」
ミランは腕を組む。シーグルードはアルベティーナの隣で、くくっと笑っている。
「シーグルードさまっ」
彼に笑われたことが恥ずかしく、アルベティーナはつい声を荒げてしまう。
「ごめん、ティナ。まさか、あのバカの話をそこまで信じているとは思わなかった」
「それは……。それは、誰も私に本当のことを教えてくださらないから……。私、本当の両親のことも、ずっと……、知らなかった……」
「ごめん……」
そう言って、アルベティーナを抱き締めたのはミランだった。
一通りの関係者に挨拶をしたシーグルードは、アルベティーナを外へと連れ出した。
それはデビュタントのときにも、シーグルードと二人きりになったバルコニーだ。
「ティナ。今日のティナのドレスもよく似合っている」
会場から届く仄かな光。藍色の空に光るのは、満点の星。月は細く、下の方に輝いている。
「ありがとうございます」
「私が選んだからね」
アルベティーナが今日という日に身に着けているドレスは、ミッドナイトブルーのドレス。普段の彼女よりも、大人っぽく見える。
「ティナに、会わせたい人がいるんだ」
シーグルードが優しく笑むと、さわりと夜風が肌に触れる。
「君の、もう一つの家族……」
もう一つの家族と言われても、母親は亡くなったと聞いているし、父親はマルグレットの前王となれば、父親も死んでいる。その言葉にアルベティーナは首を傾げることしかできない。
あとの家族と呼べるような人物は、半分だけ血の繋がった兄であるマティアスだが、彼らは地下牢にいて、マルグレットへの引き渡し時期を決めている最中であると聞いている。
となれば、これから家族になるシーグルードの関係者だろうか。だが、彼の両親である国王と王妃には既に会っている。
シーグルードが合図をするかのように振り返ると、もう一人の男が現れる。その男にアルベティーナは見覚えがあった。
「えっ? ミランさん?」
ミランはシーグルードの護衛騎士だ。エルッキと共にいることも多い。
だがアルベティーナは、ふと気づいた。シーグルードとミランも、どこか共通点があるのだ。今までは気づかなかった何気ないこと。シーグルードもミランも金色の髪。絹糸のように細く、サラサラと流れている。ミランは長い金髪を一つにまとめており、それが彼の特徴の一つでもある。
「アルベティーナ。やっと、君に名乗ることができる。私が、君の兄であると」
「えっ……」
アルベティーナは思わず息を呑んだ。だが、今は薄暗くてよく見えないが、ミランの瞳の色がアルベティーナと同じスカイブルーであったことを思い出す。
「ミランさんが、私のお兄さま?」
そう言われても、信じられるものではない。
「え。ミランさんはマルグレットの前国王の……? 王子派……?」
アルベティーナのつぶやきに、くくっと笑ったのはシーグルードである。
「ティナはあのバカから何を吹き込まれたのかな?」
「えっ」
シーグルードが口にした「あのバカ」とは、間違いなくマティアスのことを指している。
「さぁ、何を吹き込まれたのか、私たちに教えなさい」
「殿下」
シーグルードがアルベティーナに迫ろうとしていたところを、ミランが止めに入る。
「アルベティーナ。そんなに怯えなくていいよ。あいつに何を言われたのか、君が何を誤解しているのかを、私たちは知りたいだけなんだ」
ゆっくりと近づいてきたミランに見下ろされたアルベティーナは、思わず彼を見上げた。このように間近で彼の顔を見たことは無い。ミランはいつも、少し離れた場所に立っているのだ。その存在が無いかのようにひっそりと。
「あの人……。マティアスは、私がマルグレットの前王の娘だと……」
「なるほどね」
ミランは腕を組む。シーグルードはアルベティーナの隣で、くくっと笑っている。
「シーグルードさまっ」
彼に笑われたことが恥ずかしく、アルベティーナはつい声を荒げてしまう。
「ごめん、ティナ。まさか、あのバカの話をそこまで信じているとは思わなかった」
「それは……。それは、誰も私に本当のことを教えてくださらないから……。私、本当の両親のことも、ずっと……、知らなかった……」
「ごめん……」
そう言って、アルベティーナを抱き締めたのはミランだった。
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