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「さっきのは飲み薬。飲み物に混ぜて飲ませるんだけどね。こっちは塗り薬。君はどちらがお好みかな」
マティアスも学習したのだろう。アルベティーナの手足を自由にさせてはならないことに。がっちりと足を押さえ、その動きを封じている。
「まずは、ここからかな」
破かれたドレスの胸元を大きく開かれた。素肌に触れる外気。コルセットによって押し上げられた胸に、マティアスの手が触れる。
「これはこれで、そそられるな……。君のその顔も……、興奮する……」
アルベティーナの足に、彼の硬い物が押し付けられた。
「すぐに僕のこれが欲しくなるはずだ」
きゅぽん、と音を立てて小瓶の蓋が外される。その中身がどんなものかわからない以上、警戒するしかないのだが。
「まずはこっちに使って、大人しくなってから、ここに使ってやる」
まるで獲物を狩る肉食獣のように、マティアスは唇を舐め回す。
そして、その小瓶を傾け、アルベティーナの胸元へかけようとしたとき――。
「そこまでだ。マティアス・ダイアン・マルグレット。アルベティーナ・ヘドマンを返してもらおう」
その部屋にぞろぞろと複数の男が入り込んできた。驚いたマティアスは、アルベティーナの上から飛び降りて、逃げようとするものの、この部屋は地下にあり、部屋の出入り口は一か所しかない。その貴重な一か所の出入り口には、グルブランソン王国の騎士たちが封じている。
すぐさまマティアスは拘束される。
「アルベティーナ、無事か」
寝台の上に転がされているアルベティーナの元へ寄ってきたのは、黒髪の騎士。グルブランソン王国の騎士団団長であるルドルフであるのだが。
「団長……、あ。し……シーグルード様?」
「しっ、ティナ。今の俺はルドルフだ」
ルドルフに扮しているシーグルードは、アルベティーナの両手を拘束していたタッセルを解き、彼女の身体を起こすと上着を脱ぎ、アルベティーナの肩からかけた。
「もう、大丈夫だ。何か、されなかったか?」
「あの時と同じ薬を……」
「だが、解毒薬は持っていただろう?」
「はい……」
シーグルードの言葉通り、アルベティーナは裏社交界の潜入調査を行ってから、そういった媚薬の類の解毒薬を持ち歩くことにしている。それは、シーグルードがルドルフであったとき、彼の仕事を手伝っている時期に手渡されたものだ。
あのときアルベティーナが飲まされた薬は、まだ巷に出回っていない新種の媚薬であった。あの場から押収した薬を解析して解毒薬を開発し、念のためにとアルベティーナに持たせていたのだ。
アルベティーナがマティアスに連れられて地下室へと移動していたとき、彼女は解毒薬の存在を思い出してすぐに口に含んだ。暗闇であったため、マティアスには気づかれなかったようだ。
だからこの部屋で寝台に押し倒された後も、意識をなんとか保つことができた。
「団長のおかげです」
アルベティーナは、目の前のシーグルードのことをあえて「団長」と呼んだ。
「ティナ。囮にするような形にして悪かった……」
シーグルードはアルベティーナを抱きかかえると、耳元で小さく呟いた。
「いえ……」
アルベティーナはシーグルードの背に、手を回した。
「お前たち。他に隠し部屋がないか、全てを探せ。それからイリダルとドロテオから話を聞き出せ」
「団長は?」
「先に、アルベティーナを安全な場所に連れていく」
「あの、クレアが……」
「彼女も無事だ。安心しろ」
シーグルードに抱かれたまま、アルベティーナは地下室から連れ出され、そのまま馬車に乗せられた。
「シーグルード様は、戻らなくてもよろしいのですか?」
アルベティーナの隣に、ルドルフに扮したままのシーグルードが座っている。
「ああ。今頃、本物が指揮をとっているから問題ない。私は、君を助けることが目的だったから……」
シーグルードがアルベティーナをそっと抱き寄せる。
「怖かっただろう?」
「はい……。でも、シーグルード様が必ず来て下さると、信じておりましたから……」
それにアルベティーナはシーグルードと約束をした。必ず彼の元に戻ると。
アルベティーナはシーグルードの胸元に顔を伏せた。
マティアスも学習したのだろう。アルベティーナの手足を自由にさせてはならないことに。がっちりと足を押さえ、その動きを封じている。
「まずは、ここからかな」
破かれたドレスの胸元を大きく開かれた。素肌に触れる外気。コルセットによって押し上げられた胸に、マティアスの手が触れる。
「これはこれで、そそられるな……。君のその顔も……、興奮する……」
アルベティーナの足に、彼の硬い物が押し付けられた。
「すぐに僕のこれが欲しくなるはずだ」
きゅぽん、と音を立てて小瓶の蓋が外される。その中身がどんなものかわからない以上、警戒するしかないのだが。
「まずはこっちに使って、大人しくなってから、ここに使ってやる」
まるで獲物を狩る肉食獣のように、マティアスは唇を舐め回す。
そして、その小瓶を傾け、アルベティーナの胸元へかけようとしたとき――。
「そこまでだ。マティアス・ダイアン・マルグレット。アルベティーナ・ヘドマンを返してもらおう」
その部屋にぞろぞろと複数の男が入り込んできた。驚いたマティアスは、アルベティーナの上から飛び降りて、逃げようとするものの、この部屋は地下にあり、部屋の出入り口は一か所しかない。その貴重な一か所の出入り口には、グルブランソン王国の騎士たちが封じている。
すぐさまマティアスは拘束される。
「アルベティーナ、無事か」
寝台の上に転がされているアルベティーナの元へ寄ってきたのは、黒髪の騎士。グルブランソン王国の騎士団団長であるルドルフであるのだが。
「団長……、あ。し……シーグルード様?」
「しっ、ティナ。今の俺はルドルフだ」
ルドルフに扮しているシーグルードは、アルベティーナの両手を拘束していたタッセルを解き、彼女の身体を起こすと上着を脱ぎ、アルベティーナの肩からかけた。
「もう、大丈夫だ。何か、されなかったか?」
「あの時と同じ薬を……」
「だが、解毒薬は持っていただろう?」
「はい……」
シーグルードの言葉通り、アルベティーナは裏社交界の潜入調査を行ってから、そういった媚薬の類の解毒薬を持ち歩くことにしている。それは、シーグルードがルドルフであったとき、彼の仕事を手伝っている時期に手渡されたものだ。
あのときアルベティーナが飲まされた薬は、まだ巷に出回っていない新種の媚薬であった。あの場から押収した薬を解析して解毒薬を開発し、念のためにとアルベティーナに持たせていたのだ。
アルベティーナがマティアスに連れられて地下室へと移動していたとき、彼女は解毒薬の存在を思い出してすぐに口に含んだ。暗闇であったため、マティアスには気づかれなかったようだ。
だからこの部屋で寝台に押し倒された後も、意識をなんとか保つことができた。
「団長のおかげです」
アルベティーナは、目の前のシーグルードのことをあえて「団長」と呼んだ。
「ティナ。囮にするような形にして悪かった……」
シーグルードはアルベティーナを抱きかかえると、耳元で小さく呟いた。
「いえ……」
アルベティーナはシーグルードの背に、手を回した。
「お前たち。他に隠し部屋がないか、全てを探せ。それからイリダルとドロテオから話を聞き出せ」
「団長は?」
「先に、アルベティーナを安全な場所に連れていく」
「あの、クレアが……」
「彼女も無事だ。安心しろ」
シーグルードに抱かれたまま、アルベティーナは地下室から連れ出され、そのまま馬車に乗せられた。
「シーグルード様は、戻らなくてもよろしいのですか?」
アルベティーナの隣に、ルドルフに扮したままのシーグルードが座っている。
「ああ。今頃、本物が指揮をとっているから問題ない。私は、君を助けることが目的だったから……」
シーグルードがアルベティーナをそっと抱き寄せる。
「怖かっただろう?」
「はい……。でも、シーグルード様が必ず来て下さると、信じておりましたから……」
それにアルベティーナはシーグルードと約束をした。必ず彼の元に戻ると。
アルベティーナはシーグルードの胸元に顔を伏せた。
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