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 王城へ向かう日は、セヴェリがアルベティーナの護衛についてくれるとのことだった。
「俺が迎えにくるからな」
 安心しろ、とでも言うかのようにセヴェリは大きく笑った。
「向こうに着いたら、当分は私がティーナの護衛としてつくからね」
 あれほどアルベティーナにエルッキとセヴェリに会わせようとしなかったシーグルードが、どうやら方針転換をしたようだ。
「シーグルード殿下、というよりは国王陛下と王妃陛下の考えかな」
 そう言って、エルッキは笑っていた。
「人材が確保できれば、ティーナにも女性騎士が護衛としてつくようになるからね。でも、まだ婚約の段階だし、公務もさほど多くはないから、外に出るようなことも少ないだろう」
 それでも慣れ親しんだ二人の兄をこうやって近くに配置してくれることが、アルベティーナには心強かった。
 とうとう、王城へと向かう日がやって来た。エルッキとセヴェリは朝早くから騎士団への仕事に向かったし、アンヌッカはアルベティーナの衣装や髪型のことで頭がいっぱいであったようだ。コンラードは、なぜかこのタイミングで騎士団から呼び出され、息子の後を追うようにして王城へと向かった。家令が騎士団からの書状を手にしていたからだ。今朝早く届いていたらしい。その書状にエルッキとセヴェリも首を傾げたが、書状に使用されている封筒や封印が騎士団公式で使用しているものであるため、その内容に従うことにしたようだ。
「このような日に、呼び出されるなんて」
 アンヌッカはぼやいていたが、騎士団からの命令は国からの命令。それに従わなければ、国の命令に背くと捉えられてしまうこともある。
「もしかして、お父さまが警護についてくださるのかしら」
 アルベティーナは呑気にそんな冗談を口にしていた。
「お嬢様。お迎えの馬車がいらっしゃいました」
 使用人が呼びに来た。アルベティーナはアンヌッカと共に、エントランスへ向かう。アルベティーナが屋敷から連れていくことのできる人間は一人。アルベティーナが選んだのは、昔から彼女に仕えてくれた侍女であるクレア。年はアルベティーナの三つ上。これを機に、素敵な伴侶を見つけますと口にしてしまうところが、彼女らしいとも思えた。
「アルベティーナ様、お迎えに参りました」
「あら? セヴェリお兄さまではないの?」
 アルベティーナの迎えと称して現れたのは、昔の同僚でもあるイリダルだった。
「セヴェリは今、緊急案件で呼び出されまして。私が代わりに」
 だからコンラードも呼び出されたのだろう。
「お母さま。こちら、警備隊で一緒だったイリダルさん」
 イリダルはアンヌッカに向かって深く頭を下げる。このようなピシっとしたイリダルを目にするのも、アルベティーナには変な感じがした。イリダルという男は、いつも一歩ふざけた感じがするからだ。
「ティーナ。きちんと王妃陛下の言うことを聞くのよ」
 アンヌッカの声のかけ方は、子供扱いそのものである。
「お預かりいたします」
 イリダルがアルベティーナの手を取り、馬車へと案内する。その後ろに荷物を手にしたクレアがついていく。
「あら? 思っていたよりも、小さな馬車なのね」
 王城からのお迎えであるし、あのシーグルードのことだから、大きくて立派な豪勢な馬車を準備するのかと思っていた。
「えぇ。あまり派手にしますと、周囲に知られてしまいますからね。ここから王城まではさほど距離はありませんが、護衛の人数が限られているため、それとなく知られないようにアルベティーナ様を迎えに行くようにと言われましたので」
「なるほど」
 王城からの豪勢な馬車であると、襲われる可能性が高いとイリダルは言いたいのだろう。
「私もご一緒させていただきます。アルベティーナ様に何かあったら困りますので」
「イリダルさんがそのような言葉でお話されていると、何か、変な気分ですね」
「私のことは、どうかイリダルと」
 それでもアルベティーナの心はどこかむず痒い感じがした。
 アルベティーナはクレアと並んで座り、その向かい側にイリダルが座った。まるで、二人を監視するかのように。
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