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 久しぶりに王都の別邸へ戻ってきたアルベティーナは、懐かしいと思う気持ちに支配されていた。と同時に、どこか寂しい気持ちもする。シーグルードと共に過ごした日々は二十日程であるのに、彼が傍にいることが当たり前のようになっていたのだ。
「いい? ティーナ。婚約の儀までは一か月。それまでに、あなたには何が何でも『強暴姫』から『お淑やかな姫』になるのよ」
 屋敷に戻ってきた途端、いつものアンヌッカに戻ってしまった。まだエントランスだというのに、アンヌッカはアルベティーナに容赦がない。
「おかえり、ティーナ」
「おかえり」
 エルッキとセヴェリも今日は仕事が休みだったのだろうか。アルベティーナが戻ってきた途端、二人ともエントランスに姿を現し、どこか懐かしそうに見つめてくる。
「エルッキ、セヴェリもわかっているわね? ティーナは女性騎士ではなく、殿下の婚約者になるの。ティーナに騎士に戻るように、すすめないでくださいね」
 ピシャリとアンヌッカが二人の兄たちに言い放つ。それを聞いたアルベティーナは肩をすくめることしかできなかった。
「申し訳ありません。セヴェリお兄さま。途中で騎士職を投げ出すようなことになってしまって……」
「ティーナのことだから、そう言うだろうとは思っていた。だが、騎士が一人抜けたからといって回らなくなるような組織であってはならないんだ。ティーナの代わりの人材は既に確保した。まあ、確保したからと言ってすぐに使えるようになるかはわからないが。それでもそうやって人材を育成していくのも、俺たちの仕事だからな」
「そうなのですね」
 アルベティーナがすぐにいなくなって、新しい人材を確保できたという点が、彼女にはひっかかるものがあった。
「だからって、ティーナが騎士団にとっていらない人間であるとか、そういうことはないからな。本当であればティーナには騎士団に残ってもらいたいくらいだが」
 とセヴェリが言いかけると、アンヌッカが鋭い視線を彼に投げつける。
「ま、まあ。そういうことだ。とにかく、殿下との婚約、おめでとう」
「ありがとうございます。あ、エルッキお兄さま……」
 アルベティーナがエルッキを呼ぶと、彼は怪訝そうに目を細める。
「どうかしたのか?」
「あ、あの。エルッキお兄さまは、シーグルードの護衛を外れたのですか?」
 もしそうなったとしたら、それは自分の責任であるとアルベティーナは思っていた。エルッキは目尻を下げて、笑みを浮かべる。
「まさか。そんなことは無いよ」
「ですが。エルッキお兄さまと会うことが無かったので……」
「まぁ、そうかもしれないな。恐らくたまたまだろう」
 エルッキはたまたまと口にしているが、間違いなくシーグルードの思惑があったはずだ。エルッキはそれに気付いているのかいないのか。深入りしない方がいいだろう。
「ティーナ。疲れたでしょう? 時間まで部屋で休んでいる? それともお茶にする?」
「お母さまに相談したいことが……」
「わかったわ。少し休んでから、サロンに来なさい」
 アルベティーナの荷物を侍女が運び、アルベティーナは部屋へと向かった。侍女には着替えを頼む。今、着ているドレスはシーグルードが見立ててくれた紺色のドレスだ。きっちりと身体を締め付け、ふんわりと広がったスカート。いつも動きやすい恰好をしていたアルベティーナにとっては、新鮮な恰好でもあった。
 普段着ていた、動きやすいハイウェストのドレスに着替える。アルベティーナが好んでいるベビーブルーのドレスだ。身体の締め付けるものがなくなったら、気持ちもやっと解放された気分になった。アンヌッカは少し休んでからと言っていたが、着替えが終わったアルベティーナは、サロンへと向かった。
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