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本来であれば、『婚約の儀』の後に王城入りするアルベティーナを、シーグルードの我儘のせいで早めてしまったことを王妃は指摘しているのだ。だから、ヘドマン伯が王都にいなかったことを理由にして、預かっているという表現したにすぎない。
「アルベティーナ。『婚約の儀』は一か月後。それまでにも何度か、こちらに来てもらう必要はありますが、それまでは家族の元で過ごしなさい」
にっこりと微笑む王妃の顔は、やはりシーグルードによく似ていた。
「ありがとうございます」
アルベティーナは小さくその言葉を口にした。
こうしてようやく、アルベティーナは王都の別邸へと戻ることができたのだった。
帰りの馬車の中、アルベティーナはアンヌッカと並んで座った。いつもは、アルベティーナを着飾らせるために口うるさいと思っていた母親であるが、こうして久しぶりに会うと懐かしさと、言いたいことがたくさん込み上げてくる。
「お母さま、いろいろ相談したいことがあります」
「ええ、そうね。だけど、まずはあなたにお祝いの言葉を。シーグルード様のこと、本当におめでとう」
アンヌッカは「おめでとう」と口にした。そう言われると、誰からもその言葉をかけられていなかったことに気づいた。
「ティーナは殿下のことが好きなのか?」
腕を組んでむすっとした表情でコンラードが尋ねた。
「あら。あなた。娘をとられていじけているのね」
アンヌッカは微笑んでいた。だが、コンラードから直球な質問を受け取ったアルベティーナはどう答えていいのかを悩んでいた。
シーグルードのことは、間違いなく好いている。シーグルードであるとは知らずに共に仕事をしてきたが、その共に仕事をしてきた男性のことを好いていたのだ。複雑な気持ちであるけれど、彼のことが好きであることに違いはない。
「……はい」
「そうか。ならいいんだ。以前、婚約者候補を辞退したいと言っていたからな。それが気になっただけだ」
腕を組んでいるコンラードは、ふんと窓に視線を向けた。外の景色を見ることができるわけでもないのに、そちらに視線を向けたのはアルベティーナのことを見たくないからなのだろう。
「ティーナ。お父さまの言葉を気にしてはダメよ。あなたの婚約が決まって、一番悔しがっているのがお父さまなのだから」
アンヌッカは柔らかな眼差しでコンラードを見つめている。彼女がコンラードのことを思いやっていることがわかるような眼差しだ。アルベティーナもシーグルードとこのような関係を作っていきたいと、心の中でそう願っていた。
「それでティーナ。私に相談したいこととは何かしら? お父さまがいてもいい話なの?」
アンヌッカは女性同士で、と気遣ってくれているのだろう。
「あ、はい。お父さまに聞かれたくない話は、後でこっそりと」
アルベティーナが口にすると、コンラードの肩が震えた。女性同士の内緒話が気になるのだろう。
「お母さま、私の髪ですが。あそこにいる間、染めることができなかったので。もしかしたら、侍女には気付かれたかもしれません」
「ああ、そうね。でも、もう、染めなくてもいいわ。あなたが本当の自分に自信をもてるのであれば」
アルベティーナが髪を染めるようになったのは、両親と違う髪の色を気にしていたからだ。それをアルベティーナ自身が気にならないのなら、染める必要は無いと、アンヌッカは言っているのだろう。
「まだ、殿下にもお伝えしていないのです。私の髪のことを」
「そう。でも、シーグルード殿下であれば、ありのままのあなたを受け入れてくれるわよ」
「そう……、ですね」
アルベティーナの本当の髪の色が銀白色であると知ったら、シーグルードはどんな反応を示すのだろうか。それが少し、不安でもあった。
「アルベティーナ。『婚約の儀』は一か月後。それまでにも何度か、こちらに来てもらう必要はありますが、それまでは家族の元で過ごしなさい」
にっこりと微笑む王妃の顔は、やはりシーグルードによく似ていた。
「ありがとうございます」
アルベティーナは小さくその言葉を口にした。
こうしてようやく、アルベティーナは王都の別邸へと戻ることができたのだった。
帰りの馬車の中、アルベティーナはアンヌッカと並んで座った。いつもは、アルベティーナを着飾らせるために口うるさいと思っていた母親であるが、こうして久しぶりに会うと懐かしさと、言いたいことがたくさん込み上げてくる。
「お母さま、いろいろ相談したいことがあります」
「ええ、そうね。だけど、まずはあなたにお祝いの言葉を。シーグルード様のこと、本当におめでとう」
アンヌッカは「おめでとう」と口にした。そう言われると、誰からもその言葉をかけられていなかったことに気づいた。
「ティーナは殿下のことが好きなのか?」
腕を組んでむすっとした表情でコンラードが尋ねた。
「あら。あなた。娘をとられていじけているのね」
アンヌッカは微笑んでいた。だが、コンラードから直球な質問を受け取ったアルベティーナはどう答えていいのかを悩んでいた。
シーグルードのことは、間違いなく好いている。シーグルードであるとは知らずに共に仕事をしてきたが、その共に仕事をしてきた男性のことを好いていたのだ。複雑な気持ちであるけれど、彼のことが好きであることに違いはない。
「……はい」
「そうか。ならいいんだ。以前、婚約者候補を辞退したいと言っていたからな。それが気になっただけだ」
腕を組んでいるコンラードは、ふんと窓に視線を向けた。外の景色を見ることができるわけでもないのに、そちらに視線を向けたのはアルベティーナのことを見たくないからなのだろう。
「ティーナ。お父さまの言葉を気にしてはダメよ。あなたの婚約が決まって、一番悔しがっているのがお父さまなのだから」
アンヌッカは柔らかな眼差しでコンラードを見つめている。彼女がコンラードのことを思いやっていることがわかるような眼差しだ。アルベティーナもシーグルードとこのような関係を作っていきたいと、心の中でそう願っていた。
「それでティーナ。私に相談したいこととは何かしら? お父さまがいてもいい話なの?」
アンヌッカは女性同士で、と気遣ってくれているのだろう。
「あ、はい。お父さまに聞かれたくない話は、後でこっそりと」
アルベティーナが口にすると、コンラードの肩が震えた。女性同士の内緒話が気になるのだろう。
「お母さま、私の髪ですが。あそこにいる間、染めることができなかったので。もしかしたら、侍女には気付かれたかもしれません」
「ああ、そうね。でも、もう、染めなくてもいいわ。あなたが本当の自分に自信をもてるのであれば」
アルベティーナが髪を染めるようになったのは、両親と違う髪の色を気にしていたからだ。それをアルベティーナ自身が気にならないのなら、染める必要は無いと、アンヌッカは言っているのだろう。
「まだ、殿下にもお伝えしていないのです。私の髪のことを」
「そう。でも、シーグルード殿下であれば、ありのままのあなたを受け入れてくれるわよ」
「そう……、ですね」
アルベティーナの本当の髪の色が銀白色であると知ったら、シーグルードはどんな反応を示すのだろうか。それが少し、不安でもあった。
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