隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)

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 兄たちだってアルベティーナがシーグルードの婚約者に『内定』したことを知っているはずだ。にも関わらず、会うことができないことを不思議に思わないのだろうか。
「母上から、ティナを独占するのはよくないと叱られた」
 しゅんと肩をすくめる様子が、どこか子供のようにも見えた。
「だけど、私は不安なんだ。君が、どこか他のところに行ってしまうんじゃないかと。エルッキやセヴェリがそのまま屋敷に連れて帰ってしまうのではないか、と」
 兄たちがことをアルベティーナは知っているが、それでもシーグルードは不安になるのだろう。
 なぜ、そこまでして彼はアルベティーナを手元に置こうとしているのか。なぜアルベティーナを手放せないのか。
 彼の不安の根っこにある原因を、アルベティーナは知らない。
「ですが。私は必ずシーグルード様の元に、戻って参りますから……。だから……」
 それ以上、言葉を続けることができなかったのは、シーグルードがアルベティーナを抱き寄せたから。
「すまない、ティナ。君を不安にさせたいわけじゃないんだ。私が、君を失うのが怖いだけなんだ。だからどうか、私を拒まないで欲しい……」
 シーグルードは時折、このような弱いところをアルベティーナに見せてくる。彼は、アルベティーナを失うことを非常に恐れている。
 ルドルフとして共に過ごした彼と目の前の彼。あまりにも違い過ぎて、本当に同じ人物なのかと思う時もある。
 だが、彼がふとした瞬間に見せる笑顔は、アルベティーナが惹かれた彼であることを気付かせるには充分だった。
「エルッキやセヴェリが羨ましいと言ったのは、私の本心だよ」
 アルベティーナを抱き寄せる腕に力を込めながら、シーグルードは口にする。
「彼らは、君が幼い時からずっと一緒に過ごしていたわけだろう?」
 それは家族だから、と言いかけたアルベティーナはその言葉を飲み込んだ。この状態のシーグルードには何を言っても無駄なのだ。
 シーグルードは、アルベティーナの首元に顔を寄せた。
 この後の流れを、アルベティーナは察した。間違いなく身体中に口づけを落とされ、
いつの間にか彼に組み敷かれてしまうのだろう。それが嫌なわけではないが、それでもまだ心の整理がついていない。
「ティナ……。私を拒まないで……」
 シーグルードはずるいのだ。どのような言葉をかければ、アルベティーナが受け入れてくれるかをわかっている。このように切なげに声をかけられたら、彼を受け入れるしかない。
 それはもちろん、彼に嫌われたくないという思いがあるからだ。
(嫌われたくない……。てことは、やはり私は、シーグルード様のことを……)
 ぐるぐると悩む暇など与えぬかのように、シーグルードが愛撫を始めてきた。
 ドレスの上から胸を揉みしだかれ、スカートの裾から素肌に触れてくる。
 乱れたドレスの隙間から、シーグルードの手がアルベティーナの柔肌を優しく撫で上げる。
「んっ……」
「そのような可愛い声を出すのは、やめてくれないか? 我慢ができなくなる……」
「シーグルード様は、初めから我慢などする気がないのでは?」
 それもアルベティーナにとっては、最大の皮肉のつもりだった。
「やはり君は、少し強引な方が好きなようだな……」
 肩からずりおろされたドレスからこぼれ出た乳房に喰らいつくシーグルード。彼の手が触れる箇所、舐られる箇所、吐息がかかる箇所。全てがアルベティーナを快楽に導いていく。
 このままではいけないという想いと、彼に全てをまかせてしまおうという気持ちが交差する。
 くちゅくちゅと淫らな音を立てられてしまったら、アルベティーナから思考を奪ってしまう。シーグルードはそれをわかっていてやっているのだ。
 アルベティーナが余計なことで悩まないように、と。ただ、与えられる庇護の下で心穏やかに生きていけるように、と。
「んぅ……っ、ぁっ、あんっ」
 室内にアルベティーナの嬌声が響くまで、そう時間はかからなかった。
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