57 / 82
7-(6)
しおりを挟む
シーグルードと並んで歩いていると、彼の護衛が付かず離れずの距離でついてきていることに気付いた。
「シーグルード様? 今日は、エルッキお兄さまではないのですか?」
「ああ、私の護衛のことか。彼はミラン・グラン。今日は彼が担当だ」
アルベティーナは突然、立ち止まる。シーグルードがわざとエルッキを外したようにも思えたからだ。彼を掴んでいる腕にも、ぐっと力がこもる。
「後で説明をする」
先ほどからシーグルードはそうやって誤魔化している。今は言えない、後で説明をする。だからこの後、彼に問い詰めようとアルベティーナは思っていた。
彼女が案内されたのはサロンだった。薄い橙色を主体とした明るい色調で、心も華やぐようは部屋である。そこにある二人掛けのソファに、国王と王妃が並んでゆったりと座ってくつろいでいた。
「父上、母上。お待たせしていまい、申し訳ありません」
シーグルードが頭を下げたため、アルベティーナも釣られて下げた。
「早速ですが。私はアルベティーナ・ヘドマンを婚約者に望みます。先ほど、彼女に求婚しました」
あれが求婚であったのか、と密かに思っているアルベティーナであるが、彼の想いは痛いほどに伝わっていた。
「あらあら、気が早いのね、ルディ。きちんと彼女を私たちに紹介しなくてはダメじゃないの」
くすくすと笑んでいるのは王妃だ。国王はむっつりと顔をしかめている。
アルベティーナはシーグルードから促されて挨拶をした。この二人に挨拶をするのはデビュタント以来である。
「そんなにかしこまらなくても良いのよ」
王妃は陽だまりのように笑っている。
「アルベティーナ嬢、どうせルディが暴走したのだろう。迷惑をかけて申し訳ない」
国王が難しい表情をしていたのは、息子のことが原因だったようだ。
「不肖の息子が、長年結婚も婚約もせず、周囲からは男色の気まで疑われ。苦肉の策でそれらしい令嬢から選んでもらおうと思ったのだが。こやつが選ぶまでもないと言い出してな。他の二人には断りを入れた」
「他の二人って、デビュタントを終えたばかりの小娘ではないですか」
シーグルードが反論する。
「お前がほとんど断ってしまったから、残っているのは若い娘たちしかいない」
「だから私は、最初からティナしか認めない言っていたではないですか」
どうやら父子の口喧嘩が始まってしまったようだ。
アルベティーナが困っていると、王妃が他の席に移動し、隣に座るようにと促した。
温かいお茶と甘いお菓子を口元に運びながら、王妃は言葉を紡ぎ出す。
いつまでたっても結婚相手を選ばないシーグルードに痺れを切らした周りの者たちが、片っ端から見合いの釣書を持ってくるようになった。相手の名前を聞いただけで「却下」するシーグルードに、とうとう国王が強硬手段に出た。大々的に婚約者候補という形で発表し、令嬢たちと会わせれば、シーグルードも全てを断ることは難しいのではないか、と。とにかく、相手の女性に求めることはそれなりの身分とある程度の教養。それ以外はここで教育すればいい。
だが、その話を聞いたシーグルードは、候補者の一人にアルベティーナを入れるようにと国王に言い返した。彼から特定の女性の名があがったということは、そういうことであるのだが、対外的なこともあり似たような女性を二人選出した。
デビュタントを終えたばかりの彼女たちは恐れ多いと非常に謙虚であった。それでも婚約者候補として選んだ以上、シーグルードも何度か彼女たちと会い、そして断った。
さらに最後の一人の候補者であるアルベティーナと会ったのが昨日、という筋書きになっているようだった。
「ごめんなさいね。結局、あなたを巻き込んでしまって」
王妃が紅茶のカップに手を伸ばす。アルベティーナは驚いて、彼女の顔を見る。
(あれ……。どこか、懐かしい感じがするわ……)
アルベティーナが王妃と会ったのは、デビュタントのあの時のみ。
「あの……。私、家族と会いたいのですが。難しいでしょうか」
シーグルードが掛け合ってくれない以上、他の人に助けを求める方が得策と考えていた。
「難しくないわよ。あなたのご両親にもきちんと伝えなければならないものね。どうせ、あのルディのことだから、適当なことを口にしたのでしょう? 昔からそうなのよ。あなたのことになると見境なくなるみたいね」
そこでくすりと笑みを零す。
「そう、不安になることは無いわ。それに、私もあなたのご両親とはお話をしておきたいし。既に、連絡がいっているはずよ」
王妃の言葉にアルベティーナはほっと胸を撫でおろした。というのもシーグルードはアルベティーナが家族と会うことを頑なに拒んでいたからだ。
それでも王妃が隣にいることで、どこか落ち着くことも不思議であった。
「シーグルード様? 今日は、エルッキお兄さまではないのですか?」
「ああ、私の護衛のことか。彼はミラン・グラン。今日は彼が担当だ」
アルベティーナは突然、立ち止まる。シーグルードがわざとエルッキを外したようにも思えたからだ。彼を掴んでいる腕にも、ぐっと力がこもる。
「後で説明をする」
先ほどからシーグルードはそうやって誤魔化している。今は言えない、後で説明をする。だからこの後、彼に問い詰めようとアルベティーナは思っていた。
彼女が案内されたのはサロンだった。薄い橙色を主体とした明るい色調で、心も華やぐようは部屋である。そこにある二人掛けのソファに、国王と王妃が並んでゆったりと座ってくつろいでいた。
「父上、母上。お待たせしていまい、申し訳ありません」
シーグルードが頭を下げたため、アルベティーナも釣られて下げた。
「早速ですが。私はアルベティーナ・ヘドマンを婚約者に望みます。先ほど、彼女に求婚しました」
あれが求婚であったのか、と密かに思っているアルベティーナであるが、彼の想いは痛いほどに伝わっていた。
「あらあら、気が早いのね、ルディ。きちんと彼女を私たちに紹介しなくてはダメじゃないの」
くすくすと笑んでいるのは王妃だ。国王はむっつりと顔をしかめている。
アルベティーナはシーグルードから促されて挨拶をした。この二人に挨拶をするのはデビュタント以来である。
「そんなにかしこまらなくても良いのよ」
王妃は陽だまりのように笑っている。
「アルベティーナ嬢、どうせルディが暴走したのだろう。迷惑をかけて申し訳ない」
国王が難しい表情をしていたのは、息子のことが原因だったようだ。
「不肖の息子が、長年結婚も婚約もせず、周囲からは男色の気まで疑われ。苦肉の策でそれらしい令嬢から選んでもらおうと思ったのだが。こやつが選ぶまでもないと言い出してな。他の二人には断りを入れた」
「他の二人って、デビュタントを終えたばかりの小娘ではないですか」
シーグルードが反論する。
「お前がほとんど断ってしまったから、残っているのは若い娘たちしかいない」
「だから私は、最初からティナしか認めない言っていたではないですか」
どうやら父子の口喧嘩が始まってしまったようだ。
アルベティーナが困っていると、王妃が他の席に移動し、隣に座るようにと促した。
温かいお茶と甘いお菓子を口元に運びながら、王妃は言葉を紡ぎ出す。
いつまでたっても結婚相手を選ばないシーグルードに痺れを切らした周りの者たちが、片っ端から見合いの釣書を持ってくるようになった。相手の名前を聞いただけで「却下」するシーグルードに、とうとう国王が強硬手段に出た。大々的に婚約者候補という形で発表し、令嬢たちと会わせれば、シーグルードも全てを断ることは難しいのではないか、と。とにかく、相手の女性に求めることはそれなりの身分とある程度の教養。それ以外はここで教育すればいい。
だが、その話を聞いたシーグルードは、候補者の一人にアルベティーナを入れるようにと国王に言い返した。彼から特定の女性の名があがったということは、そういうことであるのだが、対外的なこともあり似たような女性を二人選出した。
デビュタントを終えたばかりの彼女たちは恐れ多いと非常に謙虚であった。それでも婚約者候補として選んだ以上、シーグルードも何度か彼女たちと会い、そして断った。
さらに最後の一人の候補者であるアルベティーナと会ったのが昨日、という筋書きになっているようだった。
「ごめんなさいね。結局、あなたを巻き込んでしまって」
王妃が紅茶のカップに手を伸ばす。アルベティーナは驚いて、彼女の顔を見る。
(あれ……。どこか、懐かしい感じがするわ……)
アルベティーナが王妃と会ったのは、デビュタントのあの時のみ。
「あの……。私、家族と会いたいのですが。難しいでしょうか」
シーグルードが掛け合ってくれない以上、他の人に助けを求める方が得策と考えていた。
「難しくないわよ。あなたのご両親にもきちんと伝えなければならないものね。どうせ、あのルディのことだから、適当なことを口にしたのでしょう? 昔からそうなのよ。あなたのことになると見境なくなるみたいね」
そこでくすりと笑みを零す。
「そう、不安になることは無いわ。それに、私もあなたのご両親とはお話をしておきたいし。既に、連絡がいっているはずよ」
王妃の言葉にアルベティーナはほっと胸を撫でおろした。というのもシーグルードはアルベティーナが家族と会うことを頑なに拒んでいたからだ。
それでも王妃が隣にいることで、どこか落ち着くことも不思議であった。
10
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚しましたが、愛されていません
うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。
彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。
為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる