隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)

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 じっと見られているような感じがあって、アルベティーナは目を開けた。
「やっとお目覚めか」
 彼女を見下ろしていたのはルドルフだ。前髪が少し濡れているのは、湯上りだからだろう。
 眠ってしまったと思ったが、あれからあまり時間は経っていないようだ。
「あ、団長……」
「お前。俺に抱かれにきたんだろう? それともここで眠りにきたのか?」
「ち、違います。団長を待っていたら、眠くなって……」
「じゃ、ひと眠りしたなら、もう眠くはないな」
 ルドルフは寝台を軋ませて座り、アルベティーナを見下ろしてくる。彼女も慌てて身体を起こそうとしたが、その肩をルドルフの手によって押さえつけられた。
「何も身体を起こす必要は無い。お前はこうやって寝てればいいんだ。あのときのようにな」
 ルドルフは悦に入ったような笑みを浮かべている。アルベティーナはこれから起こることに不安と、仄かな期待を寄せていた。
「団長……。あ、灯りを消してください」
 この部屋が明るいのは、小さなテーブルの両脇に燭台があるからだ。今は、二つの燭台が煌々と輝いている。
「なんだ。あのときは灯りがついている中で、お前を慰めてやっただろう? 今さら恥じらうのか?」
 カッとアルベティーナの顔は熱を帯びた。あのときのことを持ち出されてしまっては、何も言えない。
「仕方ない。お前が嫌がるから、少しは灯りを落とそう」
 ちっと舌打ちをしたルドルフは、一度寝台から離れ、燭台に灯されている蝋燭を一本ずつ残して、それ以外は消し去った。
「全部消しては、お前の顔が見えないからな」
 ギシッと寝台が軋んだ。ルドルフの重みがくわわったからだ。ぼんやりとしか見えない薄闇の中、顔に息がかかったのはそれだけ彼の顔が近くにあるからだろう。
「とりあえず、これを飲め」
 何やら小瓶を顔の前に差し出してきた。
「何ですか、これ」
 ルドルフがアルベティーナの背を支えるようにして、ゆっくりと彼女の身体を起こす。
 アルベティーナは彼から小瓶を受け取った。
「媚薬だ。お前、初めてなんだろう? 痛み止めのようなものだと思え」
 媚薬と聞くと、全身に熱が回っていく感じがした。顔も赤く染め上げられているはずだが、仄かな燭台の明かりだけでは、ルドルフにその顔色の変化は気付かれていないだろう。
 瓶を口元に近づけると、すん、と甘い香りがする。一口だけ口に含んでみたが、全部飲めとルドルフの声が飛んできた。美味しくないわけではないのだが、好んで飲みたい味でもない。顔をしかめながら、アルベティーナは残っている液体を一気に飲み干した。
 ルドルフは手を伸ばし空になった瓶を奪い取ると、ルドルフは一度寝台から離れる。支えを失ったアルベティーナの身体は、寝台の上に仰向けになった。彼女の胸は、トクトクと高鳴っていた。
 ルドルフが覆いかぶさるようにして、寝台の上に膝をつく。彼の重みがくわわり、ギシギシっとさらに寝台は沈む。
 ぼんやりとした灯りの中、アルベティーナは目の前の男を見上げていた。両手は投げ出してあるものの、緊張のためかガウンの裾を掴んでいる。
「やめるか?」
 息も触れるくらい近い場所からルドルフの声が聞こえてくる。
「やめません……」
「そうか」
 ルドルフの匂いが近づいてきた。
「後悔は、しないな」
「しませ……」
 最後の言葉は、ルドルフによって飲み込まれた。アルベティーナの唇が、ルドルフの唇によって覆われてしまったからだ。
 彼とこのように唇を合わせるのは、あの夜以来のこと。だけどあのときは、怪しい薬のせいで、自分でありながら自分ではなかった。今、アルベティーナの意識ははっきりとしている。だから彼を受け入れるのは自分の意志。ガウンの裾を掴んでいる両手に、つい力が入る。
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