42 / 82
6-(1)
しおりを挟む
ルドルフがアルベティーナを凝視してくる。痛く刺さるくらいの眼差しだ。口がわなわなと震えているようにも見える。彼に捕らえられている手にはさらに力が込められた。
「お前……。何を言ったか、自分でわかっているのか……」
やはり、ルドルフの声は心地よい。このような状況であるにも関わらず、アルベティーナの心をくすぐるには充分な代物でもある。
「わかっています……。私は団長に、私の純潔を奪ってくれることを望んでいます。私を、抱いてくれませんか?」
先ほどからルドルフは視線を逸らさない。だから、アルベティーナも真っすぐ彼を見据えている。それでも先に視線を逸らしたのはルドルフだった。と同時に、深く長く息を吐く。
「お前……。本気なのか? そこまでする必要があるのか?」
アルベティーナはゆっくりと頷いた。
「はい……。私は、この騎士という仕事に誇りを持っております。それを途中で投げ出すことはしたくありません」
「だったら、あいつにそう言えばいいだろう? 婚約しても結婚しても、騎士を続けたいと」
「殿下がお許しになっても、周囲はお許しにならないでしょう。王太子妃としての立場もありますから」
「ま、まあ。それもそうだが」
「ですから、私に殿下の婚約者としての資格が無い。それが一番穏便に事を進める方法であると考えました」
ルドルフがやっとアルベティーナの方に顔を向けた。だが、彼の眉は歪んでおり、困惑の表情を浮かべている。
「それで、なぜその相手が俺なんだ?」
「団長にはあのとき助けていただきましたから……。他の方に頼むより、団長に頼むのが手っ取り早いかと……」
アルベティーナのいうあのときとは、もちろん潜入調査をしたあの一件である。何やら薬を飲まされ、身体が火照っていたところを慰めてくれたのがルドルフなのだ。
「手っ取り早いって。お前な」
ルドルフは握っていたアルベティーナの手を離し、それで頭を支えた。
「もし、俺が断ったらどうするつもりだ?」
「それはっ。他の方に頼みます」
「ばっ……」
馬鹿か、とルドルフが口にした。
「誰でもいいのか? 相手は男であれば誰でもいいと、そう思っているのか?」
「そっ、そんなことはありません。一番は、団長を希望しますが。団長に断られてしまったら……」
言葉が続かなかったのは、ルドルフ以外の誰にこういったことを頼むべきか。その相手がまったく浮かばなかったからだ。
「他の、誰かに……」
「その誰かが誰だと聞いているんだ」
ルドルフはアルベティーナが逃げないように、また彼女の手をぐっと握りしめる。
だがアルベティーナにはその『誰か』の心当たりが無い。誰かいないか、と必死に考えを張り巡らせてみるものの、さっぱり出てこない。そもそも、兄たちに頼むような案件ではない。となれば他の男性。頭に思い浮かんだのは使用人たちの顔だが、彼らがそれを引き受けてくれるとは到底思えない。アルベティーナが他に知っている男性とすれば、騎士団に所属する男性たち。
その中でもわりと一緒に仕事をこなすことが多いのは。
「イリダル……、さん。くらいですかね?」
アルベティーナが顔をしかめたのは、ルドルフによって左手を力任せに握られたからだ。
「お前はっ、バカか。イリダル? あいつはダメだ。お前、あいつのことが好きなのか?」
イリダルのことが好きであったなら、最初から彼に頼む。むしろルドルフに頼まない。
「ち、違いますよ。第一希望は団長ですけど、団長に断られてしまったら……。さすがにお兄さまたちには頼めないですし、そうなったら、イリダルさんくらいしか思い浮かばなかったんです」
恐らくアルベティーナの顔は、額まで真っ赤に染め上がっていたに違いない。顔中が火照っているような感覚があったからだ。
「お前……。何を言ったか、自分でわかっているのか……」
やはり、ルドルフの声は心地よい。このような状況であるにも関わらず、アルベティーナの心をくすぐるには充分な代物でもある。
「わかっています……。私は団長に、私の純潔を奪ってくれることを望んでいます。私を、抱いてくれませんか?」
先ほどからルドルフは視線を逸らさない。だから、アルベティーナも真っすぐ彼を見据えている。それでも先に視線を逸らしたのはルドルフだった。と同時に、深く長く息を吐く。
「お前……。本気なのか? そこまでする必要があるのか?」
アルベティーナはゆっくりと頷いた。
「はい……。私は、この騎士という仕事に誇りを持っております。それを途中で投げ出すことはしたくありません」
「だったら、あいつにそう言えばいいだろう? 婚約しても結婚しても、騎士を続けたいと」
「殿下がお許しになっても、周囲はお許しにならないでしょう。王太子妃としての立場もありますから」
「ま、まあ。それもそうだが」
「ですから、私に殿下の婚約者としての資格が無い。それが一番穏便に事を進める方法であると考えました」
ルドルフがやっとアルベティーナの方に顔を向けた。だが、彼の眉は歪んでおり、困惑の表情を浮かべている。
「それで、なぜその相手が俺なんだ?」
「団長にはあのとき助けていただきましたから……。他の方に頼むより、団長に頼むのが手っ取り早いかと……」
アルベティーナのいうあのときとは、もちろん潜入調査をしたあの一件である。何やら薬を飲まされ、身体が火照っていたところを慰めてくれたのがルドルフなのだ。
「手っ取り早いって。お前な」
ルドルフは握っていたアルベティーナの手を離し、それで頭を支えた。
「もし、俺が断ったらどうするつもりだ?」
「それはっ。他の方に頼みます」
「ばっ……」
馬鹿か、とルドルフが口にした。
「誰でもいいのか? 相手は男であれば誰でもいいと、そう思っているのか?」
「そっ、そんなことはありません。一番は、団長を希望しますが。団長に断られてしまったら……」
言葉が続かなかったのは、ルドルフ以外の誰にこういったことを頼むべきか。その相手がまったく浮かばなかったからだ。
「他の、誰かに……」
「その誰かが誰だと聞いているんだ」
ルドルフはアルベティーナが逃げないように、また彼女の手をぐっと握りしめる。
だがアルベティーナにはその『誰か』の心当たりが無い。誰かいないか、と必死に考えを張り巡らせてみるものの、さっぱり出てこない。そもそも、兄たちに頼むような案件ではない。となれば他の男性。頭に思い浮かんだのは使用人たちの顔だが、彼らがそれを引き受けてくれるとは到底思えない。アルベティーナが他に知っている男性とすれば、騎士団に所属する男性たち。
その中でもわりと一緒に仕事をこなすことが多いのは。
「イリダル……、さん。くらいですかね?」
アルベティーナが顔をしかめたのは、ルドルフによって左手を力任せに握られたからだ。
「お前はっ、バカか。イリダル? あいつはダメだ。お前、あいつのことが好きなのか?」
イリダルのことが好きであったなら、最初から彼に頼む。むしろルドルフに頼まない。
「ち、違いますよ。第一希望は団長ですけど、団長に断られてしまったら……。さすがにお兄さまたちには頼めないですし、そうなったら、イリダルさんくらいしか思い浮かばなかったんです」
恐らくアルベティーナの顔は、額まで真っ赤に染め上がっていたに違いない。顔中が火照っているような感覚があったからだ。
0
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
完結R18)夢だと思ってヤったのに!
ハリエニシダ・レン
恋愛
気づいたら、めちゃくちゃ好みのイケメンと見知らぬ部屋にいた。
しかも私はベッドの上。
うん、夢だな
そう思い積極的に抱かれた。
けれど目が覚めても、そこにはさっきのイケメンがいて…。
今さら焦ってももう遅い!
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
※一話がかなり短い回が多いです。
オマケも完結!
※オマケのオマケにクリスマスの話を追加しました
(お気に入りが700人超えました嬉しい。
読んでくれてありがとうございます!)
【R18】夫の子を身籠ったと相談されても困ります【完結】
迷い人
恋愛
卒業式の日、公開プロポーズ受けた私ジェシカは、1か月後にはマーティン・ブライトの妻となった。
夫であるマーティンは、結婚と共に騎士として任地へと向かい、新婚後すぐに私は妻としては放置状態。
それでも私は幸福だった。
夫の家族は私にとても優しかったから。
就職先に後ろ盾があると言う事は、幸運でしかない。
なんて、恵まれているのでしょう!!
そう思っていた。
マーティンが浮気をしている。
そんな話を耳にするまでは……。
※後編からはR18描写が入ります。
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】氷の悪女の契約結婚~愛さない宣言されましたが、すぐに出て行って差し上げますのでご安心下さい
吉川一巳
恋愛
老侯爵の愛人と噂され、『氷の悪女』と呼ばれるヒロインと結婚する羽目に陥ったヒーローが、「爵位と資産の為に結婚はするが、お前みたいな穢らわしい女に手は出さない。恋人がいて、その女を実質の妻として扱うからお前は出ていけ」と宣言して冷たくするが、色々あってヒロインの真実の姿に気付いてごめんなさいするお話。他のサイトにも投稿しております。R18描写ノーカット版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる