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シーグルードの婚約者候補に名を挙げられたアルベティーナであるが、それによってその生活が変わるわけでもなかった。シーグルードとの顔合わせは一か月後。その付近になればいろいろと準備があるため、母親であるアンヌッカが王都の別邸へ来るとコンラードは言っていた。きっとあのアンヌッカのことだから、張り切って新しいドレスを準備しているに違いない。アンヌッカのことは嫌いではないが、ドレスを着て着飾ることが苦手である。
そして今日、アルベティーナは数少ない友人の一人であるアップトン侯爵令嬢であるオティリエの元を訪れていた。というのも、王都に来たら遊びに来てねと、彼女からは散々手紙をもらっていたにも関わらず、騎士団の仕事もあってなかなか彼女の元を訪れることができなかったからだ。だがアルベティーナは、例のシーグルードの件も相談したいと思い、次の休みの日に会うことはできないかとオティリエに連絡をしていた。すると彼女も、王都に来てからなかなか顔を見せてくれなかったアルベティーナのことを心配していたようで、すぐさま会いましょうと返事がきた。
「本当に久しぶりね、アルベティーナ」
アップトン侯爵家別邸の庭園にあるテラス席。庭園には花のアーチが綺麗に咲き誇っていて、明るい色調を醸し出している。
「今日はありがとう、オティリエ」
友人同士としての集まりということで、アルベティーナもエメラルドグリーンのドレスに身を包んでいた。正式な社交界とは異なり、コルセットのいらない簡単なドレスだ。オティリエも彼女の金色の髪が映えるようなコバルトブルーのドレス。
「こちらには随分前にいらしていたのでしょう?」
紅茶のカップに手を伸ばしながら、オティリエは尋ねてきた。柔らかく輝く太陽の光が、紅茶の表面を眩く輝かせている。
「ええ。なかなか連絡ができなくてごめんなさい。実は、王国騎士団の女性騎士として、勤めることになって」
「あら、アルベティーナ。私の情報網を舐めないでね。あなたが女性騎士として勤めていることなんて、私だって知っているのだから。ずっと忙しかったのでしょう? こちらに来てまだ三か月ほどですものね。それで、騎士団の仕事には慣れたのかしら?」
オティリエが気遣うように言葉をかけてくれたことで、アルベティーナの微笑みに花が咲いた。
「ええ、ありがとう。オティリエにはずっと会いたいと思っていたのだけれど……」
「それでもこうやって、今日、会いに来てくれただけで嬉しいわ。忘れられていなかったのね」
「もう、私がオティリエを忘れるだなんて。あるわけがないでしょう」
二年前に参加したお茶会で唯一アルベティーナを気遣ってくれた同年代の女性。正確には彼女の方が年は一つ上だが、それもあってオティリエは頼れる存在なのだ。
「それで? 今日は突然会いたいだなんて、どんな風の吹き回しかしら? シーグルード殿下の婚約者候補の話も聞いているけど。その件が関係あるとしか思えないのだけれど」
こういった鋭いところも彼女の良さでもあるし、その話が既に彼女の耳にまで伝わっていたことに、アルベティーナはつい目を大きく開いてしてしまう。
「私が知っていることが意外という顔をしているわね」
さわわと優しい風が吹き、庭園の花を撫でつけていく。オティリエは目を伏せて、紅茶を一口飲んだ。アルベティーナは先ほどからカップに手を伸ばせていない。
「まずはお茶でも飲んだら? この茶葉は東の隣国のマルグレットから取り寄せた茶葉なの。マルグレットは昔からいい茶葉を生産していたのだけれど、交流が盛んになったのはほんの数年前からなのよね」
それはあのシーグルードも口にしていたことだ。隣国のマルグレットの国王が代わってから、このグルブランソン王国はいい関係を築けている。こうやって茶葉が手軽に手に入るようになったのもそれがきっかけとなっている。
そして今日、アルベティーナは数少ない友人の一人であるアップトン侯爵令嬢であるオティリエの元を訪れていた。というのも、王都に来たら遊びに来てねと、彼女からは散々手紙をもらっていたにも関わらず、騎士団の仕事もあってなかなか彼女の元を訪れることができなかったからだ。だがアルベティーナは、例のシーグルードの件も相談したいと思い、次の休みの日に会うことはできないかとオティリエに連絡をしていた。すると彼女も、王都に来てからなかなか顔を見せてくれなかったアルベティーナのことを心配していたようで、すぐさま会いましょうと返事がきた。
「本当に久しぶりね、アルベティーナ」
アップトン侯爵家別邸の庭園にあるテラス席。庭園には花のアーチが綺麗に咲き誇っていて、明るい色調を醸し出している。
「今日はありがとう、オティリエ」
友人同士としての集まりということで、アルベティーナもエメラルドグリーンのドレスに身を包んでいた。正式な社交界とは異なり、コルセットのいらない簡単なドレスだ。オティリエも彼女の金色の髪が映えるようなコバルトブルーのドレス。
「こちらには随分前にいらしていたのでしょう?」
紅茶のカップに手を伸ばしながら、オティリエは尋ねてきた。柔らかく輝く太陽の光が、紅茶の表面を眩く輝かせている。
「ええ。なかなか連絡ができなくてごめんなさい。実は、王国騎士団の女性騎士として、勤めることになって」
「あら、アルベティーナ。私の情報網を舐めないでね。あなたが女性騎士として勤めていることなんて、私だって知っているのだから。ずっと忙しかったのでしょう? こちらに来てまだ三か月ほどですものね。それで、騎士団の仕事には慣れたのかしら?」
オティリエが気遣うように言葉をかけてくれたことで、アルベティーナの微笑みに花が咲いた。
「ええ、ありがとう。オティリエにはずっと会いたいと思っていたのだけれど……」
「それでもこうやって、今日、会いに来てくれただけで嬉しいわ。忘れられていなかったのね」
「もう、私がオティリエを忘れるだなんて。あるわけがないでしょう」
二年前に参加したお茶会で唯一アルベティーナを気遣ってくれた同年代の女性。正確には彼女の方が年は一つ上だが、それもあってオティリエは頼れる存在なのだ。
「それで? 今日は突然会いたいだなんて、どんな風の吹き回しかしら? シーグルード殿下の婚約者候補の話も聞いているけど。その件が関係あるとしか思えないのだけれど」
こういった鋭いところも彼女の良さでもあるし、その話が既に彼女の耳にまで伝わっていたことに、アルベティーナはつい目を大きく開いてしてしまう。
「私が知っていることが意外という顔をしているわね」
さわわと優しい風が吹き、庭園の花を撫でつけていく。オティリエは目を伏せて、紅茶を一口飲んだ。アルベティーナは先ほどからカップに手を伸ばせていない。
「まずはお茶でも飲んだら? この茶葉は東の隣国のマルグレットから取り寄せた茶葉なの。マルグレットは昔からいい茶葉を生産していたのだけれど、交流が盛んになったのはほんの数年前からなのよね」
それはあのシーグルードも口にしていたことだ。隣国のマルグレットの国王が代わってから、このグルブランソン王国はいい関係を築けている。こうやって茶葉が手軽に手に入るようになったのもそれがきっかけとなっている。
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