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次の日の朝。アルベティーナはいつもより一時間だけ早く屋敷を出た。エルッキは泊まりの仕事で不在だったが、セヴェリは怪訝そうにアルベティーナを見つめてきた。だから正直にルドルフの仕事を手伝うようになったことを口にする。セヴェリはルドルフの仕事の大変さをわかっているのだろう。
「団長の足を引っ張るなよ」
と笑っていた。そう言われてしまうと、笑いごとではないかもしれないと不安になるアルベティーナ。
普段より一時間早いだけで肌に感じる空気はいつもと異なっていた。王城に向かう道もどこか人が少なく感じるし、何よりもまだ空気が冷たい。まだ王都の街も眠っているように見えた。
このような時間であるため、裏口から建物内に入りルドルフの執務室へと向かう。彼の執務室の扉を叩くと、今日はすぐさま中から返事があった。
「開いている」
「おはようございます、団長。アルベティーナ・ヘドマンです」
「入ってこい」
ルドルフの声に促され、彼女は執務室へと足を踏み入れた。
「おはよう、アルベティーナ。今日は朝早くから悪いな」
どうやら今日のルドルフの顔色は良さそうだった。顔色だけではない。機嫌も良さそうに見えた。
「いえ。団長のお役に立てるのであれば」
「早速で悪いが、この書類を納期別に分類してもらえるか?」
ルドルフの椅子の隣に小さな椅子が置かれているのは、アルベティーナの分だろう。
「そこに座れ」
やはり間違いなく彼女のための椅子だった。アルベティーナはルドルフの隣に座り、山のように積み上げられている書類を納期別に仕分ける作業に入った。
たった一時間という時間であっても集中して行えばかなりの数を捌くことができた。
「ありがとう、アルベティーナ。大分、はかどった」
そこでルドルフの口元が綻んだことに彼女も気付いた。
「いえ。私も、団長には御礼をと思っていたので……。それに、団長に確認したいことがありまして……」
「休憩がてら、お茶でも飲むか?」
ルドルフが立ち上がろうとしたため、アルベティーナは「私がやります」と口にする。
「そうか? 悪いな。ティーセットはそこに準備してある。お湯は、奥に火がある」
彼が口にした『奥』というのはこの部屋と壁で仕切られている小さな部屋のこと。水道があり、お湯が沸かせる場所があり、簡単な食料が置いてある部屋のことだ。そこには彼が寝泊まりするための寝台もある。その部屋でお湯を沸かしてティーセットを準備したアルベティーナは、執務席の方ではなくその前に置かれているソファ席の方でお茶を淹れた。それはもちろん、あの場でお茶を零してしまったら書類が駄目になってしまうという気持ちがあったからだ。
「団長。お茶が入りました」
「ああ、すまない」
目頭を指でおさえながら、ルドルフが移動してきた。
「団長、お疲れですね。もしかして、昨夜はこちらにお泊りになられたのですか?」
「ん、ああ。そうだな……」
アルベティーナの向かい側に座りながらルドルフは答えた。カップへと伸ばす彼の手に、アルベティーナは思わず目を奪われる。何気ない仕草であるにも関わらず、なぜか目が離せない。
「それで、俺に確認したいこととは何だ?」
お茶を一口飲んで喉を潤したルドルフがカップを戻すと、じっとアルベティーナを見つめてきた。
「あ……」
このように正面から見つめられてしまっては、アルベティーナだって顔が火照ってしまう。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ……。あの……、先日の潜入調査の件なのですが」
ルドルフが怪訝そうに目を細めた。
「私。途中から気を失ってしまったようで。団長にご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」
アルベティーナは立ち上がり、深々と頭を下げた。ため息が聞こえてきた。
「団長の足を引っ張るなよ」
と笑っていた。そう言われてしまうと、笑いごとではないかもしれないと不安になるアルベティーナ。
普段より一時間早いだけで肌に感じる空気はいつもと異なっていた。王城に向かう道もどこか人が少なく感じるし、何よりもまだ空気が冷たい。まだ王都の街も眠っているように見えた。
このような時間であるため、裏口から建物内に入りルドルフの執務室へと向かう。彼の執務室の扉を叩くと、今日はすぐさま中から返事があった。
「開いている」
「おはようございます、団長。アルベティーナ・ヘドマンです」
「入ってこい」
ルドルフの声に促され、彼女は執務室へと足を踏み入れた。
「おはよう、アルベティーナ。今日は朝早くから悪いな」
どうやら今日のルドルフの顔色は良さそうだった。顔色だけではない。機嫌も良さそうに見えた。
「いえ。団長のお役に立てるのであれば」
「早速で悪いが、この書類を納期別に分類してもらえるか?」
ルドルフの椅子の隣に小さな椅子が置かれているのは、アルベティーナの分だろう。
「そこに座れ」
やはり間違いなく彼女のための椅子だった。アルベティーナはルドルフの隣に座り、山のように積み上げられている書類を納期別に仕分ける作業に入った。
たった一時間という時間であっても集中して行えばかなりの数を捌くことができた。
「ありがとう、アルベティーナ。大分、はかどった」
そこでルドルフの口元が綻んだことに彼女も気付いた。
「いえ。私も、団長には御礼をと思っていたので……。それに、団長に確認したいことがありまして……」
「休憩がてら、お茶でも飲むか?」
ルドルフが立ち上がろうとしたため、アルベティーナは「私がやります」と口にする。
「そうか? 悪いな。ティーセットはそこに準備してある。お湯は、奥に火がある」
彼が口にした『奥』というのはこの部屋と壁で仕切られている小さな部屋のこと。水道があり、お湯が沸かせる場所があり、簡単な食料が置いてある部屋のことだ。そこには彼が寝泊まりするための寝台もある。その部屋でお湯を沸かしてティーセットを準備したアルベティーナは、執務席の方ではなくその前に置かれているソファ席の方でお茶を淹れた。それはもちろん、あの場でお茶を零してしまったら書類が駄目になってしまうという気持ちがあったからだ。
「団長。お茶が入りました」
「ああ、すまない」
目頭を指でおさえながら、ルドルフが移動してきた。
「団長、お疲れですね。もしかして、昨夜はこちらにお泊りになられたのですか?」
「ん、ああ。そうだな……」
アルベティーナの向かい側に座りながらルドルフは答えた。カップへと伸ばす彼の手に、アルベティーナは思わず目を奪われる。何気ない仕草であるにも関わらず、なぜか目が離せない。
「それで、俺に確認したいこととは何だ?」
お茶を一口飲んで喉を潤したルドルフがカップを戻すと、じっとアルベティーナを見つめてきた。
「あ……」
このように正面から見つめられてしまっては、アルベティーナだって顔が火照ってしまう。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ……。あの……、先日の潜入調査の件なのですが」
ルドルフが怪訝そうに目を細めた。
「私。途中から気を失ってしまったようで。団長にご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」
アルベティーナは立ち上がり、深々と頭を下げた。ため息が聞こえてきた。
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