隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)

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 あの裏社交界に騎士団が突入したという話は、すでに知れ渡っているのだろう。さらに関係者たちが捕まったという話も。だから取り調べが始まっているのだ。
「あれ? 囮作戦が終わったということは、私はもう用済みでしょうか」
 アルベティーナは大事なことに気付いてしまった。そもそもアルベティーナはその作戦のために警備隊へ配属されたようなものなのだ。
「ティーナ。何を言っている。また騎士になって一か月だろ? これから警備隊として、これからばんばん仕事をこなしてもらわなきゃいけないのに。まさかこれに怖気づいて、領地に戻るとか言い出さないよな?」
 セヴェリが心配そうにアルベティーナの顔を見た。
「言いませんよ。むしろ、その任務が終わって、用済みと言われるのかと思っていたのですが」
「ティーナ。安心しなさい。警備隊で用済みと言われたなら、近衛騎士隊で拾ってやるから。やはりまだ女性騎士は不足しているからね」
「兄上。まだまだティーナは近衛隊には渡しませんよ。警備隊だって女性騎士が不足しているんです。近衛ばかり女性騎士を持っていって、こちらにはティーナ一人だけじゃないですか。そっちは四人もいる。もう一人くらい警備隊に回してください」
「何を言っているセヴェリ。こちらも四人では足りないくらいなんだ。本来であればティーナだって近衛に欲しかった。それを団長が無理矢理警備隊に回したんだよ。ティーナは他の女性騎士の三倍の働きはする。当分の間、警備隊はティーナ一人で我慢をしなさい」
 エルッキが子供を宥めるような口調でセヴェリを説得させていたため、それを聞いていたアルベティーナは思わず顔を綻ばせてしまった。
 先に朝食を終えたエルッキが席を立つと、慌ただしく屋敷を出ていった。今日は遅番だったはずなのに、急遽呼び出されたとのこと。
「セヴェリお兄さま……」
 アルベティーナが屋敷を出るまでにはもう少し時間がある。
 食後にのんびりとお茶を嗜んでいたアルベティーナは、今日の朝刊に目を通していたセヴェリに声をかけた。セヴェリが顔をあげて、アルベティーナの方を見てくれたため、安心して言葉を続ける。
「あの……。一昨日の夜のことなんですけど……」
 アルベティーナがもじもじとしていることにも気付いてくれたようだ。
「あまり、気にする必要はないぞ?」
「そのぅ……。本当にあそこからどのようにしてこちらに戻って来たかの記憶がなくて……。私、団長にご迷惑をおかけしたのではないか、と。それを気にしているのです」
 パサっと朝刊をテーブルの上においたセヴェリは、右手の人差し指でぽりぽりと頬を掻く。この仕草は困ったときにコンラードもよくやっている仕草だ。つまり今、目の前のセヴェリは困っているようだ。
「まあ。俺もよくわからないんだが。とにかく、団長が気を失っているティーナをここまで連れてきてくれたんだ」
「あの……。私のドレスに乱れ、とかは……」
「な、何を言ってる。そんなことはなかったぞ? 団長も、ちょっとした毒薬を飲まされて苦しんだからそれの解毒をしたとしか言っていなかったが。ティーナの顔色を見たらそうなんだろうな、と思って、俺がティーナを部屋まで連れていった」
 着ていた服が乱れていなかった、ということがアルベティーナの心の鎖を解いてくれた。つまり、例の件はこの屋敷にいる者たちには知られていないということになる。
(もしかして、あれは厭らしい夢だったのかしら……。セヴェリお兄さまも、私が毒薬を飲まされたとおっしゃっているし。幻覚を見せる薬がお酒に混ぜられていたのかも……)
 幻覚を見せる薬。あの裏社交界であればそのような薬が出回っていてもおかしくはないだろう。
「あとの世話はミリアンに任せてしまったからな」
 だからいつもの夜着で眠っていたことに納得した。
「あ、ドレス……。あのドレスも団長からの借り物でした」
「それもミリアンが手入れをしてくれているはずだ」
 セヴェリと話をして、アルベティーナの気持ちも落ち着いてきた。というのも、ルドルフには礼だけ軽く言おうと割り切ることができたからだ。あのときのことは夢、そう思い込むことにした。
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