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一昨日の夜。あの場所からどのようにして戻ってきたのか、アルベティーナには記憶が無かった。
昨日の朝、いつもの寝台の上でいつもの夜着に身を包んだ状態で目を覚ました。ただ普段と違っていたのは、頭が重くて身体も怠いということ。眠ったはずなのに、身体の疲れが抜けきらないような感じだった。
ベルを鳴らして侍女のミリアンを呼ぶと、彼女はすぐに姿を見せて、今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていた。
『お目覚めになられて、よかったです』
なぜかすぐさまセヴェリまでが部屋にやって来た。
『昨日の今日で、今日は休みだ。だから、ゆっくり休め』
事務的な口調でそう告げたセヴェリは、すぐに部屋から出ていった。記憶が曖昧なアルベティーナは、素直にその言葉に従うことにした。
だがミリアンはアルベティーナの様子を非常に心配していて、食事を部屋にまで運んできたり、アルベティーナが動こうとすれば甲斐甲斐しく世話をしてきたりという始末。過保護、という言葉が脳内によぎったが、とにかく身体が重くて動きたくなかったのは事実であるため、ミリアンの世話を有難く受け入れることにした。
そうやって昨日はほとんどの時間を寝台の上で過ごしたが、さすがに今日は騎士団の仕事へ行かねばならない。騎士団の仕事はきっちりとローテーションが組まれている。
アルベティーナは騎士服に身を包むものの、なぜか仕事に行きたくないと思えてきた。彼女がこのような気持ちになるのは初めてのことだ。騎士になることに憧れを抱き、騎士になったことに誇りを持っていたにも関わらず。
何がそうさせているのか。騎士服の前の留め具を掛けながら、悶々と考えていたアルベティーナは小さく息を吐いた。
(そうか……。私、団長に会うのが恥ずかしいんだ……)
動かしていた手をふと止める。自覚してしまうと、顔中に熱が溜まってくるような感じがした。今思い出しても、恥ずかしい姿を見られてしまった自覚はある。むしろ痴態だ。それでもあのときはルドルフに助けてもらいたかった。誰でも良かったわけではない。
「うわぁ……」
アルベティーナは顔を両手で覆って、思わずその場にしゃがみ込む。
(どうしよう、どうしよう……。どんな顔して団長と会えばいいのかしら……)
一度意識してしまうと、頭からその考えが離れてくれない。むしろ、それに支配されてしまう。
だが、今日は任務だ。両手でペシペシと頬を叩いて気合を入れて立ち上がった。
「おはようございます」
食堂に向かうとすでに二人の兄たちが食事をしているところだった。
「おはよう」
エルッキが爽やかな笑顔が、アルベティーナの心を落ち着けてくれた。
「おはよう、ティーナ。身体の方はもう大丈夫なのか?」
身体を気遣ってくれるのはセヴェリだ。
「はい。ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です。ところでセヴェリお兄さま。私、一昨日の夜にどうやって帰ってきたのか、記憶がさっぱりなくて……」
「ああ。俺もよくわからないが、酒に混ぜられて毒薬か何かを飲まされ、気を失ってしまったとしか聞いてないな。あの団長が平謝りしていったからなぁ。俺としてはそっちの方が驚いた」
毒薬――。
あれはそんなものではなかったと思うのだが、恐らくそれがルドルフなりの気遣いなのだろう。
「ティーナが警備隊に配属された理由は私も知っているが……。やはり、囮作戦というのは……。私としては反対したいところではあるな」
「ですが、兄上。あれはもう取り押さえたので。当分、ティーナにはそのような任務は無いと思いますが。既に昨日から取り調べが始まっていること、兄上も知っているでしょう」
セヴェリがエルッキに言い訳をしているようにも聞こえた。
昨日の朝、いつもの寝台の上でいつもの夜着に身を包んだ状態で目を覚ました。ただ普段と違っていたのは、頭が重くて身体も怠いということ。眠ったはずなのに、身体の疲れが抜けきらないような感じだった。
ベルを鳴らして侍女のミリアンを呼ぶと、彼女はすぐに姿を見せて、今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていた。
『お目覚めになられて、よかったです』
なぜかすぐさまセヴェリまでが部屋にやって来た。
『昨日の今日で、今日は休みだ。だから、ゆっくり休め』
事務的な口調でそう告げたセヴェリは、すぐに部屋から出ていった。記憶が曖昧なアルベティーナは、素直にその言葉に従うことにした。
だがミリアンはアルベティーナの様子を非常に心配していて、食事を部屋にまで運んできたり、アルベティーナが動こうとすれば甲斐甲斐しく世話をしてきたりという始末。過保護、という言葉が脳内によぎったが、とにかく身体が重くて動きたくなかったのは事実であるため、ミリアンの世話を有難く受け入れることにした。
そうやって昨日はほとんどの時間を寝台の上で過ごしたが、さすがに今日は騎士団の仕事へ行かねばならない。騎士団の仕事はきっちりとローテーションが組まれている。
アルベティーナは騎士服に身を包むものの、なぜか仕事に行きたくないと思えてきた。彼女がこのような気持ちになるのは初めてのことだ。騎士になることに憧れを抱き、騎士になったことに誇りを持っていたにも関わらず。
何がそうさせているのか。騎士服の前の留め具を掛けながら、悶々と考えていたアルベティーナは小さく息を吐いた。
(そうか……。私、団長に会うのが恥ずかしいんだ……)
動かしていた手をふと止める。自覚してしまうと、顔中に熱が溜まってくるような感じがした。今思い出しても、恥ずかしい姿を見られてしまった自覚はある。むしろ痴態だ。それでもあのときはルドルフに助けてもらいたかった。誰でも良かったわけではない。
「うわぁ……」
アルベティーナは顔を両手で覆って、思わずその場にしゃがみ込む。
(どうしよう、どうしよう……。どんな顔して団長と会えばいいのかしら……)
一度意識してしまうと、頭からその考えが離れてくれない。むしろ、それに支配されてしまう。
だが、今日は任務だ。両手でペシペシと頬を叩いて気合を入れて立ち上がった。
「おはようございます」
食堂に向かうとすでに二人の兄たちが食事をしているところだった。
「おはよう」
エルッキが爽やかな笑顔が、アルベティーナの心を落ち着けてくれた。
「おはよう、ティーナ。身体の方はもう大丈夫なのか?」
身体を気遣ってくれるのはセヴェリだ。
「はい。ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です。ところでセヴェリお兄さま。私、一昨日の夜にどうやって帰ってきたのか、記憶がさっぱりなくて……」
「ああ。俺もよくわからないが、酒に混ぜられて毒薬か何かを飲まされ、気を失ってしまったとしか聞いてないな。あの団長が平謝りしていったからなぁ。俺としてはそっちの方が驚いた」
毒薬――。
あれはそんなものではなかったと思うのだが、恐らくそれがルドルフなりの気遣いなのだろう。
「ティーナが警備隊に配属された理由は私も知っているが……。やはり、囮作戦というのは……。私としては反対したいところではあるな」
「ですが、兄上。あれはもう取り押さえたので。当分、ティーナにはそのような任務は無いと思いますが。既に昨日から取り調べが始まっていること、兄上も知っているでしょう」
セヴェリがエルッキに言い訳をしているようにも聞こえた。
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