隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)

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 部屋の外は人々の怒号と動き回る音でうるさいように思う。何が起こったのか、まったくわからない。
「アルベティーナ」
 視界が急に明るくなったのは、仮面を外されたからだ。
「だ、団長……」
 思わずそう零してしまったのは、目の前のルドルフが紺の騎士服姿だったからだ。
「騎士団が突入した。お前がウォルシュ侯爵の目を逸らしてくれたおかげだ」
 つまり、アルベティーナには理由は分からないが、ウォルシュ侯爵をあの大広間から引き離す必要があったのだろう。それによって騎士団が突入することができたとらしい。
 ルドルフの手が伸びてきて、アルベティーナの目尻を拭った。
「あっ……」
 彼女から変な声が漏れてしまったのは、彼に振れられた瞬間、身体中に痺れが走ったからだ。痺れというよりは、甘い疼きにも感じる。
 そんな彼女をルドルフは目を細めて見下ろしてくる。
「起き上がることはできるか?」
「む、むり……、です」
 熱い息と共に少しだけ言葉も吐く。とにかく全身が熱い。できることなら、今すぐこのドレスを脱いで、身体の熱を奪い去って欲しい。
「何か、飲んだのか?」
 冷静に言葉を投げかけてくる目の前のこの男ですら、憎いと思ってしまう。なぜ自分だけがこのような熱に浮かされなければならないのか、と。
「お、さけ……、うぉる、しゅ、こうしゃく、から……」
 ルドルフが顔を歪ませたのは、何故なだろう。
「少し、待っていろ」
(いかないで……)
 だが、残念なことにアルベティーナのその気持ちは彼には届かない。バンという扉の閉まる音が、彼女の心をさらに虚しくさせた。
 熱い、熱い、熱い――。
 身体が熱いのはどうしてか。それに先ほどから身体の奥が疼き始めている。何かを欲しているのに、その何かがわからない。一人ではそれが叶わないことだけはわかっているというのに。
 部屋の外が慌ただしかった。それは先ほどからずっとだ。
 ルドルフが、騎士団が突入したと言っていたから、恐らくこの裏社交界の関係者たちを捕まえているのだろう。他にも自分のように部屋に連れていかれた女性はいたのだろうか。
「おい、水をもらってきたぞ」
 アルベティーナの視界は、じんわりと涙で濁っていた。だから、ルドルフが戻って来たことにも気付かなかった。唇を冷たい何かが濡らしていくのに、それが喉の奥にまで入っていく気配はない。
「あっ……、んぅ……」
 アルベティーナは思わずはしたない声を漏らしてしまった。
 ちっ、とルドルフが舌打ちをしたことに気付いた。恐らく彼の目には、アルベティーナの姿が情けなく映っているに違いない。
 次に唇に触れたのは、温かくて柔らかくて、だけど少しだけしっとりとしている何かだった。それがアルベティーナの唇を割って、口腔内に入り込み、少しの液体を押し込まれた。
「けほっ」
 彼女は突然のことに咽てしまう。
「まだ、足りないな」
 ルドルフがそう言ったことだけはしっかりと耳に届いていたが、何が足りないのか、アルベティーナにはよくわからない。だが、すぐにまた何かが唇に触れ、何かが喉元を通り過ぎていく。
 気付いたときには、アルベティーナは自らルドルフの頬を両手で包んでいた。動かすことができないと思っていた四肢が、いつの間にか動くようになっていたようだ。だが、それでも身体の熱は冷めない。
「はぁっ……、だ、団長……、たすけ、て……」
「ちっ」
 ルドルフが盛大に舌打ちをした。もしかして、アルベティーナの失態を嘆いているのだろうか。
「だ、団長……」
 アルベティーナは両手で包んだルドルフの顔を自分の方に寄せ、自ら彼の唇に自分の唇を重ねた。重なった部分から熱が逃げてくれるのではないかと、そんなことを期待しながら。
 そんなアルベティーナが驚いて目を見開いたのは、ルドルフが彼女の唇をこじ開けて、肉厚の舌をいれてきたからだ。アルベティーナはそこまでは望んでいなかった。ただ、彼に触れて熱を奪って欲しい、とそう思っていただけなのに。
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