20 / 82
3-(5)
しおりを挟む
馬車がカタンと揺れて止まる。どうやら目的地についたらしい。アルベティーナはこれからクリスティンとなる。先ほどルドルフから手渡された仮面を顔につけた。
もちろんルドルフはデビッド・ゲイソンだ。ゲイソン商会の会長で、クリスティンの養父。
仮面をつけたルドルフであるが、やはり雰囲気から彼は彼であった。これなら遠目から見てもルドルフであることがわかる。人込みに紛れてわからなくなってしまったらどうしようという不安があったため、ほっと胸を撫でおろした。
それに、仮面で人を区別できるとも言っていた。となれば、仮面をすり替えれば、他の者に成りすますことも可能ではないのだろうか。だから仮面でルドルフを判断することはしないようにしようと思っていた。
「クリスティン。行くぞ」
アルベティーナはルドルフの腕をとり、裏社交界と呼ばれるパーティが開かれている会場へと足を向ける。
「この立派なお屋敷はどちらの?」
「ここは、誰かの所有している屋敷というわけではない。貸し屋敷と呼ばれているものだ。所有者はゲイソン会長だ。地方にいる貴族たちが、王都でちょっとした催しものをしたいときに、この場所を提供する。ようするに、パーティのためにあるような建物だな」
(なるほどね)
アルベティーナは小さく頷いた。ヘドマン伯爵の王都にある別邸も、お茶会程度ができるサロンはあるが、パーティができるような大広間は持ち合わせていない。だが王都にいる間に、と思う者もいるのだろう。そのような人がパーティを開催するには、このように広くて華やかな建物を借りるらしい。
建物の扉の前には、黒服を着て仮面をつけた男たちが四人も立っていた。そこで招待状と仮面の確認をするようだ。ルドルフは慣れた手つきでその招待状を黒服の男に差し出すと、黒服の男たちも恭しく頭を下げた。このようなパーティだ。身分を証明するような物は求められず、選ばれた者たちが手にすることができる招待状とその仮面の確認を行う。
いくら建物の所有者とされているゲイソン会長であっても、それをひけらかすような態度をしてはならない。それが、この裏社交界での暗黙のルールらしい。
黒服の男から招待状と仮面を返された。どうやらルドルフはデビッド・ゲイソンとされ、アルベティーナはその連れと認識されたようだ。扉が開かれ、眩しい世界へと案内される。
バルコニーへと続く螺旋階段は、シャンデリアの光を受けて眩く輝いていた。天井には、天使が飛び立つような絵が何人も描かれている。壁画も半裸の男女が描かれているのが多いのだが、こういった絵があることがこの内装の特徴なのだろう。
楽団たちが音楽を奏でている。と言っても、普通のパーティのように大人数で音を奏でているわけではない。五人程の小編成である。それでもこのような場で演奏をする人がいることに、アルベティーナは驚いていた。だが彼らの身なりを見て、何となく察する。恐らく、お金だ。お金に釣られてここに連れてこられた演奏家たちだ。服に着られているような彼ら。それでも、その音には彼らの尊厳が込められているような感じがした。
「その髪を見せびらかすようにして歩け」
ルドルフが耳元で囁いてくる。彼の目的のためにも、アルベティーナは珍しい髪の色を人前に晒す必要があった。
「もしや、ゲイソン会長では?」
「これはこれは、リトルトン男爵」
一人の男がルドルフに近づいてきて、声をかけてきた。彼はその男をリトルトン男爵と呼んだ。リトルトン男爵は、元々は商人だ。その商才が認められて男爵位を授かったものと、アルベティーナは記憶している。
もちろんルドルフはデビッド・ゲイソンだ。ゲイソン商会の会長で、クリスティンの養父。
仮面をつけたルドルフであるが、やはり雰囲気から彼は彼であった。これなら遠目から見てもルドルフであることがわかる。人込みに紛れてわからなくなってしまったらどうしようという不安があったため、ほっと胸を撫でおろした。
それに、仮面で人を区別できるとも言っていた。となれば、仮面をすり替えれば、他の者に成りすますことも可能ではないのだろうか。だから仮面でルドルフを判断することはしないようにしようと思っていた。
「クリスティン。行くぞ」
アルベティーナはルドルフの腕をとり、裏社交界と呼ばれるパーティが開かれている会場へと足を向ける。
「この立派なお屋敷はどちらの?」
「ここは、誰かの所有している屋敷というわけではない。貸し屋敷と呼ばれているものだ。所有者はゲイソン会長だ。地方にいる貴族たちが、王都でちょっとした催しものをしたいときに、この場所を提供する。ようするに、パーティのためにあるような建物だな」
(なるほどね)
アルベティーナは小さく頷いた。ヘドマン伯爵の王都にある別邸も、お茶会程度ができるサロンはあるが、パーティができるような大広間は持ち合わせていない。だが王都にいる間に、と思う者もいるのだろう。そのような人がパーティを開催するには、このように広くて華やかな建物を借りるらしい。
建物の扉の前には、黒服を着て仮面をつけた男たちが四人も立っていた。そこで招待状と仮面の確認をするようだ。ルドルフは慣れた手つきでその招待状を黒服の男に差し出すと、黒服の男たちも恭しく頭を下げた。このようなパーティだ。身分を証明するような物は求められず、選ばれた者たちが手にすることができる招待状とその仮面の確認を行う。
いくら建物の所有者とされているゲイソン会長であっても、それをひけらかすような態度をしてはならない。それが、この裏社交界での暗黙のルールらしい。
黒服の男から招待状と仮面を返された。どうやらルドルフはデビッド・ゲイソンとされ、アルベティーナはその連れと認識されたようだ。扉が開かれ、眩しい世界へと案内される。
バルコニーへと続く螺旋階段は、シャンデリアの光を受けて眩く輝いていた。天井には、天使が飛び立つような絵が何人も描かれている。壁画も半裸の男女が描かれているのが多いのだが、こういった絵があることがこの内装の特徴なのだろう。
楽団たちが音楽を奏でている。と言っても、普通のパーティのように大人数で音を奏でているわけではない。五人程の小編成である。それでもこのような場で演奏をする人がいることに、アルベティーナは驚いていた。だが彼らの身なりを見て、何となく察する。恐らく、お金だ。お金に釣られてここに連れてこられた演奏家たちだ。服に着られているような彼ら。それでも、その音には彼らの尊厳が込められているような感じがした。
「その髪を見せびらかすようにして歩け」
ルドルフが耳元で囁いてくる。彼の目的のためにも、アルベティーナは珍しい髪の色を人前に晒す必要があった。
「もしや、ゲイソン会長では?」
「これはこれは、リトルトン男爵」
一人の男がルドルフに近づいてきて、声をかけてきた。彼はその男をリトルトン男爵と呼んだ。リトルトン男爵は、元々は商人だ。その商才が認められて男爵位を授かったものと、アルベティーナは記憶している。
10
お気に入りに追加
494
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
年上幼馴染の一途な執着愛
青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。
一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる