19 / 82
3-(4)
しおりを挟む
アルベティーナとルドルフは並んで歩き、先ほどの隠し通路へと入った。二人の足音だけが不規則に響く廊下。これからのことを考えると、アルベティーナにも緊張というものが生まれるわけだが、それを表面に表してはならないとも思っている。
隠し通路を抜け裏口を開け、外へ出る。目の前には、家紋を隠したきらびやかな馬車が準備されていた。ルドルフは慣れた手つきでアルベティーナをエスコートする。さすが、あの王太子の従兄弟であり次期トルスタヤ公爵である。こういった扱いも慣れているのだろう。
アルベティーナはルドルフに促され、彼の隣に座ることになった。
「デビッド・ゲイソンがクリスティンを養子にしたのには、もちろん理由がある」
馬車がゆっくりと動き出し、ルドルフは足を投げ出して腕を組んでいた。彼の隣に座ったアルベティーナはドレスが着崩れしないように気を使いながら、ルドルフの話に耳を傾けていた。
「デビッドが目をつけたのは、クリスティンのその髪の色だ。銀白色というその色は、この国では非常に珍しい。マルグレット国の前王がそのような色であったと言われている。つまり、クリスティンは亡き前王の隠し子ではないか、と思わせるのが狙いだ。元々、あそこでは珍しい髪色や瞳の女性が狙われているからな」
「クリスティンが前王の隠し子だったとしたら、どんなメリットがあるのですか? 今回は、裏社交界で取引されている人身売買のための潜入調査ではないのですか?」
「せっかくだから、マルグレットの前王派をあぶり出す。クリスティンが前王の隠し子だと思った奴は、お前に接触してくるはずだ。お前をマルグレットの女王とし、王配を狙おうとしている奴がいてもおかしくはないだろう? むしろ前王派はそれを狙っているのではないか? だからこそ、裏社交界の人物はマルグレットの前王派と繋がっていると考えている」
なるほど、とアルベティーナは頷いた。マルグレット国の前王派が、裏社交界でグルブランソンの珍しい髪の色の女性を選び、商品として扱っているのだろう。と、同時にその事実に吐き気さえ覚える。
「承知しました」
「そのためのその髪の色だ。綺麗に染められたようで良かったよ。これならあそこにいる男たちも騙されるだろうな」
ルドルフはくくっと喉の奥で楽しそうに笑った。
だが、アルベティーナとしては、その髪の色に複雑な気持ちを寄せていた。それは、染め粉で染めろと言われたこの銀白色の方が彼女の地毛だからだ。それが珍しい色で、あのマルグレット国の前国王と同じ色と言われたら――。
隣に座るルドルフに気付かれないように、微かに息を飲んだ。だが、そんな些細な変化でさえ、彼に気付かれてしまったようだ。さすが、団長の地位に就いているだけのことはある。人間観察に優れているのだろう。
「どうかしたのか? 緊張でもしているのか?」
ルドルフは、ふっと鼻で笑っていた。
「いえ」
「護衛用の短剣は持ってきたか? さすがに長剣を持ち歩くことはできないからな」
「はい。左足にレッグホルスターをつけております。ですから、あまりタイトなドレスでなくて良かったと思っております。外からわかってしまいますからね」
「だが、このように触られたら、すぐに知られてしまうな」
ルドルフの手が伸びてきて、アルベティーナの左太ももに触れた。カチャと金属音が鳴る。
「触れられそうになったら、すぐに逃げろよ」
やはりドレスの上から触れたら相手に何かがあると知られてしまうことを、ルドルフは懸念しているのだろう。
「はい」
アルベティーナは小さく頷いた。
隠し通路を抜け裏口を開け、外へ出る。目の前には、家紋を隠したきらびやかな馬車が準備されていた。ルドルフは慣れた手つきでアルベティーナをエスコートする。さすが、あの王太子の従兄弟であり次期トルスタヤ公爵である。こういった扱いも慣れているのだろう。
アルベティーナはルドルフに促され、彼の隣に座ることになった。
「デビッド・ゲイソンがクリスティンを養子にしたのには、もちろん理由がある」
馬車がゆっくりと動き出し、ルドルフは足を投げ出して腕を組んでいた。彼の隣に座ったアルベティーナはドレスが着崩れしないように気を使いながら、ルドルフの話に耳を傾けていた。
「デビッドが目をつけたのは、クリスティンのその髪の色だ。銀白色というその色は、この国では非常に珍しい。マルグレット国の前王がそのような色であったと言われている。つまり、クリスティンは亡き前王の隠し子ではないか、と思わせるのが狙いだ。元々、あそこでは珍しい髪色や瞳の女性が狙われているからな」
「クリスティンが前王の隠し子だったとしたら、どんなメリットがあるのですか? 今回は、裏社交界で取引されている人身売買のための潜入調査ではないのですか?」
「せっかくだから、マルグレットの前王派をあぶり出す。クリスティンが前王の隠し子だと思った奴は、お前に接触してくるはずだ。お前をマルグレットの女王とし、王配を狙おうとしている奴がいてもおかしくはないだろう? むしろ前王派はそれを狙っているのではないか? だからこそ、裏社交界の人物はマルグレットの前王派と繋がっていると考えている」
なるほど、とアルベティーナは頷いた。マルグレット国の前王派が、裏社交界でグルブランソンの珍しい髪の色の女性を選び、商品として扱っているのだろう。と、同時にその事実に吐き気さえ覚える。
「承知しました」
「そのためのその髪の色だ。綺麗に染められたようで良かったよ。これならあそこにいる男たちも騙されるだろうな」
ルドルフはくくっと喉の奥で楽しそうに笑った。
だが、アルベティーナとしては、その髪の色に複雑な気持ちを寄せていた。それは、染め粉で染めろと言われたこの銀白色の方が彼女の地毛だからだ。それが珍しい色で、あのマルグレット国の前国王と同じ色と言われたら――。
隣に座るルドルフに気付かれないように、微かに息を飲んだ。だが、そんな些細な変化でさえ、彼に気付かれてしまったようだ。さすが、団長の地位に就いているだけのことはある。人間観察に優れているのだろう。
「どうかしたのか? 緊張でもしているのか?」
ルドルフは、ふっと鼻で笑っていた。
「いえ」
「護衛用の短剣は持ってきたか? さすがに長剣を持ち歩くことはできないからな」
「はい。左足にレッグホルスターをつけております。ですから、あまりタイトなドレスでなくて良かったと思っております。外からわかってしまいますからね」
「だが、このように触られたら、すぐに知られてしまうな」
ルドルフの手が伸びてきて、アルベティーナの左太ももに触れた。カチャと金属音が鳴る。
「触れられそうになったら、すぐに逃げろよ」
やはりドレスの上から触れたら相手に何かがあると知られてしまうことを、ルドルフは懸念しているのだろう。
「はい」
アルベティーナは小さく頷いた。
10
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。
米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。
孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる