隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
上 下
17 / 82

3-(2)

しおりを挟む
 太陽が西のリシェール山に沈みかけようとしているため、辺りはオレンジ色に染められていた。ルドルフからはあの建物から日勤の騎士達がいなくなる時間帯に裏口から入るようにと指示を出されていたため、辻馬車をそこに停車して二人は降りた。騎士達も口は堅いのだが、万が一に備えての根回しをしておくに越したことはない。
 まだここの騎士団の建物の造りに慣れていないアルベティーナにとって、セヴェリが案内役を買ってくれたのも、非常に心強いものがあった。人目を避けるように裏口からこっそりと建物の中に入り、人気のない廊下を歩く。裏口を始めて利用したアルベティーナだが、この廊下はどこか殺風景だった。つまり、装飾品が何も無いに等しい。奥に続く白い廊下がただひっそりと伸びているだけ。
 突き当りまで進むと、見るからに重そうな鉄の扉があり、それをセヴェリは軽々と開ける。彼は扉の向こう側に人がいないことを確認してから、彼はアルベティーナを呼ぶ。
 なんと、扉の向こう側はルドルフの執務室へと続く廊下になっていたのだ。騎士のトロフィーや鎧などが飾ってある見慣れた廊下。その廊下の壁の一部が隠し通路へと続く隠し扉になっていたのである。
「ティーナ、この場所を覚えておきなさい」
 騎士団の人間であれば誰でも知っている隠し扉なのかと思いきや、どうやらそうではないようだ。そもそもあの裏口だってセヴェリがいなかったら、アルベティーナにはわからなかっただろう。
 セヴェリが扉を叩くと、「入ってくるように」とルドルフの声が扉の向こう側から聞こえてきた。
「セヴェリか。アルベティーナはどうした?」
 恐らくアルベティーナの姿はセヴェリの背にすっぽりと隠れてしまって彼から見えていないのだろう。ルドルフの声が少し不機嫌なようにも聞こえた。
「お待たせしまして申し訳ありません」
 身体の大きなセヴェリの後ろから、アルベティーナが姿を現し、頭を下げる。そして顔を上げれば彼女の視界には、正装に身を包むルドルフの姿が飛び込んできた。チャコールグレイの前髪を後ろに撫でつけている姿は、普段の姿と印象と異なっていた。
「隣の部屋に侍女を呼んである。すぐに着替えてこい」
 ルドルフは冷たい視線をアルベティーナに向けると、そう指示をした。
「はい」
 続きの部屋へと続く扉が開き、中から二人の侍女たちが出てきた。アルベティーナに寄り添ってきた侍女たちによって、続きの部屋へと連れていかれてしまう。
 その部屋にはさらに数人の侍女がいて、アルベティーナの姿を見た途端、寄って集って腕を伸ばしてくきた。鍔の大きな帽子は奪われ、銀白色の髪は広げられ、丁寧に梳かされていく。着ていたハイウェストのドレスも脱がされ下着姿に。だが、裏社交界に参加するようなドレスにはコルセットは不要らしい。それだけでもアルベティーナを安心させるには充分な理由の一つ。身体を絞めつけるコルセットは苦手である。さらに任務とあれば、コルセットで不要に身体を締め付けられてしまうと非常に動きにくいのだ。
 アルベティーナがただ突っ立っていただけにも関わらず、艶めかしい令嬢が出来上がったのはこの侍女たちの腕がいいのだろう。どこか胸元を強調した濃い藍色のロングドレス。艶やかな銀白色の髪は、あえて結わわずに後ろへ流している。濡れたような艶があり、ドレスの色とのコントラストが目を奪う。彼女の準備が整うと、侍女たちは一礼して立ち去っていく。余計なことを口には出さない、彼女たちはよくできている。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される

狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった 公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて… 全編甘々を目指しています。 この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...