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「お前だけこの警備隊に配置したのも、お前ならこういった特殊任務をこなせると思ったからだよ。警備隊とは表向きの名称だからな。裏の一部では潜入班とも呼ばれている。それだけ、能力に長けた人材が集まっている隊だ」
 そのわりには先ほど、アルベティーナに拳をとばしてきたルドルフであるが。
「はい。団長の期待に応えられるように、この任務。しっかりとこなしてみせます」
 そこで、ルドルフはふっと鼻で笑った。
「緊張も解けたようだな。いや、初日からここで居眠りをしてしまうようだから。元から緊張などしていなかったのだろう」
 ルドルフの手が離れた。今までの熱が空気に晒され、一気に冷えたような気がした。
 そこからルドルフは今回の任務における背景、重要性などの説明を始めた。
 先ほど、シーグルードから聞いた話と重複する部分はあるが、今、裏社交界と呼ばれる貴族や商人たち、つまり金を持っている者たちの集まりが開かれ、そこで女性や子供たちが取引されているらしい。しかもその取引されている女性と子供には珍しい目や髪の色の者が多いという。恐らく、その珍しい色が希少価値を高めるのだろう。
 さらに、この裏社交界に参加するには、既に参加している者からの招待状が必要であるとのこと。その辺の伝手は、シーグルードが根回ししたとか。さすが、王太子である。というのも、その裏社交界によって、娘が行方不明になったという捜索願が、騎士団の方にも何件か届けられているからだ。自ら望んでその社交界に参加した娘もいるかもしれない。だが、捜索願が出されている大半は、愛した男に騙されていなくなってしまうことが多いらしい。泣きながら相談に来る貴族たちも多いとか。
「そういえば」
 と、アルベティーナは二年前のデビュダントのときに目撃した令嬢誘拐未遂事件についても口にする。それを聞いたルドルフはその場に居合わせなかったものの、シーグルードから聞いて知っていたようで、笑いをこらえているようにも見えた。
 あのとき騎士団で捕まえたプレヴィール子爵だが、やはり裏社交界に出入りしていた男のようだった。むしろ、それの立ち上げメンバーと言っても過言ではないほど。だが、彼が騎士団に掴まったことにより、そのときは裏社交界の動きも大人しくなったらしい。
 それが活発化してきたのはここ一年ほどであるとのこと。
「アルベティーナ。お前には裏社交界で受けるような格好をしてもらう必要があるが、それも問題ないな?」
「はい。任務であれば」
 そう答えたアルベティーナであるが、裏社交界で受ける格好がどういうものであるのか、想像がつかない。
「できれば、髪の色も変えてもらいたい。染め粉で染めればいい。珍しい髪の色の女性の方が狙われる可能性が高いようでな」
「珍しい色とは?」
 今のアルベティーナの髪の色は赤茶色だ。特別珍しい色ではない。先ほど顔合わせした女性騎士の中にも、同じような髪色の女性が二人いたくらいだ。
「銀だな。その色から銀に染めるには時間が必要だろう。潜入調査の日は、通常任務は休みにする」
「承知しました」
 銀色の髪とルドルフから言われ、アルベティーナはドキリとした。この母親によく似ている赤茶色の髪。実はこの髪の色こそ染め粉で染めている色なのだ。彼女の本当の髪の色は銀白色。アンヌッカから言われ、外に出るときは髪の色を変えていた。まさか、裏社交界と呼ばれる場所で本当の自分の姿をさらすことになるとは思ってもいなかった。
「どうかしたか?」
 もしかしたら、彼にはアルベティーナが怖気着いたように見えたのかもしれない。ルドルフが目を細め、じっと見つめてくる。
「いえ。何でもありません」
「そうか。悪いが衣装はこちらで準備させてもらう。お前の好みではないかもしれないが、潜入調査の一つだと思って、そこは諦めて欲しい」
 ドレスの好みと言われても、あのデビュタント以降、数回のお茶会にしか参加していないアルベティーナにとって、よくわからない件でもある。
「それから、護衛用の短剣は忍ばせておけ。あのときのようにな」
 あのときとは、二年前のあのことを指しているのだろう。アルベティーナと言えば、あの事件とセットなのかもしれない。あの一件で騎士団側には名を知られたに違いない。それについては不満などあるはずがない。例え『強暴姫』と呼ばれようが、一人の令嬢が救われたのであればそれで充分だし、このように騎士団へ入団できるきっかけともなったのだから。
「はい」
 彼女が返事をするのを見届けたルドルフは、またふっと口元を歪めた。それに気付いたアルベティーナは視線を逸らす。
(団長のこの笑顔、卑怯なのよ……)
 トクトクと力強く脈打つ心臓が、口から飛び出しそうになっていた。
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