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 さて、騎士団へと入団したアルベティーナは、二人の兄と共に王都にある別邸で暮らすことになった。泊りがけの仕事のときもあるのだが、基本的にはこの別邸から通いで仕事をこなすようだ。
「うん、ティーナ。よく似合っている」
 初めて紺色の騎士服に袖を通した彼女を褒めるのは、ゼヴェリである。エルッキはすでに王城の方に行っている。それはエルッキがあの王太子殿下の護衛騎士であるためだ。
「ティーナは俺と同じ警備隊の配属になる。わからないことがあったら、遠慮なく俺に聞けよ」
 そう口にしたセヴェリが心強く、アルベティーナは思わず顔を綻ばせた。
 騎士団は王城の敷地内に活動拠点とする建物を構えており、騎士たちからは駐屯所とも呼ばれていた。この駐屯所は、グルブランソン王国の各地に点在しているが、本拠地はこの王城内にある白い外壁の建物である。というのも、もちろん彼らは王国騎士団であって国に忠誠を誓っているためだ。
 王城内にある騎士団の建物内を、アルベティーナはセヴェリの後ろについて歩いていた。
 兄に連れられて入った部屋は、誰かの執務室のようだった。床にはブラウンの絨毯が敷き詰められ、壁はホワイトリリーでどこか落ち着いた色合いで統一された部屋。おかれている家具なども、ブラウンで統一されている。大きな執務用の机が、高い位置にある窓を背に置いてある。恐らくあの窓から外の光を取り入れているのだろう。窓の位置が高いのは、外からの襲撃に備えるためだと思われる。外から見た時に、死角になるような場所に執務席があるのだ。
 その執務席の前には、すでに四人の女性騎士が横一列に並んでいた。そこの一番端に並ぶようにとセヴェリが促す。
「これで全員、揃ったようだな」
 どうやらアルベティーナが最後だったらしい。少しだけ肩身が狭い思いをするものの、執務席を挟んで前に立つ男を見上げた。
「グルブランソン王国騎士団への入団を歓迎する。私は王国騎士団団長を務めるルドルフ・トルスタヤ」
 トルスタヤと言えば、トルスタヤ公爵。現王の弟。つまり、目の前のルドルフという男は、そのトルスタヤ公爵の息子なのだろう。チャコールグレイの髪に、ダークグリーンの瞳が印象的である。
 彼から歓迎の言葉を受けた女性騎士たちは、それぞれの配属へと向かった。女性騎士たちの中でも一番年下のアルベティーナは、セヴェリが言っていた通り警備隊への配属となった。
「ティーナ。シーグルード殿下にも挨拶に行くぞ。警備隊は殿下の直轄だからな」
 王国騎士団は、それぞれ王族が勅令で動かせるようになっている。この場合、シーグルードが状況をみて動かすことができる騎士が警備隊とのことである。国王はもちろん騎士団そのもの。そして驚くべきことに、この警備隊に配属された女性騎士がアルベティーナのみであり、他の女性騎士は近衛騎士隊への配属であった。
「ティーナはまだ若いからな」
 それが理由らしい。他の女性騎士は、二十代。その中でアルベティーナだけが十代であった。警備隊で様々な経験と知識を得てから近衛騎士隊に配属したいというのが、上の考えとのこと。だから、けして『強暴姫』と呼ばれているから近衛騎士隊から外されたわけではない、とセヴェリは口にしているのだが、あまりにも必死になって説明されてしまうと逆に疑わしい。それでもアルベティーナにとって、近衛騎士隊でも警備隊でも、騎士として働くことができることに誇りを感じていた。
「久しぶりですね、アルベティーナ嬢」
 セヴェリによって連れていかれた場所はシーグルードの執務室だった。壁面には大きな絵画が飾られ、それでもどことなく落ち着くセピア色で統一された調度品。執務用の机と、その前にあるソファとテーブル。余計な物などは置いていない、すっきりとした部屋である。
「王国騎士団の女性騎士として入団してくれたこと、嬉しく思いますよ」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
「それに、騎士服もよく似合っています。その格好なら、君の回し蹴りも奇麗に決まりそうですね」
 どうやら彼は二年前のあの出来事のことを言っているようだ。あの場所にシーグルードはいなかったはずだと思っていたのだが。
「さて。冗談はおいておきます」
(え、今のは冗談だったの)
 アルベティーナは目をくりっと大きく見開いた。その様子を見ていたシーグルードはふふっと笑みを零す。
「本当に、君は見ていて飽きませんね」
「殿下。そろそろ本題をお願いします」
 セヴェリが頭を下げたのは、シーグルードがアルベティーナで遊んでいるため、なかなか話が進まないと判断したからだろう。
「相変わらずセヴェリは冗談が通じませんね。まあ、いいでしょう」
 そこでシーグルードはアルベティーナのことをじっと真っすぐに見据えた。
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