上 下
12 / 82

2-(3)

しおりを挟む
 さて、騎士団へと入団したアルベティーナは、二人の兄と共に王都にある別邸で暮らすことになった。泊りがけの仕事のときもあるのだが、基本的にはこの別邸から通いで仕事をこなすようだ。
「うん、ティーナ。よく似合っている」
 初めて紺色の騎士服に袖を通した彼女を褒めるのは、ゼヴェリである。エルッキはすでに王城の方に行っている。それはエルッキがあの王太子殿下の護衛騎士であるためだ。
「ティーナは俺と同じ警備隊の配属になる。わからないことがあったら、遠慮なく俺に聞けよ」
 そう口にしたセヴェリが心強く、アルベティーナは思わず顔を綻ばせた。
 騎士団は王城の敷地内に活動拠点とする建物を構えており、騎士たちからは駐屯所とも呼ばれていた。この駐屯所は、グルブランソン王国の各地に点在しているが、本拠地はこの王城内にある白い外壁の建物である。というのも、もちろん彼らは王国騎士団であって国に忠誠を誓っているためだ。
 王城内にある騎士団の建物内を、アルベティーナはセヴェリの後ろについて歩いていた。
 兄に連れられて入った部屋は、誰かの執務室のようだった。床にはブラウンの絨毯が敷き詰められ、壁はホワイトリリーでどこか落ち着いた色合いで統一された部屋。おかれている家具なども、ブラウンで統一されている。大きな執務用の机が、高い位置にある窓を背に置いてある。恐らくあの窓から外の光を取り入れているのだろう。窓の位置が高いのは、外からの襲撃に備えるためだと思われる。外から見た時に、死角になるような場所に執務席があるのだ。
 その執務席の前には、すでに四人の女性騎士が横一列に並んでいた。そこの一番端に並ぶようにとセヴェリが促す。
「これで全員、揃ったようだな」
 どうやらアルベティーナが最後だったらしい。少しだけ肩身が狭い思いをするものの、執務席を挟んで前に立つ男を見上げた。
「グルブランソン王国騎士団への入団を歓迎する。私は王国騎士団団長を務めるルドルフ・トルスタヤ」
 トルスタヤと言えば、トルスタヤ公爵。現王の弟。つまり、目の前のルドルフという男は、そのトルスタヤ公爵の息子なのだろう。チャコールグレイの髪に、ダークグリーンの瞳が印象的である。
 彼から歓迎の言葉を受けた女性騎士たちは、それぞれの配属へと向かった。女性騎士たちの中でも一番年下のアルベティーナは、セヴェリが言っていた通り警備隊への配属となった。
「ティーナ。シーグルード殿下にも挨拶に行くぞ。警備隊は殿下の直轄だからな」
 王国騎士団は、それぞれ王族が勅令で動かせるようになっている。この場合、シーグルードが状況をみて動かすことができる騎士が警備隊とのことである。国王はもちろん騎士団そのもの。そして驚くべきことに、この警備隊に配属された女性騎士がアルベティーナのみであり、他の女性騎士は近衛騎士隊への配属であった。
「ティーナはまだ若いからな」
 それが理由らしい。他の女性騎士は、二十代。その中でアルベティーナだけが十代であった。警備隊で様々な経験と知識を得てから近衛騎士隊に配属したいというのが、上の考えとのこと。だから、けして『強暴姫』と呼ばれているから近衛騎士隊から外されたわけではない、とセヴェリは口にしているのだが、あまりにも必死になって説明されてしまうと逆に疑わしい。それでもアルベティーナにとって、近衛騎士隊でも警備隊でも、騎士として働くことができることに誇りを感じていた。
「久しぶりですね、アルベティーナ嬢」
 セヴェリによって連れていかれた場所はシーグルードの執務室だった。壁面には大きな絵画が飾られ、それでもどことなく落ち着くセピア色で統一された調度品。執務用の机と、その前にあるソファとテーブル。余計な物などは置いていない、すっきりとした部屋である。
「王国騎士団の女性騎士として入団してくれたこと、嬉しく思いますよ」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
「それに、騎士服もよく似合っています。その格好なら、君の回し蹴りも奇麗に決まりそうですね」
 どうやら彼は二年前のあの出来事のことを言っているようだ。あの場所にシーグルードはいなかったはずだと思っていたのだが。
「さて。冗談はおいておきます」
(え、今のは冗談だったの)
 アルベティーナは目をくりっと大きく見開いた。その様子を見ていたシーグルードはふふっと笑みを零す。
「本当に、君は見ていて飽きませんね」
「殿下。そろそろ本題をお願いします」
 セヴェリが頭を下げたのは、シーグルードがアルベティーナで遊んでいるため、なかなか話が進まないと判断したからだろう。
「相変わらずセヴェリは冗談が通じませんね。まあ、いいでしょう」
 そこでシーグルードはアルベティーナのことをじっと真っすぐに見据えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】王と王妃は側妃をご所望です。

とらやよい
恋愛
王太子妃になるべく厳しく育てられた侯爵令嬢イエリンだったが、努力の甲斐なく彼女が王太子妃選ばれることはなかった。 十代で夢破れ第二の人生に踏み出しても、見合いすら断られ続け結婚もできず六年が経過した。立派な行き遅れとなったイエリンにとって酒場で酒を飲むことが唯一の鬱憤の捌け口になっていた。 鬱々とした日々の中、ひょんなことから酒場で出会い飲み友になったアーロン。彼の存在だけが彼女の救いだった。 そんな或日、国王となったトビアスからイエリンを側妃に迎えたいと強い申し入れが。 王妃になれなかった彼女は皮肉にも国王トビアスの側妃となることになったのだが…。 ★R18話には※をつけてあります。苦手な方はご注意下さい。

【R18】身代わり令嬢は、銀狼陛下に獣愛を注がれる

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 人間の国で王太子妃となるべく育てられた公爵令嬢エマ。だが、エマの義妹に獣人国との政略結婚が持ち上がった際に、王太子から「君の妹を好きになってしまった」と言われて義妹に奪われた挙げ句、エマが獣人国に嫁がされることになってしまった。  夫になったのは、獣人国を統べる若き皇帝ファング・ベスティエ。狼獣人と人間の混血である彼は、ほとんど人間といって差し支えのない存在だ。だが、あまり愛のある結婚とは言えず、妻として求められるのは月に一度きりであり、満月の前後には全く会うことが出来ない。  そんな状態が1年近く続いたある時、豹令嬢から「私は満月の日の前後、ファング様から夜の呼び出しがあっている」と告げられてしまい――? ※ムーンライトノベルズで日間1位になりました。 ※10000字数程度の短編。全16話。 ※R18は正常位(半獣人)→対面座位(獣人)→後輩位(獣姦)、苦手な人は避けてください。

赤い糸がほどけた

陽紫葵
恋愛
主人公は2人。 男女それぞれの、子供の頃からの話。 第一人称・私→野添香都巴     ・俺→新条乎汰 ※名前の読み方は、CASTで確認を。

不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁
恋愛
 パン屋の看板娘、リゼットには秘密がある。  幼い頃から、壁や物を『透視』する能力があったのだ。  そんなリゼットが淡い恋心を寄せるのは、常連客の騎士ヨルグ。  毎日お店で顔を合わせ、ほんの少しおしゃべりをして。それだけで十分満たされているはずだった。  ――そう、彼が向かいの家に引っ越してくるまでは。 「間に合ったみたいね」  リゼットが見つめる先、通りを挟んだ向かいにあるのはきっちりとカーテンの引かれた一室。  その内側で繰り広げられる光景は、本来なら誰も目にすることのない密事。  隙間から漏れる家灯りしか見えないはずの宵闇で、リゼットは今日も禁断の趣味に興じる――。 ■一話 800~1000文字ほど  週一、月曜日更新 ■ヒーローの自慰が好きな方、寄ってらっしゃい見てらっしゃい(本作は純愛です ■濡れ場は※マーク付き ■ご感想いただけるととっても嬉しいです☆

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

処理中です...