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「ティーナをエスコートできる日がくるとは、感無量……」
本来であれば、エスコート役は見栄えが良くて若い二人の兄のどちらかに頼む方がいいのだろう。だが、王国騎士団に所属している兄たちは、自由になる時間がなかなかとることができない。まして妹の社交界デビューのエスコートでとなれば、二人の兄たちが喧嘩するのが目に見えていた。だから『公平な』という理由でエスコート役は父親であるコンラードになったのである。
コンラードはそろそろ年は五十に届くのに、背は高く、がっしりとした鍛えられた体格と整った顔立ち。日に焼けた肌にダークブラウンのくせのある髪。そして、鋭い眼光。髪にちらほらと白いものが混ざりつつあるが、それでもその辺の二十代、三十代の男性に引けを取らないような見栄えである。
だからだろう。デビューを控えているアルベティーナよりも彼の方が目立っているのは。先ほどから、デビュタントたちが緊張した面持ちでこの控室にいるのだが、それでもちらちらと視線が飛んでくる。その視線の先にいるのは、もちろんコンラード。視線を向ける者はデビュタントたちだけではない。そのエスコートとして付き添っている男性たちからも。
(お父さまって、女性からだけでなく、男性からも人気があるのね)
アルベティーナは視線を集めているコンラードを見上げたが、彼はその視線にも動じず、ただ娘を慈しむかのように見つめていた。
(でも、ちょっと暑苦しいわ……。ずっと私を見ているし。はっ、もしかして、監視……)
されるようなことに数多くの心当たりがあるアルベティーナは、ただ単に娘を愛でている父親の眼差しさえ、不穏に感じてしまうようだ。そんな娘の心には気付かないコンラードは、始終ニコニコとした笑みを浮かべながら娘を愛でていた。
娘と父親の思いがすれ違うまま、とうとう入城する時間となった。家名を読み上げられたデビュタントたちは、緊張した面持ちで控室を出ていく。アルベティーナの家名が読み上げられれば、彼女もまた父親に手を預けて控室を後にした。
控室から大広間までは廊下で繋がっていて、その大広間の前でデビュタントたちが集まっていた。この扉の向こうには、国内の名だたる貴族の他、近隣諸国からの招待客もいることだろう。アルベティーナにとっても身の引き締まるような思いだ。
扉の隣で控えていた侍従が声をあげ、アルベティーナの名を告げた。お淑やかさからかけ離れているアルベティーナではあるが、さすがの彼女もこの場では緊張しているのだろう。コンラードに預けている手にも、知らぬうちに力が入っていたらしい。
「大丈夫だ。堂々としていればいい」
耳元で低い声で囁かれ、誰にも気付かれぬようにアルベティーナは小さく頷いた。
本来であれば、エスコート役は見栄えが良くて若い二人の兄のどちらかに頼む方がいいのだろう。だが、王国騎士団に所属している兄たちは、自由になる時間がなかなかとることができない。まして妹の社交界デビューのエスコートでとなれば、二人の兄たちが喧嘩するのが目に見えていた。だから『公平な』という理由でエスコート役は父親であるコンラードになったのである。
コンラードはそろそろ年は五十に届くのに、背は高く、がっしりとした鍛えられた体格と整った顔立ち。日に焼けた肌にダークブラウンのくせのある髪。そして、鋭い眼光。髪にちらほらと白いものが混ざりつつあるが、それでもその辺の二十代、三十代の男性に引けを取らないような見栄えである。
だからだろう。デビューを控えているアルベティーナよりも彼の方が目立っているのは。先ほどから、デビュタントたちが緊張した面持ちでこの控室にいるのだが、それでもちらちらと視線が飛んでくる。その視線の先にいるのは、もちろんコンラード。視線を向ける者はデビュタントたちだけではない。そのエスコートとして付き添っている男性たちからも。
(お父さまって、女性からだけでなく、男性からも人気があるのね)
アルベティーナは視線を集めているコンラードを見上げたが、彼はその視線にも動じず、ただ娘を慈しむかのように見つめていた。
(でも、ちょっと暑苦しいわ……。ずっと私を見ているし。はっ、もしかして、監視……)
されるようなことに数多くの心当たりがあるアルベティーナは、ただ単に娘を愛でている父親の眼差しさえ、不穏に感じてしまうようだ。そんな娘の心には気付かないコンラードは、始終ニコニコとした笑みを浮かべながら娘を愛でていた。
娘と父親の思いがすれ違うまま、とうとう入城する時間となった。家名を読み上げられたデビュタントたちは、緊張した面持ちで控室を出ていく。アルベティーナの家名が読み上げられれば、彼女もまた父親に手を預けて控室を後にした。
控室から大広間までは廊下で繋がっていて、その大広間の前でデビュタントたちが集まっていた。この扉の向こうには、国内の名だたる貴族の他、近隣諸国からの招待客もいることだろう。アルベティーナにとっても身の引き締まるような思いだ。
扉の隣で控えていた侍従が声をあげ、アルベティーナの名を告げた。お淑やかさからかけ離れているアルベティーナではあるが、さすがの彼女もこの場では緊張しているのだろう。コンラードに預けている手にも、知らぬうちに力が入っていたらしい。
「大丈夫だ。堂々としていればいい」
耳元で低い声で囁かれ、誰にも気付かれぬようにアルベティーナは小さく頷いた。
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