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エピローグ
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ふん、とモーゼフは鼻から息を吐く。我が弟ながら、歪んでいる。
「だが君は、彼女が自分の側から離れないようにと、彼女に気付かれないように囲い込んだのだろう? 我が弟ながら、鳥籠のような男だと思ったよ。だがな、君のその愛し方は危険すぎる」
「兄上だけには言われたくないなぁ」
モーゼフはそれには頷かない。
「それでも君の鳥籠は壊されてしまった。ヘイデンによって、な」
モーゼフの言葉にエメレンスは苦笑した。ヘイデンがリューディアをあのシャルコへと連れ出したおかげで、彼女は自分に自信を持ってしまった。せっかく、大事に籠の中に閉じ込めて、外の世界から遠ざけていたというのに。リューディアという鳥はヘイデンの手によって鳥籠から逃げ出してしまったのだ。
さすが、次期コンラット公爵。もしかしたら、エメレンスの企みに気付いていたのかもしれない。それでも、リューディアとエメレンスのことを認めてくれたのは、ヘイデンなりに何かしら考えがあるのだろう。モーゼフにとっても敵に回したくない相手が、あのヘイデンだ。コンラット公爵家とは、良好な関係を築いておきたい。
「エメレンス。それでも君ならリューディアを幸せにしてくれるだろうと、どこか期待している私がいる」
「ええ。それだけは約束します」
エメレンスは悦楽の笑みを浮かべている。鳥籠から逃げた鳥なら、またそこに戻ってくるようにすればいいだけだ。必ず自分の元へ、彼女が戻ってくるように、と。
こんな執拗な歪んだ愛され方をされているリューディアは可哀そうだと思うものの、それでも彼女を思わずにはいられない。それだけ、エメレンスにとってリューディアという女性は特別な存在なのだ。
――世の中、知らない方が幸せなことだってある。
そんな弟をモーゼフは黙って眺めていた。エメレンスにはリューディアのような優しくて純粋な女性が必要だ。この弟の歪んだ愛情を矯正できるのは彼女しかいないと、兄はそう思っている。
だから、エメレンスにリューディアを託したのではない。むしろ、リューディアにエメレンスを託したのだ――。
こんな兄弟に囚われてしまった彼女を憐れむとともに、それでも彼女に期待を寄せて。
◇◆◇◆
さて。その後の顛末を少々。
数年後、モーゼフは隣国の王女と婚約をし、結婚をする。この彼女がモーゼフと似たような考えの持ち主であったため、二人の利害は一致する。
エメレンスも無事リューディアと結ばれる。モーゼフの臣籍へとくだったエメレンスは、兄を支えながらもシャルコの街も治めていた。リューディアが望んだ魔宝石の再利用、そしてクズ石からの人口魔宝石の製造。そのような施設を造り上げていきながら。
そして、エメレンスと結婚をしたリューディアであるが、彼女は今でも眼鏡をかけている。それはエメレンスが望んだこと。
『君は美人なのだから絶対にボク以外の男の前でその眼鏡を外してはいけないよ。他の男に口説かれるかもしれないからね』
それを聞いたリューディアは、「本当にレンは心配性ね。そのような方、いるわけないでしょう」と、いつも微笑みながら夫に優しく口づけるのだった――。
【完】
「だが君は、彼女が自分の側から離れないようにと、彼女に気付かれないように囲い込んだのだろう? 我が弟ながら、鳥籠のような男だと思ったよ。だがな、君のその愛し方は危険すぎる」
「兄上だけには言われたくないなぁ」
モーゼフはそれには頷かない。
「それでも君の鳥籠は壊されてしまった。ヘイデンによって、な」
モーゼフの言葉にエメレンスは苦笑した。ヘイデンがリューディアをあのシャルコへと連れ出したおかげで、彼女は自分に自信を持ってしまった。せっかく、大事に籠の中に閉じ込めて、外の世界から遠ざけていたというのに。リューディアという鳥はヘイデンの手によって鳥籠から逃げ出してしまったのだ。
さすが、次期コンラット公爵。もしかしたら、エメレンスの企みに気付いていたのかもしれない。それでも、リューディアとエメレンスのことを認めてくれたのは、ヘイデンなりに何かしら考えがあるのだろう。モーゼフにとっても敵に回したくない相手が、あのヘイデンだ。コンラット公爵家とは、良好な関係を築いておきたい。
「エメレンス。それでも君ならリューディアを幸せにしてくれるだろうと、どこか期待している私がいる」
「ええ。それだけは約束します」
エメレンスは悦楽の笑みを浮かべている。鳥籠から逃げた鳥なら、またそこに戻ってくるようにすればいいだけだ。必ず自分の元へ、彼女が戻ってくるように、と。
こんな執拗な歪んだ愛され方をされているリューディアは可哀そうだと思うものの、それでも彼女を思わずにはいられない。それだけ、エメレンスにとってリューディアという女性は特別な存在なのだ。
――世の中、知らない方が幸せなことだってある。
そんな弟をモーゼフは黙って眺めていた。エメレンスにはリューディアのような優しくて純粋な女性が必要だ。この弟の歪んだ愛情を矯正できるのは彼女しかいないと、兄はそう思っている。
だから、エメレンスにリューディアを託したのではない。むしろ、リューディアにエメレンスを託したのだ――。
こんな兄弟に囚われてしまった彼女を憐れむとともに、それでも彼女に期待を寄せて。
◇◆◇◆
さて。その後の顛末を少々。
数年後、モーゼフは隣国の王女と婚約をし、結婚をする。この彼女がモーゼフと似たような考えの持ち主であったため、二人の利害は一致する。
エメレンスも無事リューディアと結ばれる。モーゼフの臣籍へとくだったエメレンスは、兄を支えながらもシャルコの街も治めていた。リューディアが望んだ魔宝石の再利用、そしてクズ石からの人口魔宝石の製造。そのような施設を造り上げていきながら。
そして、エメレンスと結婚をしたリューディアであるが、彼女は今でも眼鏡をかけている。それはエメレンスが望んだこと。
『君は美人なのだから絶対にボク以外の男の前でその眼鏡を外してはいけないよ。他の男に口説かれるかもしれないからね』
それを聞いたリューディアは、「本当にレンは心配性ね。そのような方、いるわけないでしょう」と、いつも微笑みながら夫に優しく口づけるのだった――。
【完】
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