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第九章
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「リューディア。どうかエメレンスと幸せな家庭を築いてくれ」
「ありがとうございます。ですが、わたくしがモーゼフ様と共に過ごした時間は、わたくしにとっても必要な時間であったと思っております」
「リューディア。相変わらず君は優しい」
だから、私の相手としては相応しくない。というモーゼフの心の呟きは誰にも聞こえない。
それから五日後。モーゼフの立太子の儀は無事行われ、彼は王太子となった。次期国王として。
さらにエメレンスとリューディアの婚約も発表される。長年、モーゼフと婚約していた彼女がその弟のエメレンスと婚約したことに、冷たい言葉を投げ掛ける者もいたが、リューディアはもう、そのような言葉を気にしない。隣には、いつも彼女を支え、元気づけようとしてくれた彼がいるから――。
さて、王立騎士団たちの手によってその身柄を拘束されたフニペロ・メイソン、およびフリート・メイソンからは、次から次へとその悪事が明るみになってきた。フニペロ・メイソンは魔宝石の横領、盗難、偽造、及び悪質な転用の罪、違法魔導具の製造、フリートには禁忌魔法及び違法魔導具の使用、王族への暴行の罪がかけられている。もはやそれは事実であるため、言い逃れはできない。このままいけばフニペロは爵位の剥奪、領地の没収。フリートは良くて修道院行きだろう。
メイソン侯爵家は、三大魔法公爵家に長年の負い目を感じていた。それは序列が生み出した憎しみからくるもの。さらにコンラット公爵家の娘であるリューディアが、将来の王太子妃、王妃となれば、魔法公爵家とのメイソン侯爵家の間には見えない大きな壁が立ちはだかってしまう。
また、メイソン侯爵家を盛り立てるために、魔宝石を少しずつ盗んでいたことが疑われ、メイソン侯爵はシャルコの採掘現場の責任者の任を解かれてしまう。その後任としてヘイデンが来たのであれば、メイソン侯爵としては悔しがることしかできない。
悔しさに溢れたメイソン侯爵家はコンラット公爵家を陥れるために、知恵を働かせるのだが、陥れるための知恵となれば悪事。と、同時に今までと同じように魔宝石も盗み出したい。という結果が、例の崩落事故へとつながる。その結果、現場を離れる魔導士たちが何人もいたことは、メイソン侯爵にとっては幸運としか言いようがなく、それが彼の望んでいたものでもある。現場の管理の目が薄まれば、それだけ魔宝石を盗みやすい。だが、そううまく事は運ばず。それは、それに気付いたヘイデンが現場の管理を厳しくしたからだ。
今までと同じように魔宝石を盗み出すことができなくなれば、それを当てにしていた計画というものが狂ってしまう。そこでメイソン侯爵が次に目をつけたのがクズ石と呼ばれるものだった。どうせ捨てるだけのあれならば、盗まれても気付かないだろう。
また現場にいる採掘師であればクズ石置き場にいても怪しまれない。ということで、メイソ公爵は、金の無さそうな採掘師に声をかける。さらに、脅すネタの一本や二本でも準備して彼を揺すれば、言うことを聞いてくれるだろう、と。それで目をつけられたのが可哀そうなことにブルースだった。彼は「この採掘現場を大きくしてやる」「逆らったらお前の両親を魔導具のための人体実験に使うぞ」と煽てられ、脅されて、仕方なくそれを引き受けた。
魔宝石およびクズ石の盗難は、ヘイデンが思い描いていた内容とほぼ同じ。そして、王都で起こった魔導具の爆発事件へと結びつく。
さて、メイソン侯爵の娘であるフリートであるが、父親同様、コンラット公爵家を憎んでいた。それはリューディアという娘があのモーゼフの婚約者の地位におさまっているから。いつも眼鏡をかけておどおどとしてパッとしないような娘であるのに、コンラット公爵家の娘という理由で婚約者に選ばれた、と思っていた。それはあながち嘘でもない。
だからフリートはモーゼフに近づき、彼を魅了して、リューディアとの婚約解消を狙った。結果、モーゼフはリューディアと婚約を解消する。それはフリートが望んだ結果であるが、その後の流れは少々芳しくない。彼にかけたはずの魅了の効果がたまに薄れるのか、モーゼフが正気に戻るときもあった。フリートはそうならないように、自身の魔法と魔導具を併用して、彼を常に魅了されている状態へと導いていたつもりだ。だが、彼女だって四六時中モーゼフと共にいるわけではない。
もしかしたら、魅了が薄れた時間があったのかもしれない。それが、最後の手際の良さに結びついたのかもしれない。それに関してはモーゼフが何も口にしないため、真相は不明のまま。
そして息子がそのような状態になっていたことに気付かなかった国王は、自分の不甲斐なさを恥じる。王城は、より一層警備が強化され、悪事を働いた者への罰も厳しくなる。
だから、最終的にメイソン侯爵とフリートにどのような罰がくだされるのか、今はまだわからない。
「ありがとうございます。ですが、わたくしがモーゼフ様と共に過ごした時間は、わたくしにとっても必要な時間であったと思っております」
「リューディア。相変わらず君は優しい」
だから、私の相手としては相応しくない。というモーゼフの心の呟きは誰にも聞こえない。
それから五日後。モーゼフの立太子の儀は無事行われ、彼は王太子となった。次期国王として。
さらにエメレンスとリューディアの婚約も発表される。長年、モーゼフと婚約していた彼女がその弟のエメレンスと婚約したことに、冷たい言葉を投げ掛ける者もいたが、リューディアはもう、そのような言葉を気にしない。隣には、いつも彼女を支え、元気づけようとしてくれた彼がいるから――。
さて、王立騎士団たちの手によってその身柄を拘束されたフニペロ・メイソン、およびフリート・メイソンからは、次から次へとその悪事が明るみになってきた。フニペロ・メイソンは魔宝石の横領、盗難、偽造、及び悪質な転用の罪、違法魔導具の製造、フリートには禁忌魔法及び違法魔導具の使用、王族への暴行の罪がかけられている。もはやそれは事実であるため、言い逃れはできない。このままいけばフニペロは爵位の剥奪、領地の没収。フリートは良くて修道院行きだろう。
メイソン侯爵家は、三大魔法公爵家に長年の負い目を感じていた。それは序列が生み出した憎しみからくるもの。さらにコンラット公爵家の娘であるリューディアが、将来の王太子妃、王妃となれば、魔法公爵家とのメイソン侯爵家の間には見えない大きな壁が立ちはだかってしまう。
また、メイソン侯爵家を盛り立てるために、魔宝石を少しずつ盗んでいたことが疑われ、メイソン侯爵はシャルコの採掘現場の責任者の任を解かれてしまう。その後任としてヘイデンが来たのであれば、メイソン侯爵としては悔しがることしかできない。
悔しさに溢れたメイソン侯爵家はコンラット公爵家を陥れるために、知恵を働かせるのだが、陥れるための知恵となれば悪事。と、同時に今までと同じように魔宝石も盗み出したい。という結果が、例の崩落事故へとつながる。その結果、現場を離れる魔導士たちが何人もいたことは、メイソン侯爵にとっては幸運としか言いようがなく、それが彼の望んでいたものでもある。現場の管理の目が薄まれば、それだけ魔宝石を盗みやすい。だが、そううまく事は運ばず。それは、それに気付いたヘイデンが現場の管理を厳しくしたからだ。
今までと同じように魔宝石を盗み出すことができなくなれば、それを当てにしていた計画というものが狂ってしまう。そこでメイソン侯爵が次に目をつけたのがクズ石と呼ばれるものだった。どうせ捨てるだけのあれならば、盗まれても気付かないだろう。
また現場にいる採掘師であればクズ石置き場にいても怪しまれない。ということで、メイソ公爵は、金の無さそうな採掘師に声をかける。さらに、脅すネタの一本や二本でも準備して彼を揺すれば、言うことを聞いてくれるだろう、と。それで目をつけられたのが可哀そうなことにブルースだった。彼は「この採掘現場を大きくしてやる」「逆らったらお前の両親を魔導具のための人体実験に使うぞ」と煽てられ、脅されて、仕方なくそれを引き受けた。
魔宝石およびクズ石の盗難は、ヘイデンが思い描いていた内容とほぼ同じ。そして、王都で起こった魔導具の爆発事件へと結びつく。
さて、メイソン侯爵の娘であるフリートであるが、父親同様、コンラット公爵家を憎んでいた。それはリューディアという娘があのモーゼフの婚約者の地位におさまっているから。いつも眼鏡をかけておどおどとしてパッとしないような娘であるのに、コンラット公爵家の娘という理由で婚約者に選ばれた、と思っていた。それはあながち嘘でもない。
だからフリートはモーゼフに近づき、彼を魅了して、リューディアとの婚約解消を狙った。結果、モーゼフはリューディアと婚約を解消する。それはフリートが望んだ結果であるが、その後の流れは少々芳しくない。彼にかけたはずの魅了の効果がたまに薄れるのか、モーゼフが正気に戻るときもあった。フリートはそうならないように、自身の魔法と魔導具を併用して、彼を常に魅了されている状態へと導いていたつもりだ。だが、彼女だって四六時中モーゼフと共にいるわけではない。
もしかしたら、魅了が薄れた時間があったのかもしれない。それが、最後の手際の良さに結びついたのかもしれない。それに関してはモーゼフが何も口にしないため、真相は不明のまま。
そして息子がそのような状態になっていたことに気付かなかった国王は、自分の不甲斐なさを恥じる。王城は、より一層警備が強化され、悪事を働いた者への罰も厳しくなる。
だから、最終的にメイソン侯爵とフリートにどのような罰がくだされるのか、今はまだわからない。
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