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第八章

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 あの日、ヘイデンが魔力を探っても魔力を感じなかったのは、相手が魔力無しの人間だったからだ。魔力消しの薬を飲まれていては面倒だな、と思っていたが、あれがブルースであったとしたら、納得はできる。

「はい……。エリックさんが、師長から、その、採掘量の資料の写しをもらったと聞いたので……。それで、その資料が表に出てしまったら、数年前からここの採掘量を誤魔化していたことが知られてしまうと思って……」

「なるほどな」
 腕を組んで話を聞いていたヘイデンは、一人納得する。ブルースの話に疑うべきところはない。辻褄は合っている。

「その……。オレはどうなるのでしょうか……」

 ブルースは自分の処分がどうなるのか、ということを気にしている。

「お前はクビだ」
 とヘイデンが言えば、ブルースの顔からさぁっと血の気が引いていく。
「と言いたいところだが。残念なことに採掘師たちの人数も足りていない。だからブルースの処分については、ガイルに任せたい。責任転嫁、かもしれないが。私に君の処分を下すことはできない」
 その言葉の意味を、ブルースは考えた。考えた結果。
「隊長……、ありがとうございます」

「礼を言うのはまだ早いぞ、この大馬鹿野郎」
 がつん、とガイルの拳がブルースの頭頂部に落ちる。

「お前は減給。二割引きだ」

「え。クビ、じゃないんですか?」

「だから、隊長さんも言っただろ? 俺たち採掘師も人手不足。新しく人を雇ったとしても、使えるようになるまで時間はかかる。俺たちだってお前を失いたくない。だけど、お前がやったこと、それは褒められたもんじゃないし、お咎め無しってわけにもいかない。だからお前はしばらく、給金二割引だ。今までと同じく稼ぎたいなら、今までの二割増しで働かねーとなんねーぞ?」

「働きます。しっかりとやります。ありがとうございます、ありがとうございます」

「てことで、隊長さん。ブルースの件は、これでいいか?」
 ヘイデンはふっと鼻で笑った。これこそ彼が望んでいた結果でもある。だが、彼がそれを口にしてしまえば、他の者たちへの示しがつかない。採掘師たちのことは採掘師たちに任せた方がいいというのがヘイデンの考えだった。

「ああ。ブルースのことはガイルに一任する。ブルース。寛大な処置を与えたガイルに感謝しつつ、これからも仕事に励め」

「はい。ありがとうございます、ありがとうございます」

「てことで、隊長さん。俺たちは、現場に戻っていいのか?」

「ああ。今日は時間を取らせて悪かったな。しっかりと頼むよ」

「任せとけ」
 ガイルが立ち上がると、ブルースの腕を引っ張り、彼を立たせる。ブルースは何度も頭を下げてから、会議室を出て行った。
 パタン、と会議室の扉が音を立てて閉じると、ヘイデンは深く息を吐いた。

「お兄さま。お茶でも淹れましょうか?」

「そうだな。あと、イルメリとエメレンス殿下も呼んできてもらえないか? この時間なら、事務所に戻ってきているだろう」

 はい、と頷いたリューディアは事務所へと足を向ける。
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