婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
上 下
39 / 57
第七章

しおりを挟む
◇◆◇◆

 次の日の朝。エメレンスは意を決しリューディアを迎えにいった。彼女はいつもイルメリとヘイデンと共に、現場まで歩いてくる。

「あら、エメレンス殿下。ナイスタイミング。助かったわ」
 イルメリが出てきた。
「ヘイデンは先に行ってしまったし、実は今、下の子の具合が悪くて。それで私は後から行こうかなと思っていたところだったの。でも、ディア一人で現場まで歩かせるのは不安で。ほら、事務所荒らしの件もあったでしょう? いくら魔法が使えるといっても、少し、ぼんやりとしているような子だから」

 この話を聞いたとき、エメレンスは思い切って行動に移してよかったと思った。

「ディア。エメレンス様がいらしてるわよ。早く準備していきなさい」

「あ、はい……」
 部屋の奥からリューディアの声が聞こえてきたのだが、それが慌てた様子にも聞きとれた。普段とは違う彼女を見ることができ、得した気分になったのは言うまでもない。
 バタバタと焦った様子で姿を現したリューディアは、いつも通りの彼女だった。しかし、普段の彼女と違うところが一つだけあって、それは彼女の目が点になっていたということ。
「レン……。今日は、どうされたのですか?」

「うん。ほら、事務所荒らしの件もあっただろう? だから、危ないと思って君を迎えにきたんだ」

「ディア。私はヴィルの様子をみてから事務所へ行くから、先に行ってなさい。せっかくエメレンス殿下が迎えに来て下さったのだから」
 どうやら、イルメリはエメレンスの味方のようだ、と彼は感じ取った。

「あ、はい。行ってまいります」

 いってらっしゃいと、イルメリは手を振って見送った。

「ヘイデンは、もう、事務所の方に行ってるの?」
 歩きながらエメレンスは尋ねた。
「あ、はい。事務所荒らしの件もありますし、それに例の爆発事故。魔宝石が原因で無かったといっても、クズ石が使われたことによる見解資料をまとめなければならないようで……。それに、部隊長としての仕事もあるみたいで。王都にも行かなきゃいけないようなことを口にしていました。だから、余計に忙しいのだと思います」

「そうか。ここの人手不足も深刻なんだね」

「ですが。例の崩落事故で怪我をされて休んでいた方たちも、少しずつ回復されているようで。もう少ししたら復帰できそうだと、お兄さまが言っておりました」

「そうか、それは良かった」
 そうなったらエメレンスは王都へと戻ることになるだろう。だが、リューディアはどうするのか。

 事務所の近くまで来ると、ちょうどエリックも出勤したところで二人に気付けば「おはようございます」と駆け寄ってきた。

「朝からリディアさんにお会いできるなんて、今日はついてるかも」

「おはようございます」
「おはよう」
 リューディアはいつもと同じように、エメレンスは不機嫌そうにエリックに挨拶を返す。

「ところで、リディアさん。リディアさんは、レンさんとお付き合いなさっているんですか?」

「え?」

「ほら。お二人は仲が良さそうですし。もし、そうでなければリディアさんにお付き合いを申し込もうかな、と思っていたので」
 あははは、と底抜けに明るい声で笑うエリックには、遠慮という言葉が存在しないのだろう。むしろ、あわよくばという気持ちがあるのか。

「えっ」

 リューディアは究極の選択を突き付けられたような気分だった。エメレンスと付き合っているか。答えはになるはずなのだが、そう答えてしまえばこのエリックから交際を申し込まれる、という流れになる。

「えぇっ」
 リューディアは返答の仕方に困って、「え」という言葉しか出てこなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

処理中です...