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第六章
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◇◆◇◆
次の日。ヘイデンとイルメリと共に事務所を訪れたリューディアは、その惨状に目を見開いてしまった。
「何、これ……」
と思わずイルメリも言葉を漏らしてしまうほど。
事務所内は荒らされていた。書類が散乱し、引き出しは開かれ。
「無くなったものが無いか、確認しながら片付けよう」
ヘイデンは言いながら、足元に転がっていた書類を一束拾い上げた。どうやら、餌に食いついてくれたようだ。
「悪いが今日は、王都から第一研究部がやってくることになっているんだ。それまでに、この荒らされた事務所を片付けて欲しい」
「わかりました」
リューディアとイルメリは、少しだけため息をついてから、事務所の片づけを始めた。しばらくすると、エメレンスとエリックもやって来て、さらに他の魔導士たちも姿を現し始めた。
「うわあ、何ですか、これ……」
エリックが呆れたように声を出す。この状況を見たら、呆れるしかないことはよくわかる。
「まあ。盗人が入ったようだな。ここには魔宝石なんかないのに、何のためにこの事務所を漁ったのか……」
ヘイデンはわざとらしくため息をついたが、誰もそのわざとらしさには気付かない。
「みんな、悪いが今日は第一研究部が視察のために、ここへやってくることになっている。それまでにここを片付けて欲しい」
全員が揃ったところで、ヘイデンは先ほどと同じようなことを口にした。魔導士たちは、はいはい、と不満そうに返事をしながらも、散らかっているものに手を伸ばす。
「すまないが、朝の現場の安全管理担当の者はそちらを優先させてくれ。残った者はここの片づけだ。まったく、この忙しい時に……」
とヘイデンは愚痴を漏らす。施錠はした。さらに侵入防止の魔法もかけた。それを破ってこの事務所に侵入したということは、相手もそれなりの者か、それなりの物を使って侵入したかのどちらか。
「わたくし、朝の現場の安全確認へ行ってまいります」
今日はリューディアが担当だった。
「あ、今日は僕も担当です。リディアさん、一緒に向かいます」
「はい。エリックさん、よろしくお願いします」
リューディアはエリックと共に事務所を出て、採掘現場の方へと向かった。だが、どこかエリックの態度がおかしいようだ。そわそわとしているような、わくわくとしているような。それに気付いたのはエメレンス。だが彼は今、この事務所を片付けるのが仕事であるため、リューディアとエリックが二人で並んで現場へ行く後姿を、うらめしそうに見つめることしかできなかった。
「いやはや、それにしても。事務所があんなになっていて、びっくりしましたよ」
「本当ですよね。お兄さまのことですから、施錠も侵入防止魔法もしっかりかけていたと思うのですが。近頃の盗人というのは、それすら破ってしまうような能力を持ち合わせているのですね。物騒な世の中になりましたね……」
「そうですね。こんな身近にいるのであれば、リディアさんも気を付けなければなりませんね」
そう答えるエリックを、リューディアは眼鏡の隙間からチラリと覗いた。エリックの様子がいつもと違うことに、リューディアはなんとなく気付いた。少し、浮かれているように見える。
現場に着くと、今日も屈強な採掘師たちが身体を動かしたくてうずうずと準備を始めていた。
「おはようございます、みなさん」
リューディアの澄んだ声が響く。
「今日も西側六区の採掘をお願いいたします。何か不審なところがありましたら、遠慮なくわたくしたちに教えてください」
「あいよー」
威勢の良い返事が響いた。
「エリックさん、わたくしたちも西側六区に向かいましょう。彼らが作業を始めてもいいか、確認をしなければなりませんから」
「そうですね」
エリックは微笑むと、リューディアの前に立って西側六区へと向かう。
ファイルを両腕に抱きかかえているリューディアはエリックの後ろをついていく。
西側六区に着くと、既に採掘師たちはすでに到着していて、工具の確認をし、自分たちの身支度を整えている。
昨日の帰る前にも点検したこの現場ではあるが、今日の作業でも問題の無いことをさらりと確認をする。法面に手を触れ魔力を這わせることで、危険個所を検知することができる。それが採掘を担当する魔導士たちの仕事の一つでもある。
「今日も大丈夫そうですね」
エリックが言えば、リューディアも頷く。それから抱えていたファイルを広げ、点検の結果を記載した。
「今日も安全第一でお願いします」
採掘師たちの背中に声をかけ、リューディアとエリックは事務所へと向かう。
「ところで今日。なんで第一研究部の方たちがこちらへ来るのかって。リディアさん、理由をご存知ですか?」
エリックが不思議そうに尋ねてきた。だが、尋ねる彼の頬はいつもより火照っているようにも見える。
「ええと。どうやら魔導具の爆発事故が起こったようで、その魔導具に使用されていたのがこちらで採掘された魔宝石のようなのです」
「ええ? ここの魔宝石が。そんなこと、あり得ないのに。それで現地視察っていうやつなんですね」
「そのようですね」
次の日。ヘイデンとイルメリと共に事務所を訪れたリューディアは、その惨状に目を見開いてしまった。
「何、これ……」
と思わずイルメリも言葉を漏らしてしまうほど。
事務所内は荒らされていた。書類が散乱し、引き出しは開かれ。
「無くなったものが無いか、確認しながら片付けよう」
ヘイデンは言いながら、足元に転がっていた書類を一束拾い上げた。どうやら、餌に食いついてくれたようだ。
「悪いが今日は、王都から第一研究部がやってくることになっているんだ。それまでに、この荒らされた事務所を片付けて欲しい」
「わかりました」
リューディアとイルメリは、少しだけため息をついてから、事務所の片づけを始めた。しばらくすると、エメレンスとエリックもやって来て、さらに他の魔導士たちも姿を現し始めた。
「うわあ、何ですか、これ……」
エリックが呆れたように声を出す。この状況を見たら、呆れるしかないことはよくわかる。
「まあ。盗人が入ったようだな。ここには魔宝石なんかないのに、何のためにこの事務所を漁ったのか……」
ヘイデンはわざとらしくため息をついたが、誰もそのわざとらしさには気付かない。
「みんな、悪いが今日は第一研究部が視察のために、ここへやってくることになっている。それまでにここを片付けて欲しい」
全員が揃ったところで、ヘイデンは先ほどと同じようなことを口にした。魔導士たちは、はいはい、と不満そうに返事をしながらも、散らかっているものに手を伸ばす。
「すまないが、朝の現場の安全管理担当の者はそちらを優先させてくれ。残った者はここの片づけだ。まったく、この忙しい時に……」
とヘイデンは愚痴を漏らす。施錠はした。さらに侵入防止の魔法もかけた。それを破ってこの事務所に侵入したということは、相手もそれなりの者か、それなりの物を使って侵入したかのどちらか。
「わたくし、朝の現場の安全確認へ行ってまいります」
今日はリューディアが担当だった。
「あ、今日は僕も担当です。リディアさん、一緒に向かいます」
「はい。エリックさん、よろしくお願いします」
リューディアはエリックと共に事務所を出て、採掘現場の方へと向かった。だが、どこかエリックの態度がおかしいようだ。そわそわとしているような、わくわくとしているような。それに気付いたのはエメレンス。だが彼は今、この事務所を片付けるのが仕事であるため、リューディアとエリックが二人で並んで現場へ行く後姿を、うらめしそうに見つめることしかできなかった。
「いやはや、それにしても。事務所があんなになっていて、びっくりしましたよ」
「本当ですよね。お兄さまのことですから、施錠も侵入防止魔法もしっかりかけていたと思うのですが。近頃の盗人というのは、それすら破ってしまうような能力を持ち合わせているのですね。物騒な世の中になりましたね……」
「そうですね。こんな身近にいるのであれば、リディアさんも気を付けなければなりませんね」
そう答えるエリックを、リューディアは眼鏡の隙間からチラリと覗いた。エリックの様子がいつもと違うことに、リューディアはなんとなく気付いた。少し、浮かれているように見える。
現場に着くと、今日も屈強な採掘師たちが身体を動かしたくてうずうずと準備を始めていた。
「おはようございます、みなさん」
リューディアの澄んだ声が響く。
「今日も西側六区の採掘をお願いいたします。何か不審なところがありましたら、遠慮なくわたくしたちに教えてください」
「あいよー」
威勢の良い返事が響いた。
「エリックさん、わたくしたちも西側六区に向かいましょう。彼らが作業を始めてもいいか、確認をしなければなりませんから」
「そうですね」
エリックは微笑むと、リューディアの前に立って西側六区へと向かう。
ファイルを両腕に抱きかかえているリューディアはエリックの後ろをついていく。
西側六区に着くと、既に採掘師たちはすでに到着していて、工具の確認をし、自分たちの身支度を整えている。
昨日の帰る前にも点検したこの現場ではあるが、今日の作業でも問題の無いことをさらりと確認をする。法面に手を触れ魔力を這わせることで、危険個所を検知することができる。それが採掘を担当する魔導士たちの仕事の一つでもある。
「今日も大丈夫そうですね」
エリックが言えば、リューディアも頷く。それから抱えていたファイルを広げ、点検の結果を記載した。
「今日も安全第一でお願いします」
採掘師たちの背中に声をかけ、リューディアとエリックは事務所へと向かう。
「ところで今日。なんで第一研究部の方たちがこちらへ来るのかって。リディアさん、理由をご存知ですか?」
エリックが不思議そうに尋ねてきた。だが、尋ねる彼の頬はいつもより火照っているようにも見える。
「ええと。どうやら魔導具の爆発事故が起こったようで、その魔導具に使用されていたのがこちらで採掘された魔宝石のようなのです」
「ええ? ここの魔宝石が。そんなこと、あり得ないのに。それで現地視察っていうやつなんですね」
「そのようですね」
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