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第五章

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 二人は採掘場の東の第六区へと移動した。ここは以前、崩落を起こした現場。人手不足の採鉱担当に、リューディアとエメレンスが来て、なんとかここの安全確認が済んだところ。
「現場の確認をしたときも思ったけれど、ここの崩落の仕方は酷いよね」
 フードを深くかぶったエメレンスが言う。

「はい、あそこにもまだ崩れたままの岩盤がありますからね」
 同じようにフードを深くかぶっているリューディア。一度崩落が起きた場所でもあるため、頭上から何が落ちてくるかはわからないから、気を引き締めていけと、ヘイデンからは言われている。その際は、すかさず防御魔法を使いますと口にしたエメレンスであるが、その咄嗟の判断ができるかどうかというものは別物。

「ここの崩れ方が酷いね」
 崩れた場所に手を触れながらエメレンスが言う。
「まずは、崩れた箇所を記録していった方がいいですよね」

「そうだね」

 ファイルを手にしているリューディアが、崩落の起こった場所を丁寧に記録していく。エメレンスは見て、触れて、崩落の規模を確認する。これを全て確認するためには、十日程の時間が必要となりそうだ。それは他の仕事もあるため。

「ん?」
 崩落した法面に手を触れたエメレンスが顔を曇らせる。
「レン、どうかしましたか?」

「ちょっと。ここなんだけど……」
 エメレンスの言うにリューディアも手で触れる。

「ディアなら感じるでしょう? 残留魔力を」

 エメレンスの問いにリューディアは頷いた。崩れた箇所に手を触れた時、そこから魔力を感じたからだ。それは何かしら魔法が発動した証で、こうやって発動後も残っている魔力のことを残留魔力と呼ぶ。これを検知できる魔導士の数は多くは無い、魔力の強い上級魔導士のみ。

「つまり、誰かが意図的にこの現場の崩落を引き起こしたということですか?」

 リューディアは驚いてエメレンスを見上げる。

「そういうことになるだろうね」

「何のために?」
 リューディアは首を傾げる。

「それは、これを引き起こした人間に聞かないとわからないけれど、恐らく、この採掘を面白くないと思っている人がいるんだろうね」

「レンには心当たりがあるのですか? そういった人物に」

「あると言えばあるし、ないと言えばないし。あまり不確かな情報でディアを混乱させたくはないけれど、君は賢いから心配はないかな」
 そこでエメレンスがにっこりと微笑んだため、リューディアはもう一度首を傾げた。

「なぜ、ヘイデンがこの現場に派遣されて、ここで仕事をしているのか。ディアはわかってる?」

 首を横に振る。なぜ兄がここに来ているのか。それは、魔宝石を採掘するためだと思っている。だからそれ以上の深い理由は知らない。

「一時期、この現場で採掘できる魔宝石の量が減ったんだ」

「ですが、減るような要因はありませんよね。それは今も同じだと思うのですが」

「そう。実際の採掘量は減っていない。だけど、報告にあがってくる採掘量が減っている。それがどういうことを意味しているのか、わかるかい?」

「ええと。虚偽の報告。実際の量を少なく見せることで、差し引いた分を手元に残しておく、とかですか?」

「その通り」

「それが過去、行われていたということですか?」

「まだ、はっきりと断定はできないけれど。そうである、とボクは思っているし。恐らくヘイデンもそうだと思う」

 リューディアは唇を噛みしめる。採掘師たちが危険と隣り合わせの現場で掘った魔宝石を横流ししていた人物がいた、ということが許せない。

「恐らくヘイデンは過去の帳簿なども確認して、それが行われた証拠を探しているはずだ。だけど、相手だってわざわざ証拠を残すようなことはしないだろう。どこかに隠しているか、燃やしたか、もしくは持って帰ったか……」

「過去、採掘師たちが採掘した記録があればいいのですよね。それがこの現場でなくても、採掘師たちの誰かが持っていたとしたら、どうでしょう」

「それが正しい数値であるなら証拠になるだろうね。報告にあげる前の下書きの資料でも欲しいと思っている」

「まずは、お兄さまにこの残留魔力の件を相談しましょう。過去の不正を暴くのはそれからですね」

「そうだね。今日、調べるべきところは調べてしまおう。やることをやってから、次の作戦だ」

 エメレンスの明るい声が、リューディアの背中を押した。
 崩落が起きた現場の調査をすすめるうちに、どうやらこの崩落は意図的に起こされたものであることを二人は確信した。間違いない。
 至る所で感じる残留魔力。そして、その崩落で現場を離れてしまった魔導士たち。屈強な採掘師たちはここに残って採掘を続けてくれているが、彼らだって常に危険と隣り合わせだ。それを少しでも低減させるために、リューディアたちが奔走しているためか、今のところ、リューディアがこちらに来てからは誰一人怪我をしていない。ただ、働き者のガイルがたまに倒れてしまうくらいで。
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