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第五章

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 陽が沈み始める夕方。やっとこの現場での仕事が終わる。
 ヘイデンはエメレンスのことをこの現場で働く採掘師や魔導士たちに、新しい仲間であると紹介した。レンと名乗る彼が、まさかこのリンゼイ王国の第二王子であることに誰も気付かない様子だった。屈強な採掘師たちからすれば、また線の細い男がきたな、という印象ではあるようだが、それでも魔導士と採掘師たちの関係が改善しているのはヘイデンのおおかげでもあるし、何気に影の功労者はリューディアであったりもする。

「レン……は、どちらに住んでいるのですか?」
 現場からの帰り道。
 リューディアはエメレンスと並んで歩いていた。この採掘現場から官舎までは歩いて五分の距離。
「ボクも官舎だよ。だけど恥ずかしいことにまだ、自分の身の回りの世話はできないからね、向こうから使用人も連れてきたんだ」
 それが本当に恥ずかしいのか、エメレンスは少し俯いた。
「そうなのですね。わたくしも、お兄さまたちと一緒に官舎の方で暮らしております。本当にこちらに来てからは、何でも自分でやらなければならなくて」
 ここに来た初日。あのガイルから白くてきれいな手と評されたその手は、今ではだいぶしっかりとしてきて手の皮も厚くなってきている。

「ディア、君は変わってしまったね」

「そう、でしょうか?」

「うん、強くなった。それに、綺麗になったよ」

 それは今日、リューディアと再会して最初に感じたこと。だけど、リューディアはその言葉を耳にした途端、顔を真っ赤にして俯いてしまう。眼鏡が落ちないようにと、しっかりとかけ直しているようだ。

「でもね、ディア。前にも言ったと思うけれど、美醜感覚というのは人それぞれだから。もしかしたら、兄上のようにディアの顔を好まない人もいるかもしれない。だからね、絶対にその眼鏡を外してはいけないよ。その眼鏡は、君をそう言った心無い人たちから守ってくれるからね」

「はい、ありがとうございます……。ところで、レン。その、モーゼフさまはお元気でいらっしゃいますか?」

 リューディアの口から兄の名が出たことで、エメレンスの心にはチクっと針が刺さったような痛みが走った。

「あ、うん。元気だよ。最近は、その、運命の出会いをしたとか叫んでいて。その女性と婚約しようとしているみたい。だけど、父と母は反対していてね。なんか、よくわからないんだよね、その相手の女性」

「そう、だったのですね。モーゼフさまは、わたくしにもそのようなことをおっしゃっていたのですが。まだ、その運命の方とはご一緒になられていない、と」

「うーん、兄上のことだからね。もしかしたら、その運命の女性に騙されて……。あ、いや、何でもない」

 単純で素直なモーゼフのことだから、あの女性に騙されているのではないかということをエメレンスは懸念しているのだが、何もそれをわざわざリューディアに教える必要も無いだろう、と思っていた。モーゼフのことはこちら側の問題であって、リューディアにはもう関係のない話なのだ。

「うん、まあ、あ、うん。とにかく兄上は元気だよ」

 その一言で誤魔化した。
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