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第二章

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「まあ、採掘部隊が人手不足に陥ると、魔宝石原石の採掘量が減るわね。それが減るとどうなるか、魔導具製作にも影響が出る。となると、人々の生活にも影響が出る。今まで使うことができた魔導具が使えなくなる。不便よね」

「そう、ですね」

「だからね、ディア。そうならないように、私たちの仕事、魔宝石原石の採掘を手伝ってもらえないかしら?」
 ずん、とイルメリが身を乗り出してきた。

「ですが……」
 とすぐに否定の形に入ってしまうのがリューディアという娘。

「ねえ、ディア。いつまでもこの屋敷の中に閉じこもっていてはいけないわ。あなたは才能がある子。あなたの助けを必要としている人たちもいるのよ。って、それが私たちなんだけど」
 うんうん、とヘイデンがイルメリの言葉に大げさに頷く。
 イルメリはリューディアの両手を優しく包み込んだ。イルメリの手は、リューディアの手とは違い、働き者の手だ。リューディアはこの手も好きだった。

「もし、ディアが自分の顔を理由に躊躇っているのであれば、魔導士団はあなたの顔を気にしない人の集まりであることっていうことを伝えておくわ。あの人たち、他人に興味が無いから」
 他人に興味が無い、という言葉でリューディアの身体がぴくりと震えた。なんて魅力的な言葉だろう。

「それに、魔導士団のローブにはフードもついているのよ。それは、採掘現場で落下物などから頭を守る役目もあるんだけれど。深くかぶれば顔も良く見えないの。それから、あの採掘場で働く採掘師たちも、自分たちのことで手いっぱいだから、他人なんてどうでもいい人たちの集まりなのよ」
 それを開けてみて、と義姉が指し示したのは先ほどリューディアに誕生日プレゼントとして手渡したもの。リューディアは膝の上にそのプレゼントをのせると、ゆっくりと包みを開ける。

「これは……」

「魔導士団のローブよ。絶対に、ディアに似合うわ。ねえ、お願い。あなたのその能力ちからを私たちのために貸して欲しい。私たち、ではなくこの国の民たちのために」

「民たちのために?」

「そう。民たちのために」

 心優しいリューディアは、恐らくこの言葉に弱いだろう。というのが義姉の考え。
 すっとイルメリは立ち上がり、彼女にプレゼントしたローブを手にして、それを広げる。
「ねえ、ディア。これを着てみて。絶対、あなたに似合う」

 無理矢理ローブを押し付けられたリューディアも立ち上がった。義姉にここまで言われたらという思いと、民たちの役に立ちたいという思いと。二つの思いがリューディアの心の中でマーブル模様になって渦巻いている。
「ローブの下は好きな服を着ていいのよ。女性だとワンピースの人もいるし、シャツとトラウザースの人もいるし。なんでもいいの」

「お義姉さまは?」

「私? 私はもちろん、動きやすい方よ」

 言いながらもイルメリは、リューディアにそのローブを羽織らせた。真っ黒いローブでありながら、どこか気品を感じさせるのはリューディア自身がそれを持っているからだろう。

「採掘現場は危険も伴うから、魔導士たちはこのフードも被るのよ。そしてこうすれば、顔はよく見えないでしょ?」

「このような状態で、どの人が誰かってわかるのですか?」
 皆、同じような黒いローブを羽織り、フードを被っていたら、魔導士団の人間の区別がつかないのではないだろうか、というのがリューディアの質問だ。

「ええ、そうね。普通の人だったら、簡単に見分けることができないわね。だけど、私たちは個人の魔力を探るから大丈夫よ」

「魔力を探る?」

「ええ。ディアはそこまでは教えてもらっていないのかしら?」

 はい、とリューディアは頷いた。すると、イルメリは嬉しそうに微笑んで。
「だったら、私たちが教えてあげるわ。だから、ディア。魔導士団で働かない?」
 イルメリはこの義妹が「はい」と言うまで、しつこく誘うつもりだった。むしろ「はい」という答えをもらうまではここから立ち去る気も無い。

「ディア。俺たちと一緒に働いて欲しい。民たちのために」
 民たちのために、という兄からの止めの一発に背中を押されたのか、リューディアは首を縦に振っていた。

「本当に? ディア」
 普段より高い声で喜んだのはイルメリ。
「はい。こんなわたくしでも、みなさんの役に立つことができるのであれば、と……」

「ありがとう」
 この日リューディアは、二度目の熱い抱擁を義姉から受けた。
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