8 / 57
第二章
1
しおりを挟む
コンラット公爵は不機嫌だった。不機嫌である故、目の前に国王陛下というこの国の一番偉い人がいても腕を組んで足を組んで、彼を拒絶するような態度をくずさない。
「この度は、大変申し訳ない」
と謝罪しているのが国王陛下というこの状況。
だが、不機嫌なコンラット公爵であっても、目の前の国王陛下がこのような態度をとってしまえば「陛下、頭をあげてください」としか言いようがなかった。
「ですが、我が娘リューディアは非常に傷ついております。やはり、娘と殿下の婚約は無かったことにしていただきたい」
「それは……」
国王は言い淀む。
先日、このコンラット公爵家に、この国の第一王子であるモーゼフから婚約解消手続きの書類が一方的に送られてきた。リューディアと第二王子であるエメレンスから先日の出来事を聞いていた公爵ではあるが、このような書類が本当に届くとは思ってもいなかったし、一方的に送られてきて「はい、そうですか。わかりました。サインします」といえるような内容でもない。
きちんと国王から話を聞かねばならないと思った矢先、真っ青な顔をした国王の使いが飛ぶようにしてやって来たのだ。
その結果、現在に至る。
「モーゼフ殿下のお望みをそのまま受け入れます。それで、よろしいですよね?」
コンラット公爵のこの言葉には、有無を言わせぬ重みがあった。
国王としてはコンラット家との繋がりと持っておきたいところ。そのため、二人を婚約させたのだが。
「リューディアがモーゼフ殿下と婚約してそろそろ十八年。十八年もそのような状況であれば、お互い、何かしら惹かれる部分があるのだろうと思っておりました。ですが、残念ながらそうならなかった。挙句、殿下はリューディアとの婚約解消を望んでいる。そんな二人が結婚をして、幸せになるとお思いですか? 国のためにと決めた婚約ではありますが、できれば娘には幸せになってもらいたいという親心くらい、私にだってあります」
それを言うならば、国王だって息子であるモーゼフには幸せになってもらいたい。自分たちのように、いつかは二人で愛を育んでもらえたら、と思っていた。リューディアは控えめで自分の立場をわきまえている聡明な女性だ。普段は眼鏡をかけて生活をしているようだが、その眼鏡姿からは知的さを感じる。
リューディアは王太子妃教育も受けていた。それはモーゼフが二十歳の誕生日に立太子することが決まっていたからで、その後、二人は結婚する予定であったからだ。
そしてそのリューディアは王太子妃教育も熱心に受けていた。元々、勉強をすることが嫌いな彼女ではないらしい。だが、当の本人が引きこもりであるため、家庭教師をこのコンラット公爵家に派遣していた。家庭教師からあがってくる報告の内容も、引きこもりという点を除けば、素晴らしいものだった。
リューディアに高まる周囲からの期待。だが、残念ながら息子であるモーゼフの方はそうではなかったらしい。十八年という期間を婚約という期間に費やしたにも関わらず、残念ながらリューディアとの間に愛は生まれなかった、ということだ。
「う、うむ。そうだな……。二人のことを考えれば、この婚約は無かったことにしたほうがいいのかもしれないなぁ……」
国王も言い淀む。本音を言えば、二人の婚約を解消させたくない。せっかく強固となりつつあった王族と魔法公爵家の繋がり。さらに、リューディアが王族の子を産んだとなれば、その強大な魔力が王族にも引き継がれるだろうという期待。優秀な王太子妃。
だが、二人の気持ちを考えれば自ずと答えは見えてくる。国王だって鬼ではない。嫌がる者同士をくっつけて、まして双方がこの国の新しい未来を作り上げていく者たちだとしたら。
「二人のためにも、モーゼフとリューディア嬢の婚約は、解消させよう……。その、まあ、あれ、だ。リューディア嬢の結婚に関しては、今後とも悪いようにはしない。いい縁談があったら、取り持ちたい。そう、思っている」
「陛下の英断に感謝申し上げます」
こうして、リンゼイ王国第一王子であるモーゼフと三大魔法公爵家の一つコンラット家のリューディアとの婚約は、正式に解消された。
となれば、リューディアと結婚や婚約をしたい、させたいという輩は少なからずいるもので。これ以降、少々コンラット公爵の周辺は騒がしくなる。
当のリューディアはというと、その騒がしさによって引きこもりに一層磨きがかかり、屋敷から出ても敷地内にある庭園まで、という状態に陥っていた。
「この度は、大変申し訳ない」
と謝罪しているのが国王陛下というこの状況。
だが、不機嫌なコンラット公爵であっても、目の前の国王陛下がこのような態度をとってしまえば「陛下、頭をあげてください」としか言いようがなかった。
「ですが、我が娘リューディアは非常に傷ついております。やはり、娘と殿下の婚約は無かったことにしていただきたい」
「それは……」
国王は言い淀む。
先日、このコンラット公爵家に、この国の第一王子であるモーゼフから婚約解消手続きの書類が一方的に送られてきた。リューディアと第二王子であるエメレンスから先日の出来事を聞いていた公爵ではあるが、このような書類が本当に届くとは思ってもいなかったし、一方的に送られてきて「はい、そうですか。わかりました。サインします」といえるような内容でもない。
きちんと国王から話を聞かねばならないと思った矢先、真っ青な顔をした国王の使いが飛ぶようにしてやって来たのだ。
その結果、現在に至る。
「モーゼフ殿下のお望みをそのまま受け入れます。それで、よろしいですよね?」
コンラット公爵のこの言葉には、有無を言わせぬ重みがあった。
国王としてはコンラット家との繋がりと持っておきたいところ。そのため、二人を婚約させたのだが。
「リューディアがモーゼフ殿下と婚約してそろそろ十八年。十八年もそのような状況であれば、お互い、何かしら惹かれる部分があるのだろうと思っておりました。ですが、残念ながらそうならなかった。挙句、殿下はリューディアとの婚約解消を望んでいる。そんな二人が結婚をして、幸せになるとお思いですか? 国のためにと決めた婚約ではありますが、できれば娘には幸せになってもらいたいという親心くらい、私にだってあります」
それを言うならば、国王だって息子であるモーゼフには幸せになってもらいたい。自分たちのように、いつかは二人で愛を育んでもらえたら、と思っていた。リューディアは控えめで自分の立場をわきまえている聡明な女性だ。普段は眼鏡をかけて生活をしているようだが、その眼鏡姿からは知的さを感じる。
リューディアは王太子妃教育も受けていた。それはモーゼフが二十歳の誕生日に立太子することが決まっていたからで、その後、二人は結婚する予定であったからだ。
そしてそのリューディアは王太子妃教育も熱心に受けていた。元々、勉強をすることが嫌いな彼女ではないらしい。だが、当の本人が引きこもりであるため、家庭教師をこのコンラット公爵家に派遣していた。家庭教師からあがってくる報告の内容も、引きこもりという点を除けば、素晴らしいものだった。
リューディアに高まる周囲からの期待。だが、残念ながら息子であるモーゼフの方はそうではなかったらしい。十八年という期間を婚約という期間に費やしたにも関わらず、残念ながらリューディアとの間に愛は生まれなかった、ということだ。
「う、うむ。そうだな……。二人のことを考えれば、この婚約は無かったことにしたほうがいいのかもしれないなぁ……」
国王も言い淀む。本音を言えば、二人の婚約を解消させたくない。せっかく強固となりつつあった王族と魔法公爵家の繋がり。さらに、リューディアが王族の子を産んだとなれば、その強大な魔力が王族にも引き継がれるだろうという期待。優秀な王太子妃。
だが、二人の気持ちを考えれば自ずと答えは見えてくる。国王だって鬼ではない。嫌がる者同士をくっつけて、まして双方がこの国の新しい未来を作り上げていく者たちだとしたら。
「二人のためにも、モーゼフとリューディア嬢の婚約は、解消させよう……。その、まあ、あれ、だ。リューディア嬢の結婚に関しては、今後とも悪いようにはしない。いい縁談があったら、取り持ちたい。そう、思っている」
「陛下の英断に感謝申し上げます」
こうして、リンゼイ王国第一王子であるモーゼフと三大魔法公爵家の一つコンラット家のリューディアとの婚約は、正式に解消された。
となれば、リューディアと結婚や婚約をしたい、させたいという輩は少なからずいるもので。これ以降、少々コンラット公爵の周辺は騒がしくなる。
当のリューディアはというと、その騒がしさによって引きこもりに一層磨きがかかり、屋敷から出ても敷地内にある庭園まで、という状態に陥っていた。
13
お気に入りに追加
1,071
あなたにおすすめの小説
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
捨てたのは、そちら
夏笆(なつは)
恋愛
トルッツィ伯爵家の跡取り娘であるアダルジーザには、前世、前々世の記憶がある。
そして、その二回とも婚約者であったイラーリオ・サリーニ伯爵令息に、婚約を解消されていた。
理由は、イラーリオが、トルッツィ家よりも格上の家に婿入りを望まれたから。
「だったら、今回は最初から婚約しなければいいのよ!」
そう思い、イラーリオとの顔合わせに臨んだアダルジーザは、先手を取られ叫ばれる。
「トルッツィ伯爵令嬢。どうせ最後に捨てるのなら、最初から婚約などしないでいただきたい!」
「は?何を言っているの?サリーニ伯爵令息。捨てるのは、貴方の方じゃない!」
さて、この顔合わせ、どうなる?
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる