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第二章

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 コンラット公爵は不機嫌だった。不機嫌である故、目の前に国王陛下というこの国の一番偉い人がいても腕を組んで足を組んで、彼を拒絶するような態度をくずさない。

「この度は、大変申し訳ない」
 と謝罪しているのが国王陛下というこの状況。

 だが、不機嫌なコンラット公爵であっても、目の前の国王陛下がこのような態度をとってしまえば「陛下、頭をあげてください」としか言いようがなかった。
「ですが、我が娘リューディアは非常に傷ついております。やはり、娘と殿下の婚約は無かったことにしていただきたい」

「それは……」
 国王は言い淀む。

 先日、このコンラット公爵家に、この国の第一王子であるモーゼフから婚約解消手続きの書類が一方的に送られてきた。リューディアと第二王子であるエメレンスから先日の出来事を聞いていた公爵ではあるが、このような書類が本当に届くとは思ってもいなかったし、一方的に送られてきて「はい、そうですか。わかりました。サインします」といえるような内容でもない。
 きちんと国王から話を聞かねばならないと思った矢先、真っ青な顔をした国王の使いが飛ぶようにしてやって来たのだ。
 その結果、現在に至る。

「モーゼフ殿下のお望みをそのまま受け入れます。それで、よろしいですよね?」
 コンラット公爵のこの言葉には、有無を言わせぬ重みがあった。
 国王としてはコンラット家との繋がりと持っておきたいところ。そのため、二人を婚約させたのだが。
「リューディアがモーゼフ殿下と婚約してそろそろ十八年。十八年もそのような状況であれば、お互い、何かしら惹かれる部分があるのだろうと思っておりました。ですが、残念ながらそうならなかった。挙句、殿下はリューディアとの婚約解消を望んでいる。そんな二人が結婚をして、幸せになるとお思いですか? 国のためにと決めた婚約ではありますが、できれば娘には幸せになってもらいたいという親心くらい、私にだってあります」

 それを言うならば、国王だって息子であるモーゼフには幸せになってもらいたい。自分たちのように、いつかは二人で愛を育んでもらえたら、と思っていた。リューディアは控えめで自分の立場をわきまえている聡明な女性だ。普段は眼鏡をかけて生活をしているようだが、その眼鏡姿からは知的さを感じる。
 リューディアは王太子妃教育も受けていた。それはモーゼフが二十歳の誕生日に立太子することが決まっていたからで、その後、二人は結婚する予定であったからだ。
 そしてそのリューディアは王太子妃教育も熱心に受けていた。元々、勉強をすることが嫌いな彼女ではないらしい。だが、当の本人が引きこもりであるため、家庭教師をこのコンラット公爵家に派遣していた。家庭教師からあがってくる報告の内容も、引きこもりという点を除けば、素晴らしいものだった。
 リューディアに高まる周囲からの期待。だが、残念ながら息子であるモーゼフの方はそうではなかったらしい。十八年という期間を婚約という期間に費やしたにも関わらず、残念ながらリューディアとの間に愛は生まれなかった、ということだ。

「う、うむ。そうだな……。二人のことを考えれば、この婚約は無かったことにしたほうがいいのかもしれないなぁ……」
 国王も言い淀む。本音を言えば、二人の婚約を解消させたくない。せっかく強固となりつつあった王族と魔法公爵家の繋がり。さらに、リューディアが王族の子を産んだとなれば、その強大な魔力が王族にも引き継がれるだろうという期待。優秀な王太子妃。
 だが、二人の気持ちを考えれば自ずと答えは見えてくる。国王だって鬼ではない。嫌がる者同士をくっつけて、まして双方がこの国の新しい未来を作り上げていく者たちだとしたら。

「二人のためにも、モーゼフとリューディア嬢の婚約は、解消させよう……。その、まあ、あれ、だ。リューディア嬢の結婚に関しては、今後とも悪いようにはしない。いい縁談があったら、取り持ちたい。そう、思っている」

「陛下の英断に感謝申し上げます」

 こうして、リンゼイ王国第一王子であるモーゼフと三大魔法公爵家の一つコンラット家のリューディアとの婚約は、正式に解消された。
 となれば、リューディアと結婚や婚約をしたい、させたいという輩は少なからずいるもので。これ以降、少々コンラット公爵の周辺は騒がしくなる。
 当のリューディアはというと、その騒がしさによって引きこもりに一層磨きがかかり、屋敷から出ても敷地内にある庭園まで、という状態に陥っていた。
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